彼女は雨を待っている
この喫茶店で。
昨日授業中に空を眺めていた。
雲の動きは翌日の天気を物語っていた。
天気は雲の動きや風の匂いでわかる。
「ねぇ耕輔、明日暇?」
「あ?たぶん予定なかったと思うけど。」
「じゃあ駅前のカフェでパフェ食べよー!」
「おう。・・・え?それだけ?」
「うん、パフェ食べるだけ。2時にカフェで待ち合わせ~。」
気象庁の予報では今日は一日中晴天。
でも彼女の予報では、今日は午後から土砂降り。
傘を持ってきていないのは、その雨は夕方には止んでいるはずだから。
真っ黒な雲がゆっくりと移動してきた。
さっきまで晴れていたのに、辺りは暗くなり始めた。
1時40分。
耕輔は約束の時間に遅れたことはなかった。
彼の家からこのカフェまでどんなに急いでも30分はかかる。
もう家を出ているはずだ。
コーヒーを1口すすった。
「ほら、降り始めた。」
パッと窓に水滴がついた。
瞬く間にしぶきで視界はなくなり、予定通りの土砂降り。
耕輔は間違いなく傘を持たずに出掛けたはず。
きっと雨でずぶ濡れのはずだ。
彼女は雨に濡れた男の人が大好きだった。
以前付き合っていた男にも今日と同じ事をしたことがある。
彼は予定通り雨に濡れて映画館に到着し、「急に降ってきてサ」と困った顔をした。
上着を脱ぎ、軽く絞った。
長い髪の先端からは、ぽたぽたと雫が落ちる。
タオルを渡すと、余った手で髪をがっと掻き揚げ、顔を拭いた。
彼女はその困った表情と、髪を掻き揚げる仕草が大好きだった。
たまらなくドキドキした。
ウエイターを呼んだ。
「ホットコーヒーを1つ。」
そろそろ到着するはずだ。
時計の針は1時55分を指している。
入り口のドアベルが鳴った。
男が1人、店に入ってきた。