865冊目『世界 特集 私たちの日韓関係』(2023年9月号 岩波書店) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

「相互理解の扉」ークォン・ヨンソク

ユン・ソニョル大統領の誕生で、韓国では朴槿恵以来の保守政権が返り咲いた。クォン氏は、現在の韓国政府の対日対応を「韓国の冷戦志向、権威主義、『対日米追従』」として問題視している。日本は、慰安婦問題や徴用工問題について、一九六五年の日韓基本条約で完全に最終的に解決済みだという立場で一貫しているが、そうした合法か不法かの法律論で白黒をつけることが、はたして歴史問題への責任のある態度なのかという問題提起は、真摯に受け止める必要がある。これは移行期正義の問題である(577冊目『韓国の行動原理』)。

 

「優しい排除の時代に」ーキム・ウォニョン、熊谷晋一郎

韓国と日本での障害者運動についての対談。特に障害者のセクシュアリティの問題が興味深い。障害者を含めた平等社会を志向するなかで、セクシャリティの問題だけは、あいかわらず健常者のノーマルな世界観だけが続いている。そうした世界で、障害者がどのように疎外感を感じるかが分かって勉強になった。

 

「徴用工訴訟の弁護士になったわけ」ーイム・ジェソン

二〇一八年に韓国の大法院が、強制徴用の被害者への賠償金支払いを日本企業に対して命令したことは、日本でも大きなニュースになった。日本企業が支払いを拒否する中、韓国政府がその肩代わり(供託)をすることで、この問題が解決されようとしている。しかし、その供託は有効なのかが裁判で争われているそうだ。「生存する被害者の年齢が限界に達しようとする中、長い間裁判を進め日本とたたかってきた彼らの人生が、最後に韓国政府とたたかうことで終わってしまうかもしれないというのは、気の毒です」という言葉には、胸が痛くなる。

 

「KーPOP 音楽を超え広がる世界」ー古家正享

古家さんが、カナダ留学時、韓国から来た留学生の影響で、韓国音楽を知り、はまってしまったというエピソードが紹介されている。私はKーPOPは全く詳しくないが、古家さんの文章を読んで、KーPOPが、日韓の架け橋となり、社会を作っているのだなと思った。

 

「ウェブトゥーンとアニメ 日韓ふたつのブームからの景色」ーソン・ジョンウ

日本アニメを韓国に輸入し続けたソン氏が、韓国でも大ヒットした『スラムダンク』『すずめの戸締まり』に象徴される日本ブームについての分析。現象を断定的に述べたりせず、複雑な事情をしっかり考えていこうという姿勢が好感がもてる。

 

「日本と韓国は「中くらいの友達」になれるだろうか?」ー伊東順子

在韓日本ライター伊東さんのエッセイ。私は、伊東さんの本から現代韓国のことについて多くを教えてもらった(403冊目『韓国 現地からの報告』)。朴槿恵、文在寅政権のときは、「最悪の日韓関係」だと言われたが、嫌韓と反日がいがみ合うことはあっても、お互いの文化の力で、両国の交流は増えた。私も韓国映画をきっかけに韓国のことをもっと知ろうと思った。そんな文化の力に期待したい。

 

「前大統領、書店をひらく」ームン・ジェイン

文在寅前大統領は、現在、故郷の釜山に戻って、家庭菜園をしたり読書をしたり悠々自適な生活を送っているようだ。そんななか、自身が経営する平山書房をオープンし、地域交流の場となっている。文在寅は印刷物世代として、子供の時から大変な読書家だったようだ。韓国現代史の特徴として、文在寅のような、読書で批判的な問題意識を持った若者が民主化運動を牽引したことが挙げられる。文在寅は大統領就任前から、SNSを通して良書を推薦してきた人物で、まさに本の力を信じ、本の力を自分の力にしてきた気骨ある政治家だった。文在寅の次の言葉は決して色褪せることはないだろう。「本は民主主義を意味し、民主主義を実現する力だと思います」