イメージの泉~素晴らしき妄想の世界~・2 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

現在彼氏とデート中。

夕食のため入ったレストラン、とってもオシャレでいい感じ。

私達はまだ恋人になって1ヶ月、今日は2回目のデート。

そして、私にとっては運命のデートの日。

今まで付き合った男の人は、大抵この2回目のデートで私の元から去ってゆく。

なぜか?

それは、私の“妄想癖”が原因みたい。

街行く人を眺めては、その人がどんな人生を歩んできたか想像するの。

明るくて元気でちょっと男勝りだけど、結構モテルんだよ?。

でも、そんなことばっかしてるもんだから「変人だ」ってフラちゃう。

直さなきゃって思ってても直せない。

癖ってそういうもんだよね。

でも、今回の彼は大丈夫そうかな?

ちょっと頼りないけど優しいし、何より私の妄想を楽しんでくれてるみたい。


でもね、あなたが思っている以上に私、妄想してるのよ。

ほら、今だってあなたの話、ほとんど聞いてない。

ごめんね。

それより気になるのは、あの女性従業員。

またお客さんに頭下げてる、まだこの仕事初めて間もない感じ。

あの人はどんな人生歩んできたのかな・・・?



木下杏子() 25

比較的裕福な家に生まれてきた彼女。暖かい家族に囲まれ、幼少時代は何不自由なく暮らしてきた。でも1つだけ、彼女には問題があった。それは、大の男好きであること。大学教授の父親は、毎春、新しく研究室に配属された生徒達を招いては家でパーティを開いた。その男子生徒の中から自分好みの男を見つけては、たぶらかして・・・。そんなこんなで19歳の夏、21歳の男子学生、もちろん父親の生徒、と一夜のアバンチュールを体験。そして妊娠、出産。もう、一家は大騒ぎ!父親は怒り狂い、遂には勘当。行く当ても無く子供を育てるお金も無い二人は、銀行強盗という強行手段に走ってしまう。もちろん失敗に終わり・・・。

しかし、ここでも問題が発生する。彼女は担当になったイケメン弁護士と恋に落ちてしまい、獄中で再び妊娠、出産。そんなこともあり、出所後には元学生に捨てられ、もちろん元弁護士にも。完全に行く当てをなくした彼女は改心し、二人の子供を育てるため、レストランの従業員としてお金を稼ぎ始めた・・・。



人生何があるかわからないね。

って、今回はちょっと酷い想像になっちゃたかも?


レストランを出て、ちょっと辺りのお店をブラブラ。

色んな人がいるよね、街を歩いてると。

色んな人がいるから、もしかしたら私みたいに人の人生を勝手に想像して楽しんでる人がいるかもしれない。

もしかしたら私の人生だって、今誰かに想像されてるかもしれない。

そんなことばっかり考えてた。

気づくとそこは駅のホーム。


「あっ」


彼の声が聞こえた。

なんだか、久しぶりに聞いたような気がした。


「どうしたの?」

「あの人・・・」


彼の目線の先には、ホームの端で電話をしているサラリーマン風の男性。

なぜか空を見上げながら電話してる。


「あの人、きっと・・・」



三枝基夫() 33

彼は星がとっても綺麗に見えるところで育って、小さい頃から星を眺めるのが大好き。そんな彼は高校の頃は天文部に所属。大学はもちろん宇宙科学科に進学、サークルも天文サークル。とにかく星が大好きで、星に命かけていたの。そんな彼の密かな夢は、新しい星を発見してその星に名前を付けること。大学在学中には叶えられなかったその夢だったけど、今まで趣味で続けてきた天体観測が功を奏して、数ヶ月前、新しい小惑星を発見!この数ヶ月間その小惑星の軌道を調べて、つい先日、正式に新発見の星ということが断定されたの。でもね、先を越される前にと、焦って学会に報告したもんだから、その時は星にでたらめな名前を付けて書類を提出しちゃったの。今になって後悔して、学会に電話してる。どうか訂正を許可してください!星に願いを!ってね。



「こんな感じかもね」

「そうかもね」


下宿先の最寄り駅で電車を降りた。

今日も私をマンションまで送ってくれるって。

そんな帰り道、彼がこんなことを言った。


「キスしてもいい?」

「・・・?」


正直驚いた。

この人、こんな大胆なこと言う人だったんだ。

今まで何人かの人と付き合ってきたけど、

といっても、その期間がほんの数週間だったからか、

初めて言われた言葉だ。


「・・・今はダメ」

「じゃあ、抱きしめてもいい?」


こんな私でも

愛してくれる人がいるんだ。


「・・・いいよ」


彼はそっと私に近づき、

その細い腕でしっかりと私を抱き寄せた。


例えば、今私を抱きしめているこの人は・・・

一瞬、妄想しかけかけど、

そんな妄想、無意味だとわかった。


温かい。


私は静かに目を閉じた。