梟塚妖奇譚 ・ 火車 【九】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

ぼくは玄関の懐中電灯を手に取り、カチカチと数回オンオフを繰り返してライトが点灯することを確認した。

アディダスのスニーカーをはいて玄関を出たぼくは、中庭へと向かった。

中庭に面した石塀の一角、低い瓦屋根をくぐると階段が見える。

母屋の二階に行くには、この階段を上がり、短い渡り廊下を進むしかない。

階段を上がる前に脇に立てかけてあった古い角材を手に取った。

一回使い切りの感は否めないが、念のためだ。

何も持たないよりは幾分マシだろうとぼくは考えた。


ゆっくり、確かめるように階段を上がっていった。

アディダスのスニーカーの白いゴム底と、古くなった木造の階段とが擦れ合い、不気味な音を立てた。

それがぼくの心臓の鼓動と同調して、さらに足取りが重くなった。

階段を上りきると廊下は二手に分かれる。

右は蔵の屋根裏へと続いている。

廊下は途中から縁側のようになっていて、その目の前はかつてスイカ畑だったが、今では一帯ぼくと父さんで植えた向日葵が広がっているはずだ。

ぼくは夕日を背にして、廊下を左へと進んだ。

天井の電球はとうの昔に切れている。

懐中電灯のスイッチを入れ、廊下の先を照らす。

その先をさらに左に曲がると二階へつながる扉となる。

深く息を吐き、角を曲がる。

すりガラスの小窓の付いた引き戸が見える。

懐中電灯を右手に持ち替え戸に手を掛ける。

左の脇から冷や汗がゆっくり伝い、流れる。

鳥肌が立つ。

体が硬直する。

ただ、足だけ微かに揺れているのがわかる。

これは武者震いだと、ぼくはぼく自身に言い聞かせた。

不意に背後が気になり、振り返る。

視界の隅には向日葵畑へと続く廊下 、その向こうに紫の夕日が見えた気がした。


ぼくは、手を掛けていた戸をなるべく静かに引いた。



梟印1