友愛の輝石 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

今回も物語の舞台はライド。

そこは、数と不思議な生き物たちが共存する世界。

人間の知らないところにひっそりと存在する世界。




ライドの西の森には双子のフェアリーが棲んでいます。

二匹はとっても悪戯好き。

昔、北の荒野のゴブリンたちが森の湖に襲撃に来たことがありました。

実は、ゴブリンたちを唆したのがこの双子のフェアリー。


あのね、西の森の湖に棲むマーマンたちがね…


二匹がゴブリンの耳元でそう囁くと、怒り狂った彼らは次の日にはもう、森に大群を引き連れてやってきました。

そしてマーマンたちの湖を荒らしに荒らして、帰っていきました。


あーあ、大変な事になっちゃったね


そう言って二匹は、森で一番見晴らしの良い古代樹に登って、ニヤニヤとその様子を見ていたのでした。


いつも向かって右側にいる赤いのがケット。

いつも向かって左側にいる青いのがシー。

これが二匹の名前。

ケットとシーはちょうど人間の大人の掌くらいの大きさ。

その背中の小さな羽根を目いっぱい使って、ライドの森を自由気ままに飛び回り、悪戯をして毎日過ごしています。


いつものように何か面白いことを探しながら森を散歩していると、二匹のエルフを見つけました。

この二匹のエルフもとっても仲良し。

いつも向かって右側にいるのがニム。

いつも向かって左側にいるのがフー。

二匹は大人の人間ほどの大きさ。

どうやら森の果樹園へ向かっているようです。


ニムとフーの首には綺麗な首飾りが掛かっています。

一見同じに見えるこの首飾りには、一点だけ違うところがあります。

それは胡桃ほどの大きさの翡翠に刻まれている数字。


ニムの翡翠には“1184”、フーの翡翠には“1210”。


この二つは『友愛数』と呼ばれている数です。

友愛数とは、異なる自然数の自分自身を除いた約数が、お互い他方と等しくなるような数字をいいます。

例えば上の{11841210}で例を挙げてみると、


1184{124816323774148296592}、これらを足すと1210


1210:{12510112255110121242605}、これらを足すと1184


仲良しのニムとフーはお互いに友愛数を翡翠に刻み込んで、首飾りとしてプレゼントしました。

この首飾りと友愛数は友情の証です。

さて、それを知ったケットとシーはあることを思い付きました。


この数字、変えちゃったらどうなるんだろうね?


そしていよいよ実行に移すことにしました。


果樹園に着いたニムとフーは、さっそく木の実を摘み始めました。

二匹は地面に置いたツタで編まれたカゴに赤い実を入れていきます。

木に生る赤い実を摘むフーの後ろに、シーがそっと近寄ります。

そしてシーはフーの首飾りを、パチンと外してしまいました。


あっ


思わず声を上げ、地面に落ちた首飾りを拾おうとしたフーですが、そこにケットがやってきました。


僕が付けてあげるよ


ケットは首飾りを拾い上げ、フーの肩の高さまでフワリと飛び上がりました。


ありがとう


フーがお礼を言うと、ケットはにやりと笑い、後ろに回ります。

フーの首に再び首飾りが戻ってきました。

しかし、どうも様子がおかしい。


これは僕が摘んだ木の実だよ


とニム。


でも、僕が見つけた木の実だよ


とフー。


二匹は木の実がどちらのものなのか、ということで喧嘩を始めました。

初めは口喧嘩だった二人の喧嘩は、いよいよ取っ組み合いの喧嘩になり、そしてとっても仲が良かった二人は、ばらばらになってしまいました。


実はケット、首飾りを拾い上げた時に翡翠の文字に細工をしました。

フーの首飾りの翡翠には“1210”が刻まれていましたが、この数字をその鋭い爪を使って引っ掻いて“4210”に。

二匹の翡翠の数字は、今はもう友愛数ではなくなりました。

二匹はその怒りのせいで翡翠の数字にも気づきもしませんでした。


あーあ、仲悪くなっちゃったね


そう言ってケットとシーは、再び面白いことを探して森の中を飛び回ります。

そしてこの事件の後、ニムとフーが一緒にいるところをみた者は、誰もいなかったようです。