GO HOME~実家に帰らせて頂きます♪~13
~ 12 ~そして、あれよあれよという間に"婚礼の儀"当日。漣山では正午から始まる魔戒始まって以来初めてと言っても過言ではない、盛大なる式典となるであろう牙狼と黄金の翼の"婚礼の儀"の最終準備の為に、早朝から多くの者達が忙しく動き回っていた。ナイトメア達はアティーシャの指示の元、昨夜中に全ての者が一時的に以前閑岱へと移っていったナイトメア達が暮らしている場所へと移動し、その後の漣山の結界は、漣山を管轄内に持つ"朱の番犬所"神官ネフィスと漣山を統括しているアテナの二重結界で護られていた。レオとの約束通り、ゼルナは午前6時の時点から人界地表に壮大なる"神の結界"を張り巡らせ、夜明けに伴い動きの鈍くなったホラー達を封じ込めると共に、結界に接している全てのゲートとなるモノまで一時的に封じてしまったのである。そしてコレを感じ取った神官達は、アテナの指示の元一斉に行動を開始したのだ。まずは各番犬所に所属する称号騎士並びに選ばれし騎士達を漣山へと送り出し、次いで我雷により選出された優れた法師達を閑岱へと送ったのである。それを受けた我雷は更に各番犬所から送られて来た法師達を3つのグループに分け、2時間程これから行うことへの説明と指導を行うと、1つのグループの者達は再び各番犬所へと神官達の力で戻し、1つは黄花・満寿に託し閑岱に残すと、もう1つのグループを自ら率いて漣山へと向かったのだ。一方レオはグレス、アテナ、朱雀と式典の最終確認を終えると、元老院直属の称号騎士とジイルが選んだ黒騎士達を番犬所での任を済ませたセシルに託し先に漣山へと送り出した。今日に限り元老院も全ての業務を止めている為に、レオは一同の者達を建物前の広大な庭に集め、"婚礼の儀"に関する式典の流れとどうして今回、ここまで盛大なモノを行うかを説明して聞かせた。「今回この様な大掛かりな"婚礼の儀"を執り行うにあたりに、"神"のご意思があったことを皆さんにお伝えしておきます。当代牙狼である冴島鋼牙さんは、メシアを封じたことでも知られ、先の大戦でも人間界を救った英雄の中の英雄であり、魔戒騎士の筆頭であると共に歴代最強の牙狼と名高い我々が心から尊敬し誇るべき方です。そしてその伴侶である冴島カオルさんも"神"から"黄金の翼"を授かり、魔戒初の女性騎士として最前線でホラーと戦って下さっています。そんなお2人に対して"神"は大変喜ばれ、"神"自らお2人に祝福を授けたいとのご意向なのです」レオはここでいったん言葉を切ると、更に力を込めて声を張り上げた。「そして"神"は更に、世界を守る為に日夜闘い続けている僕達にもお2人と共に"祝福"を授けて下さると、グレス様にお伝えになられたそうなのです!」これにはこの場に居る全ての者からどよめきと共に、歓喜の声が上がる。そしてこのレオの言葉は、神官達を介して魔戒全ての者達にも伝えられていたのである。ちなみにこの説明は、あながち嘘ばかりという訳でもなかった。レオがゼルナに約束した"とっておきの事"がこの"祝福"であり、もちろんゼルナも喜んでこの"大役"を引き受けたからだった。それからレオは漣山で行うことの意味も"適切"にこじ付けて説明し、皆の納得を獲得していた。「では勤続10年以下の方は漣山はへ、申し訳ありませんがそれ以上の方はこちらで送られてくる映像をご覧いただくことになります」しかしレオがここにいる皆にもっとも言いたかったのは、この部分だった。鋼牙の牙狼としての年数から考えて、直接鋼牙に会ったことがあるか、また遠目にでもその姿を見て憧れや恋心を頂いている可能性が高い年代と、その他の関係無い方々を分ける必要があったからだ。これは全管轄でも行われており、これからの魔戒世界を担っていく若い者達にこそ式典に直接参加してほしいのです、というグレスの言葉も添えてられていた。こうして続々と若い魔戒の民達が、漣山に集まり始めていたのである。そして会場となる漣山でも"婚礼の儀"に向けての、準備が最終段階を迎えていた。邪美と烈花は役割を分担し、邪美が式典会場の設営を、烈花がデスメタルや開発途中の魔道具など極秘事項をこれも元々あった建物の地下にある結界の張られた倉庫へと移動させたのだ。それと漣山の民に使われているデスメタルの義手や義足は、現段階ではまだ他の者達に知られる訳にはいかなかった為、これは我雷が連れて来た法術に優れた法師達によって最上級の術が施され全員一時的に生身の身体と変わらない様相となっていた。巨大な真っ白い神殿のような舞台が建物側に建設され、これにより元々ある漣山の古い建物が隠され、広場から見るとまるでこの為だけに用意された場所のようにも見えた。舞台の前には、同じ幅の十数段はあるこれまた白い階段が設置されており、そこでは式典本番で重要な役割を果たす称号騎士達と、階段下にもずらりと並んだ選ばれし騎士達が遼生とセシルの指導の元、何かの練習をしている。遼生がレオから頼まれたのはこれであり、前もってレオから騎士達が式典で行う一連の動きを伝えられ、それを本番直前にしか集まれない称号騎士や騎士達に教えているのである。もちろんその中には、零や翼にシグやカナタはもちろん、優斗や永斗にシグマの姿もあり、現在魔戒に存在する全ての称号騎士が一同に会していた、と言いたいがレオだけがどうしても本番まで来られず、一名足りない状態だったがそれでもこんな機会は今まで一度もなくそれはそれは一般の騎士達からしたら夢の競演のような状態だった。しかもその憧れの称号騎士達が皆いつもの魔法衣ではなく、特別な時にだけ着る細やかな細工が施された正装用の魔法衣を着用しているだけに、その荘厳さは半端ないものがあった。そして何より目を引くのは、その中央で素晴らしい金糸の細工が施された襟や袖口、胸元には金の飾り紐を下げた輝くような真っ白い魔法衣を着た"牙狼"の存在だろう。その姿は若いながらも威厳も風格も備えた、正に憧れの英雄そのものだったのだ。しかし今日の主役だというのに、その機嫌が今一なのを気心の知れた仲間達は既に察していた。流石に優秀な者達の集まりだけあって、皆直ぐに式典の流れと自分達の動きをマスターし、数回合わせただけでほぼ完璧に全員の動きを合わせることが出来ようになっていた。今日は自らも白い軍服のような格好しているセシルからOKが出ると、本番までの時間を用意されている控室のような場所で過ごすべく、皆移動を開始していた。「おい!鋼牙!お前、今日の主役なんだぜ。それが何だよそのツラはぁ?」零が無言で立ち去ろうとする鋼牙の横に並び、いつものごとく愛想の無い鋼牙にはっきりと言っている。「・・・・・」「どうせまだカオルちゃんに、会わせてもらなってないんだろう。だけどな、お前のせいで俺まで静香にもう何日も会えてないんだぞ!!」零は指令から帰ってみたら屋敷に静香の姿がなく、シルヴァを介して白銀の羽に確認してみたところ、カオルと一緒にゼルナの所に居るから暫く帰れない、と言われたのだ。訳が分からず、とにかく鋼牙が居る北の屋敷に押し掛けてゴンザから事情を聴き、今に至っているのだ。「俺も邪美の顔を見たのは3日ぶりだ」そこに翼のすこ~しだけ不満が入った声もした。そんな遣り取りをしながら称号騎士専用の控室に向かっている途中で、シグマが称号騎士全員を呼び止めた。「式典が始まる前にお前達に頼みがある。少し俺様に付き合ってくれ」そう言うと控室とは違う方向に向かって歩き出したのだった。