「おい!前、気をつけろよ!」
目の前には電柱があった。
危ない、またぶつかるところだった。
「ったく、お前はいつもいつも・・・」
「でも、高杉先輩見てくださいよ~」
私の指差した先には、
「何?あれ、うろこ雲?」
「そうです!よくわかりましたね。」
「そりゃあ、こんな風に毎日お前の事を注意してりゃなぁ・・・」
“美咲の目線の先にはいつも空がある”
とよく言われる。
実際、空を見るのは好きだ。
いいなぁ、空は!雲は自由だし!
ちっちゃい頃から気づけば空ばっかり見てて、
気づけば色んなものにぶつかった。
そして気づけば周りの人たちに笑われてるんだ。
それでも私は空が好き。
「おっと・・・」
「あれ?先輩も空見てるんですか?」
「違うわい。こうすると鼻から血が垂れない・・・」
「また鼻血!?大丈夫ですか?」
高杉先輩は剣道部の先輩。
去年の総体では2年生ながら、個人戦2位。
先輩は強いんだ。
「先輩、今日どうしたんですか?いつもの調子じゃなかったですね。」
「ん?いや・・・。今日はなんだか体が重いなぁ・・・。」
「大丈夫ですか?」
「最近まともに食べてなかったからな。風邪ひいたかな?」
夏休み。
3年生の高杉先輩は最後の高校総体。
結果は準々決勝敗退。
先輩はこの日も体調が悪そうだった。
「時々すごく体が重くなるんだ。」
「病院行ったほうがいいんじゃないんですか?」
「そうだな・・・そうするよ。」
夏休みが明けてすぐ、
高杉先輩は亡くなった。
白血病だった。
頻繁に鼻血が出ていたのも、時々体が思うように動かなかったのも
全部その初期症状。
もっとはやく病院に行く事を勧めていたら、もしくは・・・。
高杉先輩、この空は“高すぎ”ませんか?
こんな事言ったら先輩、怒ります?
私は相変わらず空を見上げています。
危ないのはわかってます。
でも、今は許してください。
空を見上げてないと
涙がこぼれるの。
高杉先輩、この空は・・・