「だから、俺と一生、一緒にいて。」
願いを口にしながらも、まるで命令をするように。
断定的に告げた言葉を、どうとらえられたのか……。
いつも曲解する彼女に悩まされてきた。
結構なストレート級の球を投げても、彼女は見事に空振りをするから。
今回もそれに備えて腹に力を入れていた。
どんな言葉が飛び出しても、凹まないように。
よじれてねじれて修復不能な解答を出されても、ひとつひとつを解きほぐし、今日こそは正しく理解してもらえるようにしようと決めた。
だけど………。
「…………………。」
「…………………。」
俺たちは、何も言葉を交わさなかった。
ただただ、見つめあった。
「…………………。」
そうして。
どれだけの時間が流れたのだろう?
ゆるく抱きしめ、見つめあっていた少女から視線を外し。
少し強めに抱きしめなおすと。
そっと、遠慮がちに俺の腰に回される、少女の細く柔らかい腕。
「………うん。うん、ありがとう………。」
無言のままに『答え』を与えられて、声が震える。
鼻先が痛くなってきて、ジワリと視界が滲む。
言葉はくれなかったけれど、その表情が全てを語ってくれていた。
むしろ、言葉で伝えられなかったからこそ、十分に理解できた。
「好きだよ、君が。…大好きだ。」
その潤んだ瞳が。切ない色を讃える、何よりも雄弁な瞳が、俺に理解をしてと訴えてきたのだ。
口では答えを出してはくれなかったけれど、その瞳が言っている。
俺が欲しいと。俺を愛していると。
「好きだよ、最上さん。」
彼女の『返事』を理解して、箍が外れた。
一生口にはしないと思っていた、彼女を想う心が言葉になって次から次へと飛び出してくる。
もはや、止めることができない。
「愛している………。」
彼女の全てをとらえられるようにと、彼女の耳元で囁いた。
その瞬間に、腕の中の少女の力が突然抜けてしまった。
「おっと……。」
ガクリ、と身体の力を抜いた少女をすんでのところで抱き留める。
全体重を俺に預けながらも、「ス、ススス、スミマセン………。」と掠れる声で謝る少女は、自力で立とうとしているのか、腕の中でプルプルと震えている。
「大丈夫………?」
「ヒャッ………ヒャイ…………。」
「……………………。」
俺に弱弱しく縋り付きながら、プルプルと震える少女………。
「…………………。」
…………ナニコレ、可愛い…………
もしかして、腰が抜けたのか?俺が好きだって、愛しているって言ったから、腰が抜けたのか!?
あれか、耳が弱いのか?
「最上さん……。」
「ヒッヒェッ!!」
耳元で熱く名前を呼んでみる。ついでに吐息を吹きかけたのはサービスだ。
すると、ビクリッと身体を震わせた後、より一層、俺に縋り付いてくる乙女。
もはや自力で立つのは不可能な様子だった。
…………弱いんだな!!耳が弱いんだっ!!………
「キョーコ………」
「ぅあっ!もっ、や、やめて……っ!!」
追い打ちのように名前を囁くと、またもビクビクと震えながら可愛らしく拒絶してくる。
彼女には絶対に拒絶をされたくないと思っていた。
だからこそ、安全圏の『先輩・後輩』の距離感に甘んじてきたのだ。
愛を拒絶する彼女を怯えさせないように。一瞬でも、俺のことを消去されたりしないように。
誰かに取られはしないかと日々恐怖に戦きながら。それでも拒絶されることが怖くて今まで過ごしてきた。
だが。
………こういう拒絶なら大歓迎だ!!
「かわいい、キョーコ……。」
「ヒィッ!!本当に、やめて…っ!!」
再び耳元で囁くと、プルプル震えながらも耳を両手でふさいでしまった。
外して囁き続けることもできるが、それよりももっと違う方法で彼女を虜にしたい。
さて、これからどうしようか。
とりあえず、俺と彼女は両想いになった。
これは間違いない。
だって、彼女の目が言っている。俺を愛しているって。
しかも、俺のささやきひとつで全身を真っ赤にして脱力状態になってしまうほど敏感な反応(?)を示してくれているのだ。
もっと彼女を俺に溺れさせて。
俺以外、考えられなくさせて。
俺をひたすら求めるようにさせなくては。
「かわいそうにね、キョーコ…。」
両耳をまだプルプルと震える両手で必死に抑えている腕の中の少女を、抱き上げる。
哀れな乙女。
君は、そんな瞳を向けてはいけなかった。
『愛している』だなんて、先に告げてはいけなかったんだよ?
告げなければ、最低な男を調子に乗らせることもなかったのに。
もうしばらく、純粋で清らかな、真っ白な少女でいられたのに。
「でも、もう君も、立派なレディだったね……?」
親権者の了承さえ得られたら、結婚だってできる。
国も認める、『大人』なのだから。
もう後1年くらい、高校の制服を着なければならないのかもしれないけれど、ウエディングドレスを着てはならないということはない。
大丈夫、君の愛する最低男は、ちゃんと成人しているし、収入も悪くはないよ。
妻になる君を、10歳の頃から変わらずに愛しているくらいだから、心変わりもしないし、やろうと思ってもできないと断言できる。
仕事は大切にするけれど、仕事以外の時間は君に全て捧げてもいい。いや、むしろ捧げさせてください。
家事はこれから君に手取り足取り教えてもらうことで、立派な『主夫』の称号をもらえるまでに成長をする所存だ。
君が悲しむときには、一緒に悲しむし。
嬉しいときには、一緒に喜ぶ。
怒る時には…多分、その大半の理由が『奴』関連だと思うから、忘れられるように色々させてもらおう。君の身体に、色々、ね。
そうして、一緒に。
「……幸せになろう。」
さて、その『幸せ』を共に感じるために。
場所を移動しなくては…ね?