「秋川君、」
「どうしました、先生?」
「来月、ペルセウス座流星群がやってくるぞ。」
「流れ星?ですか?」
「そうだ。ペルセウス座流星群は年間三大流星群の一つだ。」
「三大ということは、あと二つは?」
「他は、1月のしぶんぎ座流星群と12月のふたご座流星群だ。」
「そういえば先生、先生は星にもとても詳しいですよね。」
「うむ。今でこそ君に数学を教えているが、私は大学の物理化学科で宇宙論を学んだんだ。」
「へ~、そうだったんですか!と、いうことは天文学者にでもなりたかったんですか?」
「そうだ。だが結局、数学を選んだんだが。やはり数学が好きだった。」
「確かに天文学者には数学を修めた人がほとんどですよね。先生が天文学者を目指した理由、何かあるんですか?」
「大した理由ではないのだが・・・君は“モノポール”を知っているかね?」
「モノポール?何ですかそれは?」
「モノポールとは日本語で『磁気単極子』と言われるものだ。つまり、という磁石だ。普通、磁石は常にS極とN極が対になっているのはわかるね?」
「はい。」
「磁石をどんどん半分に切ってもN極、S極は必ず現れる。つまり、磁石は両極が現れて“S極だけ”、“N極だけ”なんてことはありえない。絶対『双極子』と言われるものになる。」
「・・・?あの、先生、言ってることが無茶苦茶なんですが・・・。」
「じゃあ、モノポールなんて存在しないんじゃないか?そう言いたいのだろう?」
「ええ、だって先生がそう・・・」
「それは間違っている。モノポールは理論上存在しなければならない物質だ。私達がまだ見つけていないだけで、この宇宙のどこかにあるはずだと。」
「その理論とは?」
「それはわからない。何しろそれを研究する前に、数学の道を選んでしまったからな。」
「なんだ・・・残念です。でも、先生が宇宙を目指した理由がわかりましたよ。モノポールを宇宙に探しに行こうとしたんですね。」
「まあそういうことだ。子供の頃、よく道端の石を集めては方位磁石をあててた。両手いっぱいに石を持って帰って、よく母親に怒られたものだよ。」
「先生らしいですね。それで、モノポールは発見できましたか?」
「まさか!モノポールは素粒子。そんな方法じゃ見つからん。そもそも地球にあるかどうかもな。もっとも子供の頃の私は、本の挿絵のせいでモノポールを石ころだと思い、一生懸命集めてしまったが。大学に入ってやっと素粒子ということを知って、少しガッカリした事を覚えている。」
「ところで先生、モノポールの発見はどんな役に立つんですか?」
「そうだな・・・例えば、加速器がなくても陽子崩壊が起こせて莫大なエネルギーが得られたり、物理界最強の法則『大統一論』の補強ができる。」
「はぁ・・・」
「簡単に言えば、とても実用性の高い、見つけた者に巨万の富を与える素粒子だ・・・というこだ。」
「なるほど。モノポールですか・・・。」
かつて、スタンフォード大学のキャンベラという人がモノポールを発見したと発表したが、今では黙殺されている。
今なお、世界中の学者達が探し続けている素粒子、それがモノポール。
それは、宇宙の始まり“ビックバン”のとき、10の28乗の灼熱の中で生まれたはずだと・・・