12月24日は私の小さな友人の誕生日。
可愛いフワフワの髪をした、まるでお姫様のようなフリルをふんだんにあしらったワンピースの似合うあの娘は、これまで『誕生日』を祝うことを拒否していた。
そんな彼女が、自分の『誕生日』を笑顔で受け入れられるようになってまだ日は浅いけれど。
今年もその日がやってきた。
「今頃、マリアちゃんは楽しんでいるかな……。」
冬休みに入ってすぐ、マリアちゃんはアメリカへと旅立っていった。皇貴さんに会うためだ。
「『飛行機に乗ってきてくれるのが怖いなら、自分が乗っていけばいいのよ』…なんて…。」
思わず、笑顔が浮かんでしまう。
昨年のハッピーグレートフルパーティーで、親子水入らずの時間(にしては短かったけれど…)を得た二人は、その後、これまで以上に頻繁に連絡を交わしていたらしい。
そして、マリアちゃんの誕生日に『日本に帰ってくる』という皇貴さんと『帰ってきてもらうのがやっぱり怖い』というマリアちゃんとの間で平行線の議論が続き、最終的にはマリアちゃんがアメリカに向かうということで決着がついた。
……そうなってしまうと、今年はハッピーグレートフルパーティーを開く必要がない……
「よかった……。」
誕生日が、うんざりするような日にならなくなって。
心から、笑顔で迎えられる日になってくれたのが、本当に嬉しい。
今日は12月24日。マリアちゃんの誕生日で、クリスマスイブだ。
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「最上さんっ!!」
「ふぇ!?」
「こらっ、蓮!!せめてノックしてから入室しろよ!!女性ばかりのセクションなんだぞ!!」
いつ見てくれるかは分からないけれど、マリアちゃんへの誕生日のお祝いメールを送り、ほっと一息ついていたところに、突然ラブミー部室の扉が開く。
いつもなら黒髪クールビューティーのモー子さんか、時々闇を背負いながら毒を吐きつつ現れる雨宮さんくらいしか開けない扉を全開にして、尊敬する先輩俳優が入室してきた。
「よかった、間に合った……。」
「間に合ってよかったが、あと30分だからな。それ以上はムリだ。」
「分かっています。…ありがとうございます、社さん。」
「これくらいお安い御用だ。お兄さんに任せない。…あ、それと、ノックせずに入室したこと、ちゃんとキョーコちゃんに謝れよ?」
「分かっていますよ……。」
「本当かよ。じゃ、30分後に駐車場な。5分前には電話を入れるから。」
驚く私を置いて、突然入ってきた二人の男性は短いやり取りをした後、優秀なるマネージャーさんのみが退室していく。
……え、ナニコレ、どういうこと?……
「ごめん、最上さん。」
「え、あぁ、大丈夫ですよ。どうせ地味で色気のない女ですから、着替えていたところでお目汚しになる程度ですし。」
「………着替えの時はカギをしめてね。」
「え?でも、ここに入ってくるのはモー……琴南さんか雨宮さんだけですし。」
「しめて。絶対しめて。」
「……は、はい……。」
同じく高校生タレントの女性陣に聞いたことがあるのだけれど、学校の部活動(運動部)では着替えをしている時でもカギをかけないらしい。
不用心だな、と思ったけれど、別に見られて減るもんじゃないし、モデルのファッションショーの裏のほうが凄まじい状況なのだから、それくらいの感覚のほうがいいって言われたんだけれど…。
「もはや体は商品であって、羞恥に縮こまるようではこの業界は生きていけないわよ!」って、体育会系のノリで教えてもらったから、最近は全くカギをかけないようにしていたのに、この先輩の凄まじい形相を見ていると……私、もしかして騙されたのかしら?
だって、モデル業界でも超一流の敦賀さんが、これだけ女性の着替えに対して物申しているんだもの。
「その……。最上さん。」
「え?あ、はい。」
騙されやすい性格について反省をしていたら、敦賀さんから声をかけられる。呼ばれて先輩俳優の顔を見るとどこか気まずそうな顔をしていた。
「あの……。」
「?はい。」
いつも穏やかな空気をまとい、余裕に溢れた視線をまっすぐに向けて語り掛けてくる彼は、今日はなぜか私の顔から視線を外している。まるで怒られることを恐れる少年のような表情だ。
「これ……。」
「????はい。」
おもむろにコートのポケットに手を突っ込み、それからしばらく逡巡した後、自信なさげにポケットから取り出されたものは、きれいにラッピングされた、細長い箱だった。
それをそっと差し出されたので、私は何かよく分からないままそれを受け取った。
「誕生日、おめでとう。」
疑問が浮かぶ頭のまま、箱を手に取った瞬間に贈られた言葉。
「……ありがとう、ございます。」
その言葉に、反射的にお礼の言葉を返すことができた自分を、ほめてやりたい。
「………………。」
渡された箱を見つめる。
何が入っているのかは分からないけれど、この中には敦賀さんから私へと、考えてくれたプレゼントが入っているのだ。
じわじわと、胸に広がるのは暖かな感情。
その感情が表情に出ないように、キュッと唇に力を入れた。
そうしなければ、嬉しすぎて緩みきった表情を見せてしまうから。