夢魔 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

勝手にコラボ企画第ニ弾。
この話は、小松原俊さんの『Voyager』という曲を聴いて作りました。
迫力のある曲でした。

力強さに加えて、何か恐怖のようなものを感じました。


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これは何百年も前の、それも日本ではなく、遠い外の国での出来事です。


C.F.ミルバートンは真面目だけがとりえの冴えない男です。

家族はいません、独り身でした。

ミルバートンは小さな村で商人をしていましたが、近年発生した疫病の影響で物がほとんど売れない状態でした。

そして遂に、彼の稼ぎは全く無くなってしまったのです。


そんな彼は、毛並みの良い立派な黒い馬を飼っていました。

闇夜に紛れてしまうとどこに行ったのか判らなくなるくらい、本当に真っ黒な馬でした。

飼い始めた当初からその評判は良く、多くの人が高額で買い取ろうと、ミルバートンのところへやってきました。

しかし、ミルバートンは馬を手放そうとはしませんでした。

ただ、今はそんなことを言っている経済状況ではありません。

ミルバートンは遂に、馬を手放す決心をしました。

隣村の資産家の男がこの黒い馬を高額で買い取ってくれるそうで、ミルバートンは次の日早速、馬を連れて隣村に向かいました。


事件はその道中で起きました。
一匹の蜂が馬の背にとまり、チクリと一刺ししたのです。
すると突然、馬は足を止めました。


「おい、行くぞ」


ミルバートンが綱を引いても黒い馬は一向に動こうとしません。

おかしいなと思い振り向くと、そこにはとんでもないモノがいました。

彼の馬はもう今までのあの毛並みの良い黒い馬ではありませんでした。

馬の体は倍くらいに巨大化し、鬣は引き抜けそうな勢いで逆立ち、目は白目を剥き、口からは涎がダラダラと流し、ブルルブルルと恐ろしいうなり声を上げていました。

4本の足をバタつかせ、いよいよ馬は綱を引き千切り、男を後ろ足で吹っ飛ばし、そのまま我武者羅に駆けていきました。


巨大な黒い馬が現れたのは、ミルバートンの向かっていた村ではありませんでした。

突然の化け物の出現に村人は戸惑い、逃げ回りました。

しかしそんなことはお構い無しに巨大な馬は暴れ回ります。

その足で人を蹴散らし、踏み潰し、何人もの人を殺していきました。

遂に、村の力自慢が4人やってきました。

彼らが巨大な馬の足を一本づつ掴むと、馬は動きを止めました。

しかし、それもただ一瞬の出来事。

力自慢4人は4方向に思いっきり吹っ飛ばされ、2人は肋骨、1人は首の骨を折り、残る1人は息絶えました。


そこへ黒いマントを羽織った男が現れました。

顔ははっきりしません、フードを被っているからです。

マントの男は馬の前に立ちふさがり、右の人差し指をスッと差し出しました。

馬は男の右人差し指を前に、完全に動きを止めました。

男の口元が緩んだのがわかりました。

そして「フッ」と一吹き、馬に向かって息を吹きかけました。

すると、突然馬の様子が変わりました。

まるで馬の体から生気が抜けていくように、その体はみるみる元の大きさに戻り、遂にはその巨大な体は大きな音を立てて地面に横たわりました。

馬は息絶えてしまったのです。