「戻ってきたか・・・」
王は日差しの中から現れたガゼルをバルコニーで眺めていた。
「陛下・・・。謁見の準備を」
後からバルコニーに現れた男に促されると王は手をかざしながらゆっくりと旋回を始めたガゼルを見送
りながら部屋の中へと戻っていった。
VALENTIはその様子をガゼルから見ていた。
「本当はここから先を陛下には見ていただきたいのだがな・・」
ガゼルはゆっくりと旋回をするとやがてゆっくりと広場に着陸した。
待っていたかのように白衣の男達が着陸したガゼルにストレッチャーとともに走り寄る。
「負傷者を頼む!」
そういいながらVALENTIは足早に建物を目指して歩き始める。
あとからSPAWN、COBRA、PHOENIX、LADYといった副官クラスが降り立ち、その後に続く。
SPAWNはその列からすっとはずれ、ストレッチャーのひとつに歩み寄る。
ストレッチャーには腹部を血に染めた男が横たわっている。
SPAWNの姿を認めると男はすっと手を挙げて弱弱しく笑った。
「下手打っちまった・・・。」
SPAWNはその男に付き添う様に歩きはじめる。
「人がいいにもほどがある。躊躇するやつがあるか」
SPAWNはやや怒気を含んだ声でその男を見据える。
「出会い頭に本当に少年兵に会うとは思わなかったからな・・・。」
その男はSPAWNとは別のチームで作戦行動をしていた。
SPAWNのチームはそのバックアップで後方から援護しながら敵の拠点の制圧を目指していたのだが、基地内に突入して2つめのドアを蹴破った際、そのドアの向こうには少年兵が銃を構えて座り込んでいたのだ。
男は即座に銃を構えたが少年兵とわかった瞬間、躊躇したかのように動きが止まったのだ。
それをみたSPAWNが咄嗟に躍り出たが、それに驚いた少年兵は銃を闇雲に撃ち、数発が男に命中したのだった。
男はもんどりうって昏倒し、それを庇う様にSPAWNのチームが雪崩を打って侵入、制圧をしたのだった。
「少年はどうした・・・。」
男がSPAWNを見据える。
しばらくSPAWNは黙っていたが
「腿の外側を撃って動きを止めた。出血はするが死ぬほどじゃない」
「そうか」
それを聞くと安心したように男は深く息を吐いた。
「余計な心配をせずに早く直せ」
ポンポンとストレッチャーの端を叩くとSPAWNは小走りにVALENTIの元に走り寄った。
LADYがその様子をみて声をかける。
「随分とやさしいのね」
「なにがだ」
SPAWNはぶっきらぼうに問い返す。
「はじめて見たわよ、負傷兵に声をかけるなんて。どういう風の吹き回し?」
「べつに。目の前で死なれたら寝覚めが悪い、それだけだ」
SPAWNは視線を合わさず、そう答えると更に歩を進める。
(いちいちよく見ている。かなわんな)
VALENTIたちは他の兵士が詰所に戻るのを見ながら王宮にある控えの間に入る。
SPAWN達は蒸しタオルで軽く顔を拭き、VALENTIの後ろに控える。
やがて天井まである大扉がゆっくりと開くと更に高い天井と、人数にそぐわないほどの大広間が現れる。
王は奥の玉座に鎮座していた。王の横には従者のように一人の男が控えている。
(・・・・陛下の側近のような顔をして。耳障りのいいことしか言わぬ扇動者が・・・。)
VALENTIはその男を一瞥しながら歩を進める。
VALENTI達は奥に進み、王の玉座に近づく。
SPAWN達はその中ほどで立ち止まり、片膝をついて頭をたれる。
VALENTIはSPAWN達よりも更に玉座に近い位置でやはり片膝をついて頭をたれる。
やがて王が口を開く。
「作戦は成功裏に終わったと聞く。ご苦労であった。」
VALENTIは更に深く頭をたれる。
「陛下・・・。」
王の傍に控えていた男がその後、作戦進行の詳細を話し始める。
王は視線をVALENTI達に向けたまま、それを聞いていた。
「・・・・以上が戦勝の詳細でございます」
男は喋り終えるとそのまま王の傍に座した。
「エラヌス、彼らに褒賞を・・・。」
王は傍に座した男に「何がほしいか聞け」と言うようにVALENTIたちに手を向けた。
「陛下! 僭越ながら申し上げたいことがございます」
VALENTIは頭をたれながら声をあげる。
「陛下の御前であるぞ。分をわきまえよ」
エラヌスが低く、通る声で叱責する。
「よい。申してみよ」
王はエラヌスを制すると話を続けるよう促した。
「先程の話には欠落していることがございます。」
暫く間をおいてVALENTIが続ける。
「今回の作戦で2名が死に、4名が重傷を負い、手当てを受けています」
王はそれを聞いて「ほう」という顔をした。
エラヌスがそれを見て言葉を発する。
「陛下にそのような瑣末なことを話すのは無礼であろう!」
その言葉を聴いたVALENTIはきっと顔をあげると射るような目でエラヌスを睨み返す。
「陛下のお耳に偽りの情報ばかりが入らぬようにするのも蜻蛉の務めゆえ!」
「無礼であろう!。陛下の御前では頭を下げぬか!」
エラヌスが気色ばんで声を荒げる。VALENTIはそれでもエラヌスを睨んだまま動かない。
「よい。VALENTIの振る舞いも我が身を案じてのこと。で、何を望む」
王はVALENTIに優しく問いかける。
「死んだ兵士の家族と負傷した兵士には格別の配慮を賜りたく。」
「わかった。ご苦労であった。下がれ」
「はっ」
VALENTI達は謁見の間を後にすると、控えの間で漸く軍服に着替え始めた。
COBRAが着替えるVALENTIの後姿を見ながらSPAWNに話しかける。
「隊長が感情的になるのも珍しいな」
「隊長はエラヌスが国を惑わす奸物ではないかと疑ってるからな」
(あの男が側近の様な振る舞いをし始めてから国がおかしな方向に傾き始めているのは感じているが・・・・。陛下の信も厚いことは間違いない、特に経済、軍事の面では飛躍的に伸びたのも事実だと思うが)
SPAWNはVALENTIが感情的になる理由はわかるものの、あのような行動に出る理由を理解しかねていた。