社交の達人 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

ライド・・・

そこは、数と不思議な生き物たちが共存する世界。

人間の世界とは別に存在する。



ライドの西には木が鬱蒼と茂る森がある。

フェアリーやエルフたちが棲み処にしているこの森には一本の川が流れており、彼らはそれを水源としている。

その川を上流へと辿ってみると、実はこの川が3つの小川から成り立っていることがわかる。

小川の先にはそれぞれ湖があり、そこは昔からマーマン達の棲み処となっていた。

だがそれとは別にもう一箇所、マーマンが棲家としている場所があった。

ライドの西に位置するこの森のそのまたもっと西、そこには小さな池がある。

その池には、たった1匹だけマーマンが棲んでいた。

彼は森に棲むフェアリーやエルフたちに「社交の達人」と呼ばれていた。


いつもの時間になると、森の住人たちが池の周りに集まってくる。

大体集まったところを見計らって、社交の達人は水の中から登場する。

尾びれを寝かし水面で上手くバランスをとると、彼はその腕を天に向かって高らかに伸ばす。

周りから拍手が起こると、いよいよ彼のパフォーマンスが始まる。

彼が池の水を一救いすると、その水は掌の中で5つの青色の水玉となる。

社交の達人はその水玉を空中へ投げ上げる

そしてお手玉の要領で、器用に空中に舞わすのだ。

それはもう、満面の笑みで。

観客達から再び拍手が沸き起こる。

太陽の光を反射して輝く水玉は、ダイヤモンドよりも美しい。

中に舞う玉の中をよく見ると、数字が浮んで見える。


12496”“14288”“15472”“14536”“14264


これは『社交数』だ。

社交数とは、ある数Aの自身を除いた約数の和がある数Bとなり、Bの自身を除いた約数の和がある数Cとなり・・・と、これを続けていったとき元のある数Aに戻る、という一連の数のことをいう。

例えば上の数で例を挙げると


12496:{1,2,4,8,11,16,22,44,71,88,142,176,284,568,781,1136,1562,3124,6248}これらを足すと14288


同じ要領で


14288{ 1,2,4,8,16,19,38,47,76,94,152,188,304,376,752,893,1786,3572,7144}、足すと15472


15472{ 1,2,4,8,16,967,1934,3868,7736}、足すと14536


14536{ 1,2,4,8,23,46,79,92,158,184,316,632,1817,3634,7268}、足すと14264


14264{ 1,2,4,8,1783,3566,7132}、足すと12496



水玉の数はどんどん増えてゆく。

その度、水玉の中の数字は変わっていく。

その数はやはり社交数だ。

そして水玉が28個になったとき、彼のパフォーマンスは終了する。

ポチャポチャ。

28個の水玉は再び池の水に戻り、社交の達人もまた、両手を高らかに挙げたくさんの拍手に祝福されながら池の中へと消えてゆく。


今日も素晴らしいパフォーマンスだった!


いつものように森の住人たちが彼を褒め称える。

彼のそのパフォーマンスに、笑顔に、皆、魅了された。

そして自然と周りに森の住人たちが集まるようになりいつしか、誰にでも愛される森の人気者になっていた。

それが社交の達人の由来だ。


だが彼の笑顔はホンモノではなかった。

森の住人たちの声が聞こえなくなる頃、彼は水面からそっと顔を出す。

誰もいないことを確認した彼は、両手で顔を覆った。

カパッ。

軽い音と共に、彼の顔から仮面が外れた。

昔、北の荒野からやってきたゴブリンたちに襲われたときに負わされた火傷。

彼の顔は火傷でめちゃくちゃになっていた。


水面に映る自分の顔。

それを見つめては思う。


こんな姿見せたら、気味悪がられてまた一人ぼっちだ。


彼は一粒、二粒…涙を零す。

水面が静かに揺れる。