885冊目『合理的にあり得ない』(柚月裕子 講談社文庫) | 図書礼賛!

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主人公の上水流涼子は、弁護士の資格を剥奪された後、表の世界では相談できない数々の難題を解決する何でも屋として上水流エージェントという探偵事務所を開いている。従業員は、東大卒の貴山という男性だけだ。ストーリー的には「あり得ない」と思える事件が勃発し、それへの独自調査を通して、真相を明るみにするというパターンがほとんどである。二〇〇〇年初頭に、『トリック』(主演:仲間由紀恵、阿部寛)というドラマが流行ったが、実に趣向が似ている(実際、「確率的にありえない」では、予言者のインチキを暴くという話だが、これなんかはほとんど『トリック』の焼き直しである)。一話完結型で気軽に読めるエンタメ小説だ。

 

弁護士を主人公としたドラマとして何としても取り上げなねばならないのは、『リーガル・ハイ』(フジテレビ 2012)だろう。裁判無敗記録を誇る敏腕弁護士古美門研介(堺雅人)の破天荒なキャラクターと、その助手黛真知子(新垣結衣)との息のあった掛け合いが、お茶の間を和ませた。古美門は裁判に勝てば犯罪まがいのことも平気でする、節操のない男で、正義や真実に何の価値も認めていない。裁判は正義の鉄槌が下される場所という一般通念の体現者である黛との対比を通して、法の厳しさよりも、その矛盾を明るみにするところに、このドラマの面白さがある。もちろん、名優堺雅人の演技は超一流だ。


『リーガル・ハイ』より時代は降るが、『弁護士のくず』(TBS 2006)も面白いドラマだった。主人公の九頭元人(豊川悦司)は、ろくに仕事もせず、キャバクラ通いをしてるクズ男だが、弁護士としての実力は本物で、どんな難題を持ち込まれても依頼人を必ず勝利に導く。新人弁護士の武田真実(伊藤英明)は、名前の通り、弁護士業を真実を暴き出す神聖な仕事だと思ってる純粋な青年だ。ここには、『リーガル・ハイ』と同種の構造があるが、最終的に古美門や九頭のような冷徹な人間にも、人としての道理に気づかざるを得ないという点で、甘いヒューマンドラマにもなっている。


最後に『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(韓国 2022)にも触れておきたい。主人公は自閉症スペクトラムを持つウ・ヨンウ弁護士(パク・ウンビン)で、幼少期に六法全書を全て暗記するなど異常な才能を持つ。天才的に直感によって難事件を解決していくストーリーだが、家族問題や教育問題など、韓国社会に抉るような社会派ドラマとなっており、これも面白かった。実は『合理的にあり得ない』もテレビドラマ化されている。私はまだ観てないが、主人公の上水流涼子を天海祐希が演じているのは、実にマッチしていると思った。美貌、聡明、勇気、根性。もろもろ要素を兼ね備えた上水流涼子を、天海祐希がどう演じるのか。U-NEXTに配信サービスがあったので、近いうちに見てみたいと思う。