梟塚妖奇譚 ・ 火車 【拾参】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

柚原の言葉に真っ先に反応したのはぼくではなく葛城だった。

葛城はいつものように赤茶縁メガネの位置を右の人差し指の第二関節で直し、柚原とぼくの顔を交互に覗き込んだ。

ぼくは胸の前で両手を小さく振って解らないという意思を示した。


「どういうこと」

「確信はないよ」

「二つの異なる出来事ってなに」

「確信はないし、変に不安にさせるのは嫌だから」

「言って」

「ぼくは仮説を立てただけで…」

「言ってよ」


葛城は口調を強めて柚原に詰め寄った。

柚原は顎を引いて、一歩も譲らなかった。


「…言えない」


かたくなな柚原の態度に、葛城は唇を尖らせたまま顎を上にあげて対抗した。

彼女はイライラしたときよくこうする。

ぼくは黙って二人の様子をただ眺めていた。

当事者であるぼくが置いてきぼりになっていることに違和感を覚えたからだ。

やがて葛城は尖らせた唇からゆっくりと息を吐いた。


「真実から目を逸らそうとしたらだめだよ、千昭くん」

「真実じゃなくて仮説だよ」

「じゃあ、それを真実にしに行こうよ。

 千昭くん、それならいいでしょ。
 
 今から一緒に潮見くん家に行って検証して、それで話せるなら続きを教えて」


柚原は困ったように首をかしげた。

葛城が上目づかいでぼくをキッと睨んだ。

ぼくは彼女の意図を解っていてあえて目をそらした。

黒い雲が彼方空に見える。

これは一雨きそうだ。

家に着くまでに間に合えばいいのだが、とぼくは思っていた。

そんなことも露知らず、蝉たちは鳴き続けていた。


「私たちは千昭くんのことを嘘つきなんて言わないから」


柚原の方を見ると彼も僕と同じように遠くの空のどす黒い雲を見つめていた。

彼は鼻の頭に力を入れていて、いわゆるしかめっ面というやつだったが、不快を示すそれとは少し違った感じがした。


「千昭くんも自転車だよね。潮見くん、さあ案内して」


葛城はぼくの背を押し、もう片方の手は柚原の腕をつかんでいた。

漫画のような光景だった。

話は、柚原はおろか当の本人であるぼくにすら確認を取らず進んでいた。


「さあ、急がないと雨雲がきちゃうよ」


実際には、ぼくたちは雨雲に向かって進むのだが。

そんなことよりも、ぼくは柚原の空を見ていた時の覚悟を決めたような目の方が気になっていた。



梟印1