梟塚妖奇譚 ・ 火車 【八】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

昨日の出来事だ。

コツコツという無機質な音で目が覚めた。


正確な時刻はわからない。

紫の夕焼けがぼくを包み込んでいた。

微睡の中にいるぼくは神経の伝達が正常に行えず、故にぼくは体を起こそうともせず畳の上で再び目を閉じた。

外では日が落ちかけているにもかかわらず、蝉たちが元気に鳴き続けている。

背中にじんわりと汗を感じた。

蝉の鳴き声は、夏の暑さの増幅作用を有する。

これはぼくの持論だ。


ふと、なぜ目覚めたのか考えていた。

何かを聞いたのだ。

確かに蝉の鳴き声はうるさい。

でもぼくが目覚めたのは蝉の鳴き声が原因ではないことは確かだ。

もしそうだとしたら、ぼくの寝起きは最悪だったはずだ。


そっと息を潜めた。

意識を集中させると蝉の鳴き声は次第に小さくなり、それはやがて僕の耳に届いた。


コツコツ、音が聞こえる。


ぼくは体をそのままに目を開き、辺りを見回してみる。

その無機質な音がどこから聞こえてくるのか、耳に全神経を集中させ探った。

二階か。

どうやらその音は天井から聞こえてくるようだ。

三階建てのこの屋敷には廃屋同然の二階がある。

祖父母が健在の頃は養蚕に使われていた二階も、手入れされていない現在では荒れ放題である。

最後に二階に上がったのはいつだろう、と考えてみた。

そして小学生の頃、友介、光一と共に探検を意気込んだものの、一歩足を踏み入れた途端底が抜けそうになったことを思い出した。

結局二階には入れず仕舞いで退散。

ぼくの記憶ではそれが最初で最後だ。


状況を整理してみる。

今も聞こえてくるこの無機質な音の正体は一体何か。

真っ先に考え付いたのは、誰かが二階いる、という可能性。

父さんか、もしくは侵入者か。

しかしそれはあり得ない、除外した。

なぜなら小学生だったぼくが一歩足を踏み入れただけで底抜け掛けた床の状態だ。

大人が入れる可能性は低い。


寝ぼけた頭と体を奮い立たせ起き上がり、玄関へと向かった。

玄関から外を覗いてみたが、そこに車はない。

父さんはまだ帰っていない。

いや、もちろん大人とは限らない。

侵入者は小学校低学年かもしれないし、幼稚園児かもしれない。


そしてそう、動物かもしれない。


ぼくは帰宅したとき、金色の猫が中庭に佇んでいたことを思い出していた。



梟印1