傲慢なる完全者 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

物語の舞台は再びライド。

数の秘密と不思議な生き物たちが共存する世界。

人間の知らないところにひっそりと存在する世界。


ライドの北には大きな山がいくつもそびえ立つ。

そこは古くから巨人族の領地とされていた。

巨人族はライドの他のどの種族よりも圧倒的に知能が低かった。

だが、他のどの種族に比べ肉体的にも精神的にも圧倒的に大きい、脅威の存在だった。

それ故、北の山々には誰も近づこうとはしなかった。

皆、彼らを恐れていたのだ。


知能が低い巨人達だが、例外もいる。

巨人族の首領・ラボッチ、そして前首領・ダイダ。

この二人は驚くほど知能が高かった。

そして、何千年も前から二人で首領の座を争ってきた。

他の巨人達は彼らのことを完全者、と呼んでいた。


首領の座は剣による一騎打ちの決闘によって争われるが、それは剣術が熟練されているとか、そんなことは全く関係がなかった。

それはただ、どちらの数字が大きいか、ということに委ねられる。


巨人族の作る剣には不思議な力があった。

彼らの剣にある数字を刻むと、その数字が大きければ大きいほどより強大な力を発揮するという。

そのある数字とは『完全数』だ。


完全数とは、ある数の自身を除く約数の和がその数自身と同じになる自然数のことだ。

例えば、一番小さな完全数は6。

6の約数は{1、2、3}、その和は1+2+3=6、だから完全数。

同様に完全数の28、約数は{1、2、4、7、14}、その和は1+2+4+7+14=28、だから完全数。

首領・ラボッチの腰に掛かる剣にはこの数字が刻まれている。


8589869056


これはまぎれもなく完全数だ。

496年前に、その時首領だったダイダに勝利し、首領の座を奪ったのだ。

当時、ダイダの剣には


33550336


という完全数が刻まれていたが、ラボッチはそれよりも大きな完全数を見つけ、そして剣に刻んだ。

もし刻まれた数字が完全数でなければ、それはただの鉄の塊だ。


ダイダはこの496年間、何度もラボッチに挑戦をした。

しかし、なかなか勝利を得ることが出来なかった。

何年もかけ見つけた数も、それは完全数ではない、なんてことはよくあることだった。

何度も何度も吹っ飛ばされ、その度ラボッチに嘲笑われるのだ。


しかし、それも今日で終わりにするのだ。

ダイダの剣に刻まれた数字は


137438691328”。


決闘が始まる。


向かい合ったダイダとラボッチは雄叫びを上げた。

二人の声はライドの果てまで響き渡った。


いよいよ始まるぞ、巨人族の決闘が


ライドの住民達は震え上がり、身を隠す。


剣を構えるダイダ。

腰の剣に手をかけたラボッチ。

雲に隠れていた太陽が顔を出す。

二人は猛進し、決闘が始まった。

勢いをつけて剣を振り下ろすダイダ。

それを、すばやく引き出した剣で受け止めたラボッチ。

衝撃音が再びライドを震撼させる。

そしてぶつかり合った刃から炎柱が上がる。

しばらく硬直状態にあったが、やがてラボッチの剣にはひびが入り始めた。

そして彼の剣は真っ二つに折れた。

反動はラボッチを思いきり吹っ飛ばし、彼は山を1つ、潰した。


137438691328”、完全数。


ダイダは再び巨人族の首領の座を手に入れた。

496年は実に長かった。





完全数にはたくさんの秘密がある。

その中の一つがこれだ。


6=1+2+3

28=1+2+3+4+5+6+7

496=1+2+3+4+5+6+7+8+9+・・・+30+31

8128=1+2+3+4+5+6+7+8+9+・・・+126+127


実に綺麗な秘密だ。

もしダイダとラボッチ、二人の完全者がこの秘密を見つけたのなら、あるいは無駄に山が減ることはなくなるかもしれない。