イメージの泉~素晴らしき妄想の世界~・1 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

泉は僕の彼女だ。

泉と付き合い始めたのは、ほんの1ヶ月前。

付き合ってみると色々わかるもんだ、嗜好とか習慣とか・・・癖、もね。

泉との初めてのデート、そこで彼女の驚くべき癖を知る事になった。

彼女は街行く人の人生を妄想して楽しむ、という変な癖を持っていた。

初めは引き気味だった僕だが、これが意外と面白い。


さあ、本日2回目のデート。


「例えばあの人」


泉の目線の先には、とても背筋のいい中年男性がいた。

ギリギリいける!と思って一生懸命走ったものの、直前で信号は赤に変わり、横断歩道を渡れなかった彼は、真冬にも関わらずTシャツ1枚だった。

そして、ここから彼女の妄想は始まる。




川島和樹() 38

彼の波乱の人生の始まりは小学生の頃。たまたま商店街の福引で舞台のチケットが当たって、家族みんなでその舞台を観に行くんだけど、彼はその舞台にとても感動するの、「舞台ってなんて面白いんだ!僕もあんな演技したい!」ってね。

両親の反対を押し切って、中学卒業後は演劇の専門学校へ。そして小さな劇団の劇団員になることが出来たの。もともと才能があったらしく、その劇団で彼は大成功!彼目当てでお客さんがやって来るほどの大人気。勢いに乗った彼はその劇団を退団して、新しく「タノシーナ」という劇団を立ち上げたの。ここでも大成功で、数年間その勢いは止まらなかった。その内、彼は女性劇団員と恋に落ち、結婚に至る。順風満帆な人生と思いきや、ある日事件は起きた。公演中にはしゃぎ過ぎて“ぎっくり腰”。このぎっくり腰が尋常じゃないくらい酷くて、医者からドクターストップを言い渡され、彼はそのまま引退。

職を失った彼は、家に篭るようにようになってしまうの。でもね、ぎっくり腰を診察してくれた医者に教えてもらったリハビリ法は毎日続けていたの。そんな彼に新たな転機が!たまたまゴミ出しに出たときに隣の家の奥さんに「姿勢がいいですねぇ」って褒めらて。実は彼の姿勢のよさは、医者に教えてリハビリ法のおかげで、それのその奥さんに教えると、ダイエットになったとかで。彼の噂は瞬く間に広まり、週に数回エキササイズ講座を開くまでに発展。遂には雑誌にも取り上げられ・・・彼は新たな人生を歩み始めた・・・

信号は青に変わり、彼は再び歩き始めた。




「ってなわけ」

「どういうわけだよ」


相変わらずむちゃくちゃな想像をするもんだな。

でも、楽しい。


僕達は夕食を取るためレストランに入った。

席は窓際。

それはもちろん、外を眺めるため。


「じゃあ、あの人達は?」


僕の指差した先、ガラスの向こうには一組のカップル。

スラリと背が高い甘いマスクの彼と、さらさらなストレートヘアーの彼女。

彼らは恥らうことなく路上でキスを始めた。


「そうねぇ・・・」




屑間尚吾() 28歳、 結城麻衣子() 30

尚吾少年は、本当に何の変哲のないごく普通の家庭に生まれた。彼の人生が渦巻き始めたのは、10歳の頃。家族3人で伊勢へ日帰り旅行をした帰り、トラックと衝突事故。原因は彼の父親の居眠り運転。彼と母親は奇跡的に命を取り留めたが、父親は死亡。二人で生きていこうと決意したものの、母親の仕事は上手くいかず、そのうち酒に溺れるようになっちゃう。遂には他に男をつくって、彼を一人置いて家を出て行ってしまうの。施設に送られた彼は、そこで新たに決意するの、「女なんてクソ食らえ!世の女、みんな不幸にしてやる」って。その方法が“結婚詐欺”。彼は生まれ持っての背の高さと美貌で次々と女の人を騙してはお金を手に入れる。その次のターゲットが彼女。

でもね、彼女にも秘密があるの。実は、彼女は捜査一課の刑事。結婚詐欺は被害者がなかなか告発しないから解決が難しい。数ヶ月前、囮捜査官の彼女は今までマークし続けていた被疑者の接触に成功。これまで恋人の振りしてきたけど、捜査もいよいよ大詰め・・・




「って感じ」

「なるほどね」


いつもこんな感じだ、僕達のデートは。

彼女の妄想はまだまだ続くのだった・・・。