真実の判断 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

私には彼氏がいるが、彼は時々訳のわからない事を言う。

私にはそれが正しいのか判断できない。

 

「やっぱりパラレルワールドはあるんだよ。」

 

今日もまた始まった。

一緒に自転車置き場まで歩いていく。

吐く息は白い。

しかし私に吹き付ける冷たい風は、どこか温かさを含んでいた。

 

 

「多重構造世界・・・僕たちの周りはパラレルワールドで溢れているよ。」

 

例えば?

 

「例えば、僕たちが恋人でない世界。」

 

はぁ

 

「僕がこの大学に入学しなかった世界や、僕がこの世に産まれなかった世界、世界大戦が起きなかった世界、織田信長が殺されなかった世界・・・これらのパラレルワールドは理論上には存在する。」

 

へぇ。

 

「パラレルワールドの僕は、一体何をしてるんだろう?」

 

あ、私の自転車のタイヤ、パンクしちゃってるみたい。

 

「そう・・・じゃあ、今日は歩いて帰ろうか。」

 

 

彼は時々、今まで聞いた事のない、これから二度と聞く事のないだろう言葉を発する。

 

オッカムの剃刀

デデキントの切断

フェルマーの最終定理

超ひも理論

波動関数

ガウス平面

大統一論

モノポール

 

彼の難しい話を聞くたびに私は「へぇ」や「えぇ」などの感嘆詞をボロボロとこぼした。

 

 

「空は何で青いか知ってる?」

 

海の青が映ってる、ってのはナシだよね?

 

「うん、ナシ。」

 

わかんない。

 

「空気中でレイリー散乱が起こってる。昼間は太陽の光が真上から当たるから、短い空気の層を通って、地上に届く。その波長がちょうど青色だから。その青の波長が空気中にうかんでるチリやホコリや水蒸気で錯乱して空は青く見える。」

 

へぇ、レイリー・・・?

 

彼は楽しそうにそれを話す。

別に知識をひけらかしてる訳ではないようで、だから憎めない。

いつも関心してしまう。

 

 

「クラウジュウスはやっぱり凄いと思うんだ。エントロピは増大するって考えを定式化して、でもそれは多くの科学者達を困惑させた。誰も理解できない事を考え付くなんて凄いよね。」

 

それは私も同じだ。

 

彼は時々訳のわからない難しいことを言う。

私にはそれが正しいのか判断できない。

それでも「すごいなぁ」と思ってしまう。

これはとっても不思議な事だ。

 

そして、そんな訳のわからないことを言う彼がこんなにも好きな私も

ちょっと不思議だ。