867冊目『勉強が一番、簡単でした』(チャン・スンス 吉川南訳 ダイヤモンド社) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

本書は、ソウル大学に首席合格した受験生の合格体験記である。実際読んでみると、壮絶な体験だ。まず著者のプロフィールをざっと引用しておこう。

1971年生まれ。貧しい家庭環境で大学進学を早くに放棄し、飲み屋とビリヤード場に入り浸り、喧嘩に明け暮れる高校時代を過ごした。喧嘩にも酒にもバイクにも飽き飽きした20歳のとき、勉学への情熱が熱病のように燃え上がった。父親を早くに亡くし、一家の大黒柱として働きながら、遅ればせながら大学受験を決意する。パワーショベル助手、ゲームセンター店員、プロパンガスとおしぼりの配達員、タクシー運転手、工事現場の日雇い労働者などの職業を転々としながら、数年にわたり高麗大学政治外交学科、ソウル大学政治学科、同法学科などを受験したが、高校時代の低い内申点に足を取られてすべて失敗。それでも大学進学の夢を諦めることなく、仕事の合間を縫って独自の勉強法を編み出し、ついにソウル大学に首席合格。

著者のチャン・スンスのソウル大学合格は、韓国メディアでも大々的に取り上げられたという。日雇い労働者からソウル大合格というスンスのサクセスストーリーは、もしかしたら自分も人生を逆転できるかもしれないという夢と希望を多くの人に与えることとなった。スンスが自身の受験体験記を綴った本書は、韓国で70万部突破の大ベストセラーとなった。そして、スンス自身は、2003年に司法試験に合格し、現在は弁護士だという。

 

受験生のあいだでは、勉強法というのはいつも悩みの種である。自分のやっている勉強法は正しいのだろうかと不安に思ってしまうのは、受験生心理としては当然である。だから、書店には正しい勉強法や効率的な勉強法について書かれた本がたくさんあり、そこに載っているアドバイスを参考にしている受験生も少ないだろう。中には、教科そのものの勉強よりも、勉強法を血眼になって求める本末転倒な受験生も見かけるが、言ってみれば、それくらいに勉強法というのは、世の受験生にとって最大の関心事なのだ。では、見事、ソウル大学合格を成し遂げた、スンスの勉強法とは一体、どういうものなのだろうか。

 

スンスの勉強法は、実に分かりやすい。それは「本気になれ」ということである。受験勉強に勉強法というのがあるとしたら、それは「本気になること」以上でも以下でもない。たしかにスンスの勉強は少し変わった部分はあるが(たとえば、ノートを取らない等)、基本的には教科書をちゃんと読む、理解できるまで徹底的に考えるという当たり前のことを実践したに過ぎない。果たして、どれだけの受験生が本気で勉強しているだろうか。スンスは、予備校に通学バスの中でも勉強したし、バスから降りて予備校に到着するまでの五分間も無駄にしない。授業が終わった後の休憩時間も他の受験生と群れず、タバコを一本吸ったら、さっさと机に向かって勉強を開始する。つまり、起きている時間をほぼ勉強にあてるのだ。これが本気である。

 

受験業界では、受験勉強の戦略として次のようなことが言われる。それは、スタートから飛ばしすぎないで、ほどほどに勉強し、直前期にラストスパートをかけて猛勉強して最良の結果を得ようというアドバイスだ。しかし、スンスはそれは間違っているという。本気で勉強をすると決めたら、ほどほどなどと悠長なことは言っていられないはずで、最初から最後までとにかく全力で勉強し続けろ、と主張する。「勉強に関して言えばその戦略は間違っている、というのが私の考えだ。最初から脇目も振らず机にしがみつき、その生活を完全に習慣化して最後まで頑張るべきなのだ」(133頁)。実は、答えというものが明確に用意されている受験勉強で結果を出すのはたいして難しくない。本気になって勉強すればいいだけなのだ。もし、この文章を読んでいる受験生がいたら、自分にその覚悟はあるのかと問いかけてみてほしい。