「はぁ・・・やっと今日のお仕事も終わりました・・・早く帰って優雅なバスタイムを過ごさねば」
言いながら執務室の戸締りを確認する憂。
夜もすっかり更け辺りには人の気配もない。
ランプの灯を一つ一つ落とし建物から灯りを消していく。
数日後に迫る出陣の為にいつもより多い業務のせいで身体がくたくただ。
『今日の入浴剤は何にしようかなぁ』
そんなことを考えつつゆっくりとした足取りで歩みを進める。
カサッ
不意に物音が聞こえた。
草擦れの音ならそんなに気に留める必要もないのに何故か耳に障る。
耳を澄ませば紛れも無くヒトの歩みの音だった。
『・・・物盗り?でもまさかコンナトコロに・・・』
そっと足音を殺して物音のした方へ進路を曲げた。
憂も軍人の端くれだ。
気配を消すことくらいわけもないし数人相手くらいなら引けを取らない程の武芸の腕前はある。
恐怖ではなく、ただ不安が胸を覆った。
何度か建物の角を折れ足を止める。
「・・・後に・・・る。・・・こで・・・」
声が途切れ途切れに聞こえる。
「泰央が居なくなれば戦力も減る。この国も崩しやすくなろう」
聞き慣れた名と声だった。
「その日の前にもう一度確認して置きたい」
声のトーンが一層落ちる。
「この国をそちらに明け渡せば私はこの国を領地として貰い受けることが出来るのだな?」
「はい、それはこちらの国主も了承済みです。但し、毎月の上納品はお忘れの無きよう・・・」
「解ってるおる。それではまた戦後に」
「戦後に」
話は済んだようで慌てて憂はその場にしゃがみ込み身体を隠す。
高い植え込みがあるおかげでそう簡単には見つからぬ筈とじっと息を潜める。
やがて通り過ぎる人影を見送って深く息をした。
見覚えのある人相だった。
「・・・あれは黄土宰相・・・?」
話の内容を思い返す。
それは紛れも無い謀反の密談だった。