ほしのこえ・2 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

私の設計したロケットが墜落したのは、皮肉にも私たち家族が暮らす街だった。

海沿いの、昔ながらの街並が美しい、静かな街だ。

私はこの街で生まれ育ち、妻もまた同じだった。

妻と出合ったのは市立図書館で、良くある話だが、図書館で働いていた妻に一目惚れし、そこに足蹴なく通い果敢にアタックしたのが私たち馴初めである。

私たちには息子が1人いた。

彼も私に負けず劣らず宇宙が好きで、夜になると海沿いのテトラポットに座り、一緒に星を眺めた。

よく遊んだ、一等星当てゲームも、星座当てゲームも、いつも私の大勝だった。

しかし、妻も息子もこの事故で他界した。


私は黒焦げの大地に立ちすくみ、呆然と辺りを眺めた。

自慢の昔ながらな街並は跡形もなく、息子とよく行った海沿いのテトラポットも無残に崩れ去り、海にはロケットや家屋の破片がプカプカと浮いている。

人々は疲れた顔をして座り込み、白い服を着た救助隊は彼らに優しく話しかける。

私はその間を潜り抜け、自分の家を探した。


「おい」


私が振り返ると、男が私の胸ぐらを掴んだ。

煤で真っ黒になっていたが、真っ赤な顔をして起こっていることがはっきりとわかった。


「知ってるぞ、お前がロケット設計したんだろ」


彼の拳が私の脳天を揺さぶった。


「あいつが殺人ロケットの設計者だ」

「人殺しめ」

「悪魔だ」


這いずるようにして、その場から逃げた。

私は逃げた。

今でも夢に見る、あの光景と彼らの殺意に満ちた表情を。

あの時の彼らの表情は、一生忘れる事はないだろう。


妻と息子の葬儀を終える前に、私は街を出た。

街の人たちの冷たい視線が、いや、私の勝手な思い込みだったのかもしれないが、突き刺さった。

私は逃げたのだ。

それ以来、この街に戻ることはなかった。

今日は10年振りにこの地に足を踏み入れた。


事故被災者の墓と慰霊碑は、街が見下ろせるようにと小高い丘の上に建てられることになった。

毎年7月、つまり事故の起こった日の晩には、慰霊碑へと続く石段に多くの明かりが灯る。

被災者の霊を鎮める行事として、灯篭を持った遺族たちが石段を登り、慰霊碑の前で祈りを捧げるのだ。

街から見るその光景が、まるで天の川に登っていくように見えるため、この行事はいつからか「天登り(あまのぼり)」と呼ばれるようになった。


私がこの石段を登るのはもちろん初めてだ。

聞くところによると200段はあるらしい。

老体には堪える長さだ。

確かに、小高い丘はあった。

当時は石段などなく、林の中にけもの道がつらつらと続いていたような気がする。

丘の隅には小さな寺があった。

子供の頃にみんなでよく遊んだのを覚えている。


登りきるとまずは大きな慰霊碑が、そしてそれを囲む数えきれないほどの墓石が、視界に飛び込んできた。

テレビで見るのと、実際に見るのとでは大違いであることを、このとき改めて実感した。

私はその中から妻と息子の名前を探した。

彼らの墓は隅の方にひっそりと佇んでいた。


「遠野くんかな?」


墓石の埃を手で払っていると、ふいに声を掛けられた。

作務衣を着ている彼は、寺の住職だ。


「お久しぶりです」


私は頭を下げた。