とある王様の物語(1/3) | 創運の算命学士

創運の算命学士

朱学院系算命学の師範、せなです。


わたしはある時、古代アラブの小国に君臨する王だった。


私は、いつものように 宮殿のバルコニーからこの国の街並みを見下ろしていた、王としてそこに立つ歳月が終わろうとしていることを、知る由も無く。

誰もが私と言葉を交わすときには、心に違う感情を抱いていた。ある者は恐れ、ある者は妬み、ある者は取り入ろうとし、私に笑みを投げかけるのだった。

 私は、歴史が評価する人物像よりも、幾分純粋な人間だったと記憶している、「全ての民が豊かさの中で暮らす」世界を現実させるという希望と側近のシヴァだけが、私の幾分の純粋さを支えていた。
 私は、民から富を集め、街を作った。周辺諸国より民の生活が豊かなのは、私が軍隊を持たなかったからだ。我が国に軍事力というものは存在せず、治安を護る兵をわずかに配置するだけだった。水路が無いといわれれば水路を作り、広場が欲しいと言われれば広場を作り、市場が必要と迫られれば市場を作った。

 軍事力に使うはずの富を民の為、そして我が身の贅のために使うこの国は、民も王族も豊かであった。だが何故か、それでも貧する者が絶えることは無かった。大臣達からは、近隣の国からの移民があとを絶たないと知らされていた。

 かと言って、私が立派な王だった訳でも、幸せだったわけでもなかった。人は私を欺こうとし、私を利用し、そして私を恐れた。いつしか私は心を閉ざし、思想や理由を言葉にすることなく、ただ命令するだけの王になっていった。そして私は、王である立場にあることを当然とし、労すると思われる全てを他人に任せた。
 どのような水路を作り、民がどのように使うのかといった事から、自分が食べる果物の皮むきまでの全てを大臣や官女に任せることで、自分の人生のコントロールを手放していった。王族に生まれた私にとってその行為は、空気がそこにある様に当たり前だった。

 そんな私を理解する唯一の人物がシヴァであった。私はシヴァを側近として常に我が身の傍らに置いた。食事の時も、会議のときも、そして、女を抱く時も。
 シヴァには全てを話した。シヴァは私を恐れることも無く利用することも無い替わりに、私の命令に従うことも無かったが、それで十分だった。私を私として扱ってくれるだけで。その事だけが、私の心を人間の形として留まらせていたのかもしれない。

<私は、シヴァに何も命令せず、ただ常に側にいることだけを求めた。それがシヴァの人生の全てを奪うことに気づいたのは、ブログに過去世のことを書いている今この時だった。自責の念を抱いている私の前で、シヴァはあの時と同じように深い瞳を一瞬だけこちらに向け、頭を垂れた>


つづく



文才のない翔に、同情と勇気を下さい(^^;