一輪の花 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

小松原俊さんというインストギタリストさんがいらっしゃいます。

先日、小松原さんのライブが近くで開かれたので、鑑賞に行ってきました。

このお話は小松原さんの『お釈迦様の花供御』という曲を聴いて、僕が想像した情景をお話に直したものです。

しばらくこの、小松原さんとのコラボシリーズ(?)が続くと思います。


-----------------------------------------------------------------------------------------


昔々、江戸の町の外れに小さな村がありました。

その小さな村のそのまた外れで、その夫婦は暮らしていました。

男の方は生まれつき体が弱く、仕事もろくにできませんでした。

そのため、二人はとても貧しい暮らしをしていました。

しかし、女は男を労わり、貧しいながらも幸せに暮らしていたのです。


そんな男がある日、ついに病に倒れてしまいました。

貧しいため医者にかかるお金も無く、女は布団に横たわる男をただただ見つめ、途方に暮れていました。

そこへどこからともなく、男の枕元に一筋の光が差し込みました。

そしてそこに、お釈迦様が現れたのです。

お釈迦様はこう言いました。


「村の東の外れの森の中、その奥地に湖がある。そこに咲く一輪の赤い花に祈りなさい。もしその花びら全てが自然と散った時、夫の病はすっかり治るであろう」


女は早速森へと出かけました。

森の奥にはお釈迦様の言う通り、小さな湖があり、その岸辺には一輪の赤い花が咲いていました。

女は毎日そこに通い、懸命に祈り続けました。

しかし、一向に花びらは散ろうとしません。

そればかりか、男の病状はどんどん悪化していきました。

耐えかねた女は、ついにその花びらを自らの手で全て落してしまいました。

するとそこへお釈迦様が現れました。


「どうしてもう少し我慢が出来なかった。お前の夫はもう助からんだろう」


慌てて家に帰ると、布団の中には息絶えた男の姿がありました。

女はその場に泣き崩れました。


すみません、すみません…


女は何度も何度も、その言葉を呟いていました。

世が明けるまで、何度も何度も。


そして、慙愧の念に駆り立てられた女は、ついにその湖に身を投げてしまったのです。