魔法の言葉 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

ウァーアイニー

 

 

「え?何、それ?」

「さぁ・・・魔法の言葉。」

「・・・アイニー?」

「ウァーアイニー。」


悪戯っぽく目を輝かせながら、そう言う。


「どういう意味なの?」 

「さぁ・・・?教えない。」

「ケチ、教えてよ。」

「後で教えてあげるよ。」

「後っていつよ?」

「さぁ。」

 

そう言って天を仰ぐようにして微笑む。

そんな健太の仕草が、私はちょっと好き。

 


ファミレスに入った。

 


通っていた高校の近くにも同じファミレスがあった。

部活帰りによく行ったなぁ、とちょっと懐かしくなった。

仲良し5人組。

ミヤコ、アケミ、それとヨーコが二人。

私達は2人を、1人はヨーちゃん、もう1人を普通にヨーコと呼んで区別していた。

 

ミヤとヨーちゃんは決まってキノコのリゾット。

アケ子はカルボナーラ。

ヨーコはベーコンマッシュルーム・ピザ。

私は・・・


今日はミヤとヨーちゃんの好きだったキノコのリゾットを注文してみた。

すると健太も同じものを注文したので、笑ってしまった。

 


2人でちょっと遠くの森林公園まで行ってきた。

乗換えを2回した。

2時間以上も電車に揺られた。

ほとんど会話は無かったが、苦ではなかった。

 

私が地元を離れて地方の大学に通うになって2年が経つ。

私が健太に会えるのは、夏休み・冬休みの2つの大型の休みの時だけだった。

いや、恋人同士ではない。

高校2年の頃の同級生で、なぜか今でも仲良くしている。

 

 

食事が終わると、珍しく健太がよく喋るので聞いていた。

2日後にお気に入りの歌手のライヴがあって、それに行くらしい。

まだあまり有名ではないけれど、映画の主題歌を歌ったりしてるって。

携帯のミュージックプレイヤー機能で2曲だけ聴かせてもらった。

興味が湧いたので、今度レンタルで借りて聴いてみようと思った。

 


すっかり話し込んでしまい、気が付くと22時を過ぎていた。

店を出ることにした。

健太が「奢ってやる」と言ってくれたが、断った。

 

 

駅では2組ユニットが路上ライヴをしていた。

ゆずのカバーを2曲だけ聴いて、改札をくぐった。

ホームに着くとちょうど電車が行ってしまった。

次の電車が来るまで20分あったので、自動販売機でジュースを買った。

 

帰りの電車でも会話はほとんどなかった。

でも、苦ではなかった。

 


「僕はここで降りるよ。」

 

気がついたら健太の降りる駅だった。

 

「ちょっと、」

 

健太はストンとホームに降りた。

 

「何?」

「さっきの・・・。意味教えてよ。」

 

ベルが鳴る。

健太はうるさいな、という顔をしてスピーカーを見た。

ちょうど真上だった。

そして私の方に向き直って、あの言葉をもう一度呟いた。

 


ウァーアイニー

 


「そう、それ!早くしないと・・・」

 


扉は閉まった。

電車は走り出す。

 

 

扉が閉まる瞬間に健太が放った言葉、

私には確かに聞こえた。

心を揺さぶる魔法の言葉。

 

私は

うれしかった。