『数学では
「1=0.99999・・・」
である。
つまり、小数点以下に9が無限に続く数字である“0.99999・・・”は“1”に 等しい。
このように考えられる理由を説明しなさい。』
「その前に、“実数”ってわかる?」
佳澄は首を傾け、
「そういえばわかんないかも・・・。」
申し訳なさそうに頭を掻いた。
「実数ってのはね、“有理数”と“無理数”から成り立ってるんだ。」
「有理数は分数で表せれる数字で、逆に無理数は分数では表すことが出来ない数字のことですよね。」
「その通り。もうちょっと詳しく言うと、有理数は、分子が整数、分母が自然数の分数で表される数だ。無理数は√2=1.41421・・・のように無限に続いてしまったり、数が循環してしまう数のことを言う。0.99999・・・も無理数だね。」
佳澄は「へぇ」と言って頷いた。
「有理数と無理数については、ドイツの数学者・デデキントによって理論付けられた。彼はこの2つの数字は“ぴっちり詰まっている”状態だと言った。これは『デデキントの切断』という考えで証明される。数直線を考えてみて、そこに有理数をぴっちり並べるんだ。でもよく見るとまだまだ隙間だらけで、そこに無理数が詰まっている・・・イメージとしてはそんな感じなんだ。」
「・・・。」
話が難しくなりすぎたようだ。
佳澄はポカンとしている。
「さあ、話を実数に戻そうか。そんな実数にはこんな性質がある。」
そう言って僕は佳澄のルーズリーフにこんな数式を書いた。
『a<bであれば、a<c<bという実数cが存在する。
ただし、c=(a+b)/2 である。』
「“実数の連続性”と言うんだ。さぁここでだ、一旦『1=0.99999・・・』ではなく『1<0.99999・・・』と仮定して考えてみよう。」
「あ、これで『a<b』の形になるんだ!」
「そういうことだ。a=0.99999・・・、b=1とする。すると、実数の連続性によって『c=(a+b)/2』を満たすc
が存在しなければならないことになるよね。だけど、実際はどうだろう?計算してみようか?」
佳澄は計算を始めた。
a+b=1.99999・・・
だからぁ
(a+b)/2=0.99999・・・
「あ、あれぇ?0.99999・・・になっちゃったよ。」
「そう、これじゃあ『a=c』になっちゃう。a<c<bと矛盾しちゃうよね。」
「じゃあ、『1<0.99999・・・』は間違ってたってこと?」
「この仮定のせいで矛盾が起こった。そして実数の性質を崩してしまったんだ。」
「そっかぁ。だから『1=0.99999・・・』ってしてもいいよ、ってこと?」
「2つの実数の間に他に実数が現れないってことがわかったからね。」
「ふ~ん・・・。なんか、ちょっとだけ納得。」
そう言って佳澄は苦笑いした。
「そりゃぁね、デデキントの切断なんて大学に入ってから習うことだから・・・わからなくて当然だよ。実はね、僕も中学生の頃に君と同じ事を考えてたんだ、『1=0.99999・・・』っていいのかな?ってね。この疑問が、僕を大学で数学を勉強させているんだ。」
「えぇ?そうなんだぁ。じゃあ、わたしも大学で数学勉強するのかな?」
「かもね。それにしてもこれはいい問題じゃないかな。僕が思うにね・・・」
『1=0.99999・・・』は実数の世界の秩序を守るための一つの“約束”なんじゃないかな。