「ねぇ、あれって“一番星”かなぁ?」
「おっ、そうだね!」
「まだこんなに明るいのに・・・あんなに良く見えてるよ!」
「ねえ・・・一番星って何て星か知ってる?」
僕は小学1年生の頃にはもう視力が落ち始めていた。
次第に黒板の文字が見えにくくなっていった。
しかし、これが“視力の低下”であることを、全くもって理解していなかった。
母親が気が付いた時には、もう遅かった。
「夜空の星を眺めると、目が良くなるかもな。」
そう教えてくれたのは父親だった。
その日から、晴れた夜空の日は欠かさず星を眺めた。
およそ5000年もの昔にメソポタミア地方の放牧民がいた。
彼らは夜もすがら、羊の番をしながら満天の星を眺め、めぼしい星々の配列を獣や巨人の姿に見立てた。それが星座の始まりだ。
僕が一番初めに覚えた星座は『オリオン座』だった。
冬の夜空でドンと威張っている、砂時計のような形をしている星座だ。
最初は理科の教科書で。
そのうち図鑑で。
僕は色んなことを覚えていった。
「シリウス」は全天で最も明るい星。
実は「スピカ」にはすごいヒミツがある。
勇者・ペルセウスの物語。
毎晩、毎晩眺めていた。
しかし、視力が回復することはなかった。
その代わり僕は、
夜空に輝く星たちのことを誰よりもよく知っている。
「ん~?一番星は「一番星」じゃないの?」
「違う違う!あれは金星なんだ。それが一番の有力候補。」
「有力候補?ってことは金星じゃないかもしれないってこと?」
「まあね。でも金星はどの惑星よりも太陽に近いから、太陽の光をたくさん反射して明るいんだよ。だからあんなに輝いてる。」
「へぇ!あ、でもさぁ『水金地火木・・・』だから、一番近いのは水星じゃないの?」
「うん、確かにそうだよ。でも水星は太陽に近すぎて、まだ明るいうちに沈んじゃうんだ。だから一番星にはなれない。」
「そうなんだぁ・・・なんだか可哀想だね。」
「そうだねぇ。でも、滅多に見れないけど、場合によっては見えたりするんだよ。」
彼女とは高校3年の時に付き合っていた。
僕の初めての恋人だった。
どうして別れてしまったのかは、覚えていない。
でもきっと、嫌な事が積もり積もっての結果だったのだろう。
そんな事を考えながらギターをかき鳴らしている。
最近、駅で路上ライヴを始めた。
ギターは大学の時に覚えた。
道行く女子高校生の中にショートカットを見つけると、ついつい目をやってしまう。
それは、僕の記憶の中では、彼女はまだ制服を着ているからなんだろう。
彼女は、
元気にしているだろうか?
空には一番星が輝いている。
そうだな、
きっと、大丈夫だ。