妄想劇場 -6ページ目

妄想劇場

現実逃避の日々

学校に着くとスズちゃんがにやにやしながら迎えてくれた。
「どぉだった?」
おはようも言わずにスズちゃんは興奮ぎみに言った。
そんなスズちゃんにあたしも嬉しくなって答えた。
「チャリで送ってもらったのー♪二人乗り~♪♪」
朝からキャーキャー騒ぐあたしたちにクラス中の目が集まった。
まずいとあたしたちは口を押さえた。
みんなの目が離れたのを確認してまた小さな声で話し出す。
「すごいね、よかったね。何か話した?」
「あのね、ケー番交換したの。」
スズちゃんは顔いっぱいに驚きを表現して自分のことのように喜んでくれた。
「それで、何か連絡あった?」
興奮してあたしの腕をつかむスズちゃん。
「ううん、まだ…。」
あたしは申し訳なさそうに言った。
スズちゃんはあたしの答えになんだぁ…と残念そうに口を尖らせた。
とその時、かばんの中で振動を感じた。
「あ…。」
かばんから携帯を取り出す。
メール…。
あたしはその送り主を見て思わず心臓が飛び出しそうになった。
「拓真くんからだ。」
「え!?」
スズちゃんもびっくりして、緊張しながらあたしを見ている。
あたしは息を止めて本文を読んだ。
『おはよ。昨日はサンキューな。また何かあったら連絡するから。』
やばい。嬉し過ぎて言葉が出ない。
あたしはドキドキしながら待ってるスズちゃんに携帯を向けた。
スズちゃんはガシッとあたしの手を両手で押さえて凝視した。
そしてあたしに抱き着きながら言った。
「よかったね~~~。」
あたしもスズちゃんを抱きしめ返した。
「うん。ありがとう。スズちゃんのおかげだよぉ。」
スズちゃんはよしよしとあたしの背中を軽く叩くと体を放して力強く拳を握った。
「頑張って。」
「うん。」
あたしは携帯を抱きしめながら頷いた。
スズちゃんが気を利かせて席に戻ったのであたしは早速携帯とにらめっこを始めた。
何て返そう…。
打っては消し、打っては消し。
なかなかうまく言葉が見つからなかった。
でも待たせるのも嫌だった。
長い葛藤の末、なんとか始業のベルまでに返信できた。
結局、言いたいことは何も打てなかった。
『おはよ。こちらこそ送ってくれてありがとう。連絡まってるね。』
これだけ…………。
あとでスズちゃんに叱られたことは言うまでもない。
あたしだって本当はいろいろ言いたかった。
昨日は本当に楽しかったこと、拓真くんたちの曲について、あと、あたしもまたメールしますって……。
はぁ……メール1件だけでこんなに自己嫌悪。
この先どうなるんだろう……。
あたしは不安になった。
すると、ジャスが肩から降りてノートに書き始めた。
『ええやん、気にすんな。』
ジャスは声出してもいいのにあえて筆談してれたことがなんだかくすぐったかった。ジャスの笑顔につられて笑った。
『ありがと。』
あたしも筆談で応えた。
『まぁ、オレは応援なんてせえへんけどな。』
『なんでよ?』
『あいつのこと嫌いやねんもん。』
『あいつって拓真くん?』
そう書いたらジャスは拓真くんの名前を上からぐちゃぐちゃに書きなぐった。
あたしは腹が立ってやめさせようとジャスを押した。
それが思った以上に力が入ってジャスは転んでしりもちをついてしまった。
「ごめ…。」
とっさに小声で謝ったがすでにジャスはあたしを睨みつけていた。
「何すんねん!」
あたしはノートに書いて謝った。
『ごめん。』
「ほんまに謝ってんのか?」
申し訳なさそうに頷くと、ジャスはあたしを手招きして言った。
「なら顔貸せ。罰や。」
あたしは仕方なくジャスに顔を近づけて目をつぶった。
絶対殴られる…!
顔中に力が入る。
…しばらくの沈黙ののち何かが唇に触れた。
目を開けるとジャスがキスしていた。
びっくりして思わずジャスから離れた。
あたしが自分の唇を手で押さえるとジャスはニヤリと笑った。
「愛してるぜ、舞花。ざまーみろ。」
せつないなぁ…ジャス。
かわいすぎるジャス。
からかってるだけかと思いきや、もしかして舞花のこと本気で好きなんやろうか。
んー、今後のあたしの気まぐれ次第だな。
意外と書いてるうちに勝手に違う方へいっちゃう。
きっと彼らがそうしたいと思ってんだろうな。
だからあたしはただ書くだけ。
修正なんてしない。
ただ、なによりジャスが好きだぁ~!

「舞花ぁ~……。」
その夜、呟くような小さな声でジャスはあたしに触れた。
「ん…。」
何か頬に触れてあたしは薄目を開けた。
ん…、ジャス……?
寝ぼけたまま再び目を閉じた。
なんでジャスがここに…?机の上で寝てるはずなのに……。
そんなことを考えながらぼんやり聞いていた。
「愛してる、舞花…。」
せつなく響く声を愛おしく感じた。
ジャスは何度も何度も触れては呟いた。
それがなぜだか心地よくてあたしはまた眠ってしまった。

目が覚めるとジャスはきちんと自分の布団で寝ていた。
あたしが手縫いで作ったお布団。
下手くそって言いながら気に入ってくれたっけ。
その中で気持ちよさそうに眠るジャス。
昨日のは…夢だったのかな?
そう思いながら洗面所に向かった。
そして顔を洗って、ペットボトルの蓋に水を入れた。
「ジャス。朝だよ。」
部屋に戻るとあたしはいつものようにジャスを起こした。
「う…ん。」
まだ眠そうに体を起こすジャス。
いつもはめちゃめちゃ寝起きいいのに今日はそのままぼぉーっとしている。
よっぽど昨日のライブで疲れたんだろうな、寝るのも遅かったし。
でもジャスを待ってるほど時間の余裕はなかった。
「早く支度して。学校遅れちゃう!」
あたしの言葉にジャスはゆっくりと動き出した。
あたしが持ってきた水で顔を洗うといつもの機敏なジャスに戻った。
テキパキと身支度をするジャス。
その間にあたしは朝ごはんを食べる。
お母さんの目を盗んでパンのみみを小さくちぎって袋に入れて牛乳を小瓶に入れた。
それを隠して部屋に戻る頃にはジャスの髪はきっちりセットされてるのだった。
あたしはジャスの朝ごはんをジャスの小さな机に置いた。
ジャスが食べてるうちに着替えて髪をまとめる。
あたしが着替えてる間は何も言わなくても必ず向こうを向いてくれるジャス。
「できたよ。行こうか。」
「おう。」
ジャスを肩に乗せて家を出る。
昨日のはやっぱり夢なんだ。
いつもと同じ感覚にあたしはそうだと思いこんだ。
時折、ジャスがせつない視線を向けていたことにも気付かなかった。

なんか、怒涛の執筆で直接書き込んでるから誤字とか脱字とか、よくわからん文章とかになっとるやろうなぁ汗
しばらくしたら読み直して修正せんと。
発見したら教えてちょ。
具体的なファン集めの話もまとまって、お店を出る頃にはもう日付が変わろうとしていた。
電車ももうないということに気付いたのは店を出た後だった。
フルくんのお兄さんがバイクで迎えにきて、ケンさんの家は店のすぐそばだった。
で、おんなじ方向だからと、アカリちゃんとスズちゃん、拓真くんとあたしに分かれた。
アカリちゃんは拓真くんにあたしをしっかり送るように言った。
「わかってるよ。」
ぶっきらぼうに答えた拓真くん。
あたしはアカリちゃんの隣で目で合図を送っているスズちゃんをなるべく見ないように二人に手を振った。
二人っきり…ですか。
今の今まで考えたことのない展開。
何を話せば…。
「オレ、チャリだからさ。周防んちまでなら20分かかんないと思う。たしか、水野公園の近くだよね?」
拓真くんは、チャリ置き場を指差して言った。
「う、うん。」
あたしが答えると、拓真くんは優しく笑って歩き出した。
そう、拓真くん、とてもクールなんだけど、すごく優しい。
中学の時、修学旅行で舞い上がってたあたしはオニューの靴を履いて見事に靴ずれをおこした。
自業自得だし、我慢して歩いてた。
そしたら、拓真くんが来て
「周防、おまえ、足おかしくね?」
と言って、
「誰か絆創膏持ってるやつー?」
って助けてくれた。
持ってた友達が見つかるとさっさと行ってしまったけれど、気付いて声をかけてくれた優しさがすごく嬉しかった。
それから気になって意識するようになったんだけど、あたしにだけじゃなくていつもさりげなく誰かを助けてた。
今の拓真くんの笑い方を見て、やっぱりいいなって思った。
「周防さぁ、ホント毎回ライブ来てくれてるよな。ありがとな。」
少し前を歩く拓真くんはこっちを見ずに言った。
「ううん。ホントに拓真くんたちの曲大好きだもん。」
言った後で、告白みたいだと自分で恥ずかしくなった。
思わず下を向くと、ポケットの中のジャスと目が合った。
ジャスは何も言わずにこっちを見てる。
「周防、後ろ乗れよ。」
「え?」
拓真くんは自分の自転車に乗ってあたしの前にいた。
「う、うん。ありがと。」
ジャスを気にしながらあたしは拓真くんの肩に手をおいて自転車の後部に立った。
拓真くんに触れてる手が信じられなかった。
細いけど、がっちりとした肩。
恥ずかしかったり、嬉しかったり、あたしの頭の中はぐるぐる回っていた。
家まで案内しながらだったけど、本当にあっという間だった。
あたしは、自転車から降りて拓真くんから手を離した。
「どうもありがとう。気をつけて帰ってね。」
あたしは努めて冷静にお礼を言った。
「ああ。またよろしくな。」
笑って手を軽くあげる拓真くん。
そして自転車を漕ぎ出そうとして思い出したように言った。
「あ、そうだ。ケー番。」
拓真くんはお尻のポケットから自分の携帯を取り出した。
「アカリとは連絡とれるからいいだろうけど、とりあえず教えてよ。」
あたしは慌ててカバンから携帯を出した。
二人で携帯を近づけてデータを交換した。
「サンキュ。何かあったら連絡する。」
拓真くんは笑ってそう言った。
「うん。」
あたしも笑った。
「じゃあな。」
あたしは拓真くんが見えなくなるまで後姿を見送った。
そして携帯を握りしめたまま家に入った。

部屋に戻った途端、ジャスがしゃべりだした。
「舞花ぁ、アイツのこと、ホンマに好きなんか?」
また、いきなり…。
「そうよ。」
あたしは答えた。
「どこがいいん?」
あれ、何か怒ってる…?
不機嫌そうなジャス。
「どこって、優しいしかっこいいし。」
あたしがそう言うとジャスは少しうつむいた。
「オレとアイツとどっちがいいんや?」
「は?」
また何を言い出してるんだか。
そう思ってあたしははっきりと言った。
「何で比べるのよ。拓真くんの方が全然かっこいいじゃない。」
「そうか…。」
ジャスはそう言うとそっぽを向いた。
それから、お風呂に入って寝るまでジャスはあたしを見ようともしなかった。
「おやすみ、ジャス。」
「おう。」
なんか、心配になったけどあたしもそれ以上は言わなかった。