「おめでとう!!」
「おめでとうございます!!」
歓声とともに祝福の言葉が辺りに溢れる。
蓮とキョーコの小さな友人は、祝福される二人の間に挟まれて、とても幸せそうに笑っていた。
初めて見る、友人の『母親』は、とても優しそうな女性であった。彼女と娘を見る皇貴の表情は、とても穏やかな笑顔である。
そこにあるのは、『幸せな家族』のひとつのカタチ。
「マリアちゃん、嬉しそうですね。」
「あぁ。そうだね。」
宝田の新たな家族となる女性は、これからマリアと一緒に暮らすそうだ。
皇貴と共に渡米も考えたそうだが…今は、新たな家族となるマリアとの時間を優先させたいという。
だからこそ、皇貴は、これから日本に戻ることが多くなるそうだ。
曰く。マリアを彼女にとられるのも、彼女がマリアにとられるのも嫌なのだと。
「仕事人間だと思っていたのだけれど…少しは変わるでしょうか、マリアちゃんのお父さんは。」
「変わらざるをえないんじゃないかな?愛する女性二人が、二人だけで楽しく生活していたら楽しくないじゃないか。」
「あははっ、さっき、新婦さん、『亭主元気で留守がいい』と言ってましたからねぇ。」
「……あれって、どういう意味なの?」
聞いた瞬間に、周囲は大爆笑をしていたが、皇貴だけは真っ青になってうろたえていた。
「嘘だよね!?俺たち、新婚だよね!?え、新婚からそれ!!??」と大パニックを起こしてさらに爆笑をさらっていたのだが、言葉の意味が分からない蓮としては、彼の慌て様が尋常ではなく感じたのだ。
「夫は元気に外でお金を稼いでくれたら嬉しいな~という、女性の想いです。」
「……………亭主は楽しくない言葉だ……………。」
どうしてそんな言葉を新婦が放つことで周囲が大爆笑になるのだろう。
日本人の感覚が分からない。
「軽い冗談ですよ。そう思われないように、という戒めの意味のある言葉だと思いますしね。…皇貴さん、お仕事忙しすぎますから。『仕事ばかりしていたら、私もあなたの娘も離れていきますよ~~~』という忠告の言葉です。」
「…………そうか。」
「フフッ、でも、結婚式で新婦さんが言っちゃう言葉ではないですよね。すごく豪胆な方です。男前すぎて惚れそうですね。」
穏やかで優しい雰囲気のする女性だが、芯はしっかりしているのだろう。
さすがは皇貴の選んだ人といったところか。
「俺も……。」
「はい?」
「俺も、家族は大事にするよ。」
「え……?」
「仕事は大事だけれど。この業界にいる以上、なかなか難しい時もあるけれど。仕事がない時には、不安にさせないくらいに大事にするし、愛するし、絶対離さないと誓う。」
「…………敦賀さん…………。」
「だから、最上さん。…いや、キョーコ。いつか…………」
―――リーン……ゴーン……リーン……ゴーン……―――
祝福の鐘の音が響き渡る。
そして、それを上回る歓声が響くその中で。
未来に繋ぐ約束が、また一つ。
少し離れた場所で、二人の『父』が見守る中、誰にも気づかれることなく結ばれた。