sei様とのコラボ~愛しき娘のいる場所は(20-3)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「おやおや、こんなところで何をしているんだい、君は?」
「……え~~と。……君は?」

 人が通ることがほとんどないからこそ気に入っていた、マロニエの木が見える宮殿裏手に座っていた。
 そこにまさか人が現れるとは思っていなかったので、油断をしていた。

 そして現れた人物が……『人』の形をしていなかったということも予想外の展開だった。

「あぁ、僕?僕はね、大道芸人をしている者なんだ。」

 バサバサと動くたびに大きな音をたてる羽根を、優雅に胸の前に寄せて、目の前のずんぐりむっくりの身体をした鶏は言ってのけた。

「大道芸人……。」
「そう。今の時代は、道化師よりも着ぐるみ。そして、今、着ぐるみ界で熱いのは鶏の着ぐるみさ!!」
「そうなんだ……。」

 着ぐるみ越しに聞こえる声はくぐもっているけれど、まだ若い少年のものであることは分かった。
 そして、語りかけてくる言葉から察するに、目の前の鶏は、クオンの正体を分かっていない。

「君、こんなところで何をしているんだい?ここは王太子宮の前だよ。こんなところでまるでブラックホールを作るような勢いで落ち込んでいたら、衛兵に怪しまれて捕まってしまう。」
「あ、あぁ……。その……捕まりはしないから。大丈夫。」
「あぁ、そうなのかい?そうか!!君、この宮殿に仕えている人間なんだね!?見目麗しいことだし、さぞかし人気があるんだろうな!!」

プキュプキュと軽快な足音を響かせながらクオンに近付いてくる着ぐるみ。
彼は、クオンの隣まで歩いてくると「よっこいしょ」と掛け声をかけながらその場に座った。

「……ふふっ、お尻、汚れない?」
「ふぇ?」
「そんなに白いんだからさ。直接土の上に座ったら汚れてしまうぞ。」
「!?あ、しまった!!そうだよね!!!??うわぁ、着ぐるみの洗濯、とっても大変なのに!!」

 「やってしまった!!」と叫んで立ち上がった彼のお尻は。
 意外な事に全く汚れていなかった。

「あれ?汚れていない。」
「え!?本当!!??よ、よかった~~~~……。」

 「ふぃ~~~~~~~……」と深く長く、安堵の溜息を吐く鶏の様子に、自然とクオンの口角も上がってくる。

「あははっ。」
「むっ。何で笑うんだよ……。」
「いや、ごめん。だって……あんまり必死だから。汚したらどれだけ怒られるのかな?と想像してしまって。」
「人の不幸を笑う奴は最低なんだぞ!!」
「あははっ、だからごめんって。」

 ズビシッ、というよりバサァッと右羽根を突き付けられた。
だが、全く怖くない。
 ぷんぷんと怒りの感情をまっすぐに向けてくる鶏だが、だからといって不快になることもなかった。
 何とも言えない心地良さがあるから不思議だ。

「あ~~~……。笑った……。本当、久しぶりに。」

 ひとしきり笑った後、隣を見ると。
 もはや無言のまま座る鶏の着ぐるみがいる。

「ごめん。ちょっと君の言動が面白かったものだから笑ってしまって。」
「まぁいいよ。僕も大道芸人のはしくれだからね。笑ってもらってなんぼの仕事をしているから。」
「そうか。」

 笑いが治まり、謝罪の言葉を伝えると、鶏もどうやら怒りを沈めてくれたらしい。
 その様子になぜかホッと胸をなでおろしてしまった。

「で?君、どうしてこんなところで激しく落ち込んでいたんだい?」
「え?」
「抜けるような青空!!温かい気候!!全てを輝かせる陽の光!!」 

バサッ、バサッ!!と重そうな羽根を俊敏に動かし、鶏は世界を褒め称えてみせた。

 クオンは鶏が指し示すまま空を眺め、眩しそうに太陽を仰ぎ見た。

「世界がこんなに輝いているのに、君の周囲はなんだい。」
「あぁ………。」

 マロニエの木は、初夏の陽の光を浴びてあれほどまでにたくましく育っているというのに。

「正直、君のような陰気なオーラを撒き散らすような存在は、初夏の空気に相応しくない。景観を損ねるね!!」
「景観って……。ひどいなぁ……。」

 「ははは…」と力無く笑うと、「そういうところだ!!」と鶏がビシッと突っ込みを入れてきた。

「君は一体、何を悩んでいるんだい?」
「何って……。」

 脳裏に蘇るは、幼い日の少女の笑顔。
 充分すぎるほどの時が過ぎても、今も鮮やかに蘇る女の子の姿。

「別に、何でもないよ。」

 だが、それを目の前の誰とも知れない人間(?)に話すわけにはいかない。
 そもそも、クオンは王太子なのだ。こんなところで弱みを見せるわけにはいかない。
 ヤシロにさえ、弱音を吐いたことはなかったのだ。

 ……最も、最近はキョーコに対する不安や弱音だけは存分に吐いてきた自覚はあるが。



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