「どうぞ。」
「はい、おじゃましまーす。」
美紗は靴を脱いで、部屋に上がった。
細くて短い廊下を通ると、その先には決して綺麗とは言えない、しかし汚くもない悠治の部屋がある。
悠治は白が好きだ。
机も、本棚も、ギターも白色。
「あー!」
美紗が悠治の足元を見て叫んだ。
「何?」
「靴下ー、また左右違う種類じゃ~ん!」
今日の悠治の靴下は、左が緑で右が青。
「あっ・・・」
「ほんと、だらしないんだから。」
「いいじゃん、どうせ学校じゃ靴はいてんだし、ばれないよ。それに今日は寝坊して1限遅れそうだったんだよ。」
「はいはい。どーせまた深夜に放送してるしょぼい映画観てたんでしょ。」
「しょぼくねーぞ!昨日は『クレイマー、クレイマー』だったんだから。」
「へー、何それ?」
「知らねぇのかよ、あの・・・」
「あ、ゲームしようよ!」
美紗は棚に置いてあった『ぷよぷよ』のソフトを手に取った。
「ったく、お前が勝手に買ってきて置いてあるんだろこのソフト。さっさと持って帰れよ。」
「私、家にプレステ持ってないもん。」
「あー、」と言って天を仰いだ。
「そういやそうだったな。じゃあ何で買ったんだよ。」
やがて二人はゲームを始めたが、悠治は驚くほどこのゲームが苦手だった。
「えー!もうおしまい?」
「だーめだ。俺にはこのゲーム無理。」
「ほんと、このゲーム苦手だよね。いいや、1人対戦する。」
「腹減ったろ?なんか作るよ。」
悠治はキッチン・・・といえるほどのものではないが、冷蔵庫を開け、タッパーに入ったご飯といくつか野菜を取り出した。
「残り物のご飯とニンジン、ピーマン、タマネギがある。」
「と、いうことは?」
「そういうことです。」
夕飯はチャーハンだった。
悠治は料理が得意だった。
「相変わらず美味しいお料理ですねー、店長。」
「そう言ってもらえて光栄です、お客様。」
「これだけ料理が出来りゃ、将来奥様は楽できますなー、ね、店長。」
「ホントですよねー、お客様」
そんな皮肉を言いい合いもいつもの事。
夕飯を食べてから美紗が帰るのもいつもの事。
「じゃあ、また明日。学校でね。」
「はいよ。」
帰りに玄関でキスをするのもいつもの事。
1週間が過ぎた。
その日は悠治の家には行かず、美紗は自宅のリビングに一人座っていた。
机には首飾りが1つ置いてある。
あの、悠治曰く「民族っぽい雑貨屋」に売られていたものだ。
それをボーと眺めていた。
お風呂から上がった美紗の母親がリビングに入ってきた。
「あら、いたの?」
「うん・・・。」
「何?元気ないわねー・・・。それ、どうしたの?」
「あ、あぁ、これ?悠治に貰ったの。誕生日プレゼントに。」
「へー、よかったじゃない!」
美紗の誕生日だった。
先週と同じあの授業の後、悠治に紙袋を渡された。
『え、何?』
『わかってんだろ。プレゼント。』
『えへへ・・・。ありがと。』
美紗は紙袋の中を覗いた。
『・・・え?』
『何だよ?』
『これって・・・?』
『美紗が欲しがってた首飾りだろ?ちゃんと買ってやったぜ。』
悠治は得意そうに言った。
『どうした?ホントに買ってくるとは思ってなかったか?』
『うんん、違う。悠治・・・』
一呼吸、おいた。
『ありがと。』
『おう。じゃあ、また明日な!』
「お母さん、」
「ん?何?」
「私ね、キミドリの首飾りを頼んだの・・・。」
「え?」
机の上の首飾りは黄色だった。