梟塚妖奇譚 ・ 火車 【伍】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

夏休みまで今日を入れてあと二日だ。


ぼくは寝不足の頭でいつものように自転車に跨り、学校へと向かった。

明日は終業式だから、一学期の授業自体は今日が最後となる。



今日の朝食は父さんの当番だった。

だがそれは名ばかりの朝食当番で、実際作るものといったら大抵は味噌汁のみだ。

今日父さんが作ったのは、特製の馬鈴薯の味噌汁のみで、後はご飯と漬物。

朝食を食べながらぼくたちは祖母の十七回忌の話をした。

ぼくの夏休みが始まって間もなくのことなので、今のうちにできることから準備を始めようとのことだった。

そういう話をしただけで、どちらが何を準備するとか、役割は特に決めなかったのだが。


いつものコースをいつもの時間にぼくは自転車を走らせていた。

ここまでは順調。

夏休みを目前にして厄介事は御免である。

しかし、厄介事とは来て欲しくないと思う日に限ってやってくるものなのだ。

そしてそれは、

「潮見くんも手伝ってよ」

葛城玲である。

無論、彼女の言う「潮見くん」とは僕のことだろう。

このクラスに「潮見くん」は一人しかいない。

短縮の三時限目が終わり、帰宅の準備を整え終わり、さて帰ろうかという時だった。

明日の終業式後のホームルームで配布する資料を、今日のうちに教室に運んでおくという、つまりは肉体労働を葛城はぼくに依頼してきたのだ。

クラス長の葛城が担任に頼まれたのだが、担任曰く、如何せん量が多いのだという。

葛城の後ろには柚原千昭もいる。

彼もぼく同様、葛城に肉体労働を強要されたのだろう。

いや、柚原にとっては強要ではなく、単なる依頼かもしれない。

しかし、もしこの三人でとなると、奇妙な組み合わせである。

ちなみにぼくは夏休みを目前として、入学してから三か月以上経過した今現在、柚原と一度も会話を交わしたことがない。

葛城はそれを知ってあえて、というわけでもなさそうだ。


クラスメイトが次々と教室を後にする。

その中には何か物言いたげに憐れみの視線をぼくに注ぎながら出て行くものもいる。

何だか厄介な香りがするが、葛城のこの口調と態度は断れない雰囲気だ。

ぼくが葛城の強要を了承すると、彼女は満足げに右握りこぶしの人差し指第二関節で、赤茶縁メガネのツルをカチャっと上にあげた。

彼女の癖である。



梟印1