浮気が妻にバレてしまうようなツメの甘い男は嫌いだ。


オトコと会う約束をしている2日前の夜、一通のメールが届いた。

妻を持つカレは週末はほとんど連絡をよこさない。

受信ボックスにあるカレの名前を見た途端に勘が働く。


「メール、そのまましてて見つかってしまった。大変な事になってる」


だっさ~。

ありえね~。

読んだら消す、送ったら消す。

これは浮気のセオリーでしょう。


こうやって私の恋は自分の意志とは関係ないところで終わっていく。

不倫の関係を恋と呼ぶにはおこがましいけれど

好きになってしまった事実には嘘はつけない。

しかし私が好きになったオトコはせいぜいその程度であった。


往復のJRとホテルを予約していた私。

そのメールを最後にカレからは連絡が途絶えた。

めんどくさかったがカレのもとを訪れることにした。

行っても会えないどころか連絡もくれないかもしれない。

でもこうなったらちょっとした一人旅を楽しむのもいいかもしれないと思った。


さすがワタシ。ひとりの状況を楽しめる大人のオンナ。

チェックインした都心の高層ホテルからは絶景が楽しめ、

アメニティもサービスも申し分なし。

これでいいオトコがいてくれたらと思ったけど

その肝心のオトコは妻と修羅場を迎えているかもしれなかった。

念のために部屋番号をカレにメールするが返事はなし。

そして夜は更けていった。


バスタブに湯をはる。

丁寧にクレンジングする。

鼻歌交じりのバスタイム。

イグニスのマッサージクリーム持ってきてて良かった。

優雅なホテルステイは確実にオンナっぷりを上げる。

一晩ゆっくり眠ったから肌も潤った。


そんなこんなで結局カレとは会えずにその街を離れた。

こんなものかと思いながら、帰りのJR車内で今までカレから届いたメールを

ひとつずつ読み返す。

やっぱり誰と別れるときも感慨深いものだ。

なぜだろう・・・

頬を伝う涙は一粒ではなかった。


あまりに多くて消去する気になれない。

こんな関係は止めなければと思っていた。

遅かれ早かれいつかは終わっていたはずだが

12月のこの時期に終わった事はかえってありがたい。

忙しさのあまりに気が紛れる。

忙しさゆえに忘れられる。

忙しさを理由に曖昧にできる。

でもその先には何もない。

カッコつけて強がっても、私の側には誰もいない。

消すことのできないメールと私の心の弱さだけが残った。







独身のオンナが既婚の男に会う夜


一ヶ月ぶりにカレに会うことになった。

片道2時間、離れたところに住んでいるカレを訪ねる。

JRとホテルを予約した。

カレが部屋に来るのは仕事の合間と勤務後の夜数時間。

それ以外はひとりで過ごすことになる。

日付が変わる頃には帰ってしまう。

そんな時にしょぼいビジネスホテルじゃ虚しさが募るので

夜景がキレイでファブリックもオシャレな高層デザイナーズホテルを予約した。

もしかしたらもう2度と行かないかもしれないし

とりあえず1泊2日の情事を楽しむためだ。

それにオトコにも見せつけないといけない。

私はひとりでリッチなホテルに泊まれるし、大人の振る舞いもできる。

こんな私を彼女にできて、貴方は運がいいのよ、と。

クリスマスだって何も要らない。

誕生日も一緒に過ごしてくれなくたっていい。

会った夜だけ愛してくれればそれでいい。


ねぇ、分かってる?

いつかきっとお互い傷つくのよ。

いつかきっと二度と会わないって思う日がくるのよ。

でも、出会ってしまった。

私たちが出会ってしまった現実。

明日から本格的に寒さが増すらしい。



大切な人が老いていくせつなさ。

先日の祖母の誕生日を祝うため、母と祖母を訪ねた。

去年の誕生日に蘭の鉢植えをプレゼントし、とても喜んでくれたので

今年も花を選んだ。

一緒に暮らしてない祖母に何を贈ればいいかいつも悩む。

お正月はお年玉を渡すけど、おんなじ額を私も貰う。

お年玉と一緒に一筆記したものを

祖母は時々読み返しているという。

今年の初めに行った旅先のパリからエアメールを出した。

私の大好きなエッフェル塔の絵葉書も大切にされているという。

お土産で選んだバカラの蝶の置物も

部屋に飾ってないところをみれば箱に入れて大事にしまっているのだろう。

時々、母の何気ない仕草が祖母の姿とダブる。

私も何十年後かはあんなふうになるんだなぁとしみじみ感じる。

祖母は美しい人だ。

夫である祖父は母が二十歳の時に亡くなった。

私は祖父の事は話でしか知らないけどとても男前だったそうだ。

祖母はとてもおしゃれで、チャーミングな人だ。

数年前まではまつげパーマをしていたしペディキュアも塗っていた。

年老いてしまった今でも化粧品はアルビオンだし、

パンツは穿かずスカートか着物を好んで着る。

私も年老いてもおしゃれをする心を忘れずにいたい。

母も祖母のそんな心を受け継いでいて、いつも小奇麗にしている。

背が低いし美人ではないけど、いつも笑顔で明るくてすずらんの様な人だ。

ふとした瞬間に見る母の背中を小さく感じた。

祖母は私の花嫁姿を早く見たいと思っているに違いない。

母は私の子どもに早く会いたいに違いない。

言葉に出さなくても伝わってくる。

なのに私はまだままそれには応えられそうにない。

おばあちゃん、おかあさん、ごめんね。

私、妻をもつオトコとつきあってます。

しかもそんなに愛してません。

でも今の私には必要な人なのです。

人と人との心の距離を縮めることの難しさを痛感する日々。


近づいては離れ

離れては追いかけ

追いかけても見つからず

諦めた頃に現れる


探し疲れたワタシを見つけてくれた彼。

キツイよね

って言ってくれた彼が今まで出会ったことのない光を放った人に見えた。

このひと、ワタシの辛さが分かるんだ。

分かってくれるんだ。


そう思える人との出会いはそうそうない。

ついにワタシは心の拠り所なる場所をみつけた。

疲れたらここで休めばいい。

ここで休んで元気になったらまた頑張ればいい。

寄りかかって目を瞑ってみる。

なんて心地いいんだろう。

雲の上で眠っているみたいだ。

暑くもなく寒くもなく

汗ばむことも震えることもない。

閉じた目の奥は真っ暗じゃない。

薄いブルーの空が広がってるようだ。

もうこのままずっと眠っていたい。


繋いだ手をもう二度と離さないで。

何も要らないから。

何も欲しがらないから。

ただ、ワタシと繋がってくれてさえいればいいんです。


嘘を巧みにあやつる非日常。

本当はたった一人の人にめぐり会いたいのに

目の前にいる人しか見えなくなってしまう。

こんなことじゃいけないのに。

ドラマチックな待ち合わせの後、うっとりするような店で食事した。

あらかじめ予約しておいたホテルのセミダブルに泊まった。

誰に教わったわけでもないのに何でこんなに段取りがいいんだろう。

自分でも感心してしまう。

仕事があって朝早く部屋を出る私は

カレが支払いをしないで済むように前日にホテルに出向き、

宿泊費約18000円をカードで支払った。

チェックインしてる間、カレは離れたところで待っていたが

キーを貰った私は彼にそれを渡し、

電話を掛けてからくるから先に部屋に行くように言った。

本当は電話なんて掛けはしない。

こんな時はオトコには先に行ってもらうものだ。

私を出迎える態度で気持ちの大きさを量る。

エレベーターで最上階の部屋に上がった。

ホテルの通路はやけに静かだ。

あと何分後かの自分の声が漏れてしまうのではないかと

その時すでに心配した。

チャイムを鳴らした。

カレが笑顔で出迎える。

夜は当然のように更けていく。

なすがまま、されるがまま、お互いを求め合う。

苦しくて、せつなくて、壊れてしまいそうな私のカラダを激しく抱いたカレ。

このオトコの全てを乱してやりたくなった。

私の生活もカレによって乱され始めたのだ。

本当はたった一人の人にめぐり会いたいのに

目の前にいるオトコに惑わされている。

こうやって堕ちていくワタシ。