デデキント・2 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

『数学では

 「1=0.99999・・・」

である。

つまり、小数点以下に9が無限に続く数字である“0.99999・・・”は“1”に 等しい。

このように考えられる理由を説明しなさい。』

 

母校にて教育実習中、とある生徒にこの問題を突き出された。

偶然にもこれは、大学で数学を学んでいる僕の専門分野だった。

 

 

 

「その前に、“実数”ってわかる?」

 

佳澄は首を傾け、

 

「そういえばわかんないかも・・・。」

 

申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「実数ってのはね、“有理数”と“無理数”から成り立ってるんだ。」

「有理数は分数で表せれる数字で、逆に無理数は分数では表すことが出来ない数字のことですよね。」

「その通り。もうちょっと詳しく言うと、有理数は、分子が整数、分母が自然数の分数で表される数だ。無理数は√2=1.41421・・・のように無限に続いてしまったり、数が循環してしまう数のことを言う。0.99999・・・も無理数だね。」

 

佳澄は「へぇ」と言って頷いた。

 

「有理数と無理数については、ドイツの数学者・デデキントによって理論付けられた。彼はこの2つの数字は“ぴっちり詰まっている”状態だと言った。これは『デデキントの切断』という考えで証明される。数直線を考えてみて、そこに有理数をぴっちり並べるんだ。でもよく見るとまだまだ隙間だらけで、そこに無理数が詰まっている・・・イメージとしてはそんな感じなんだ。」

「・・・。」

 

話が難しくなりすぎたようだ。

佳澄はポカンとしている。

 

「さあ、話を実数に戻そうか。そんな実数にはこんな性質がある。」

 

そう言って僕は佳澄のルーズリーフにこんな数式を書いた。

 

 

abであれば、acbという実数cが存在する。

 ただし、c(ab)/2 である。』

 

 

「“実数の連続性”と言うんだ。さぁここでだ、一旦『1=0.99999・・・』ではなく『1<0.99999・・・』と仮定して考えてみよう。」

「あ、これで『ab』の形になるんだ!」

「そういうことだ。a0.99999・・・、b=1とする。すると、実数の連続性によって『c(ab)/2』を満たすc

が存在しなければならないことになるよね。だけど、実際はどうだろう?計算してみようか?」

 

佳澄は計算を始めた。

 

 

ab=1.99999・・・

 

だからぁ

 

(ab)/20.99999・・・

 

 

「あ、あれぇ?0.99999・・・になっちゃったよ。」

「そう、これじゃあ『ac』になっちゃう。acbと矛盾しちゃうよね。」

「じゃあ、『1<0.99999・・・』は間違ってたってこと?」

「この仮定のせいで矛盾が起こった。そして実数の性質を崩してしまったんだ。」

「そっかぁ。だから『1=0.99999・・・』ってしてもいいよ、ってこと?」

2つの実数の間に他に実数が現れないってことがわかったからね。」

「ふ~ん・・・。なんか、ちょっとだけ納得。」

 

そう言って佳澄は苦笑いした。

 

「そりゃぁね、デデキントの切断なんて大学に入ってから習うことだから・・・わからなくて当然だよ。実はね、僕も中学生の頃に君と同じ事を考えてたんだ、『1=0.99999・・・』っていいのかな?ってね。この疑問が、僕を大学で数学を勉強させているんだ。」

「えぇ?そうなんだぁ。じゃあ、わたしも大学で数学勉強するのかな?」

「かもね。それにしてもこれはいい問題じゃないかな。僕が思うにね・・・」

 


『1=0.99999・・・』は実数の世界の秩序を守るための一つの“約束”なんじゃないかな。