とある王様の物語(2/3) | 創運の算命学士

創運の算命学士

朱学院系算命学の師範、せなです。


私は、いつものように 宮殿のバルコニーからこの国の街並みを見下ろしていた。ある日私は、いつものように苛立っていた。水路を作れば民の生活はもっと豊かになるはずだったのだ。

 「水路は全て作ったのか?」「民の望みに沿った水路なのか?」「何故民は豊かにならないのだ?」

 私は大臣達を問い詰めたが、その問は疑問ではなく、私を利用している大臣達への怒りでしかなかった。
 大臣達は、私を利用し続ける為の方便と言い訳を繰り返し、いつもと同じ事をした。多くを自分の懐に納め、残った金で水路を切り開くのだった。

私は治安兵を束ねる大臣に同じように怒りをぶつけ、大臣も同じ事をした。穀、医療、燃料を司る大臣達にも同じように怒りをぶつけ、彼らも、いつもと同じ事を繰り返した。

 私も、民から集めた金を我が身の贅に使い、残りを民の為に使った。正確に言えば、民の為に使うように命じた。そして、他国より豊かな街を作った事に満足するしかなかった。シヴァは、何も言わず頭を垂れた。

 私を偽り欺く者たちを我が理想実現の為に利用する行為は、私自身を傷つけた。私は命令するたびに自分自身の心を引き裂いていった。しかし私は、欺く者達を追求することも、信頼できる者を探して要職につけることも、そして、シヴァに何かを命令することもなかった。それは「労する事」だからだ。
 私は、自分が労する事を避ける~手放す~ことで、自分の人生の、そしてこの国のコントロールを手放している事に気づくことは無かった。
<私は、シヴァを要職につける事が怖かったのだ。何を恐れていたのだろう。それはきっと、シヴァと向き合うことが自分自身と向き合うことと同義であったからだと、今は思う>

 軍事力を手放し、「全ての民が豊かさの中で暮らす」世界を実現しようとした私の願いは光から湧き出たものだが、私個人の人生は闇に覆われていた。強大な権力や闇に屈しない精神力の持ち主ではない王は、自らの理想を実現させる為に必要な権力を自らの手でコントロールする事を恐れていた。最高権力の座にありながら、権力に飲み込まれる事を避けていたのだ。
 その意味では、欲に溺れていった大臣達は、私の身代わりだった。いや、私が彼らを闇に落としたと言うべきだろう。


 一方で、民も怒りに満ちていた。改善されない水路や市場、浴場への不満は、大臣達へと向かい始め、同時にその矛先は、富を集め贅を尽くす王族にも向けられた。
 そして、「軍事力を持たずに民へ施す」というこの国の恵みは、いつしか「この国が軍隊を持たないのは、悪政に苦しむ民を開放するために、神が与えた唯一の救済への道」であると説かれるまでに民の間には、憎悪が膨らんでいた。

 その王族の長である私は、この時でさえも他国に比べれば圧倒的に豊かで暮らしやすい国を作ったことを自負し、城の外で暮らす民もこの国の豊かさを祝福していると信じて疑わずにいた。そして、身近にあって自分の理想を具現化する行動を起こすはずの大臣達を疑い、怒り、そして恐れていた。

<あらゆる方向から疑いと憎悪を向けられた者達が権力を握るのなら、進むべき道は一つしか残されていない、大臣達は自らの欲望で道を踏み外したかのように見えながら、実はその道を歩かされていた救われるべき者達だったのだ。>



つづく



あと一息、文才のない翔に、同情と勇気を下さい(^^;