「敦賀様~~~~!!!!」
「待って、待って。よく分からないけれど、とりあえず土下座はやめよう。それから、テーブルの上の包丁、物騒すぎるから今すぐしまおう。ね?」
俺の家に上がり込むと、彼女はスタスタとリビングルームへと移動し、そこに風呂敷を置くと、その後、キッチンへと向かった。
そして、戻ってきた時には手に包丁を握りしめていた。
なぜ包丁!?俺、刺されるのか!?と一瞬驚いたのだが。
その包丁は静かに音もたてずテーブルに置かれ。
そして、彼女はテーブルと風呂敷の間に身体を滑りこませると……
流れるように行動する彼女に対し、何一つ口をはさむことも行動することもできない俺に向かって。
深々と頭を下げたのだった。
「恐れながら申し上げます!!」
「……どこの時代劇だい。」
「敦賀様はっ!!呪いにかかっています!!」
「………なんだって?」
「敦賀様はっ!!呪いにかかっています!!」
「……………呪い、ねぇ……。」
二度同じ発言をされて。
その意味を把握する。
そして、なぜか気が遠くなっていくのを感じた。
どうやら俺は呪われやすいらしい。
…いや、あのグアムの設定は俺がでっちあげたものだから、仕方がない。
普通だったら信じないのに、彼女がまんまと信じて、『クオン』の『呪い』を解いただけだ。
「敦賀さん、そんな呪いに負けてはいけません!!」
「……ごめん、待って?もしかして、それが俺の質問に対する答えじゃないよね?」
―――俺が君を恐れる理由。君に会ったら話をしたくて、こうして触れたくなる理由。……その理由を、考えて。―――
その答えを今日、聞くことになっていた。やっと重なった、俺と彼女のオフの日。そして、俺の誕生日である日。
今日、欲しい答えがもらえるはずだったのだ。
それなのに……この状況は、なんだ。
「下手人は分かっております!!ちゃんと連れてまいりました!!」
「……え?」
俺の質問に意図してなのか分からないが、一切答えることなく、最上さんは次の行動に出る。
「こちらです!!ご確認を!!」
ささっ、と俺に差し出されたのは風呂敷包み。…やっぱり俺へのプレゼントではなかったようだ。
そして、それが下手人(?)であるらしい。
最上さんは風呂敷包みの結び目をほどく。すると、重力に従い、布がはらりと落ちてしまう。
「………………………。」
「………………………。」
深々と頭を下げ、土下座に戻る最上さん。
風呂敷包みから現れた物体を見て固まる俺。
俺の視界の先には、土下座をする茶色の髪と……ものすごく見覚えのある、つぶらな瞳のニワトリ…の、生首が。
「………………え?」
「そもそもが、誤解だったんです!!」
「え?どういうこと?」
「このニワトリがっ!!ダークムーンの撮影の時に、敦賀さんに妙な呪いをかけたのが悪いんです!!」
「待って、最上さん……」
「16歳の女子高生に、大人な敦賀さんは似合いません!!」
「いや、待って…」
「仕草が可愛いというだけで、それが恋の前兆であるわけがありません!!それならこの世は恋に溢れてカオス状態になるはずです!!犬や猫だって…ニワトリだって、恋愛対象になりかねません!!」
「……に、ニワトリはムリがある気がする………。」
土下座体制のまま、勢いよく訴えてくる最上さん。
それに唯一まともに返せた言葉が、『ニワトリはムリ』……って、なんだこれは。