夕暮れの中、いづいたちは先刻打撃を受けた敵拠点を目指して移動していた。
「この調子なら夜になる・・・・」
いづいは夜襲の段取りを頭の中で練り始める。
頭数はあるとはいえ、大半は経験の浅いものばかりのこの集団でどうすれば相手の喉を掻き切ることができるか。
なにより、ハマーンが言ったようにウォールハックであれば、まず接近するのに策を講じねばならない。
(頭の痛い話だな・・・・)
日が落ち、あたりが月明かりに照らされ始めた頃、敵拠点1kmの位置に漸く陣を構えることができた。
「散らばれ」
休むまもなく部隊は選抜チームのメンバーを中心としたいくつのかの集団となって拠点の周囲に散開する。
「OK。位置についた」
突撃部隊であるSPAWNのチームは他のチームに比べやや突出し、岩山の影に身を潜めていた。
(息遣いが荒いな・・・・)
SPAWNの背後からは引き連れているチームのメンバーの息遣いが聞こえてきていた。皆、拠点を見つめている。
「おい」
たまりかねてSPAWNが声をかける。
「緊張するなとは言わんが、そんな状況ではとっさの動作ができんぞ」
そういうと胸ポケットから小瓶を取り出して背後のOkakeiに放り投げた。
Okakeiは受け取ったものの、どうすれば良いか、暫く小瓶を持ったまま動けないでいた。
「飲め、なにそれほど強い酒じゃぁない。気付けさ」
それを聞くと各自小瓶の酒を口に含むと次のものに手渡し、回し飲みを始めた。
「司令、ベースから通信です」
いづいの元に通信兵が駆け寄る。
(今動こうかというこのタイミングで!)
いづいはコミュータのピンを通信機器に差し込むと押し殺した声で応答する。
「いづいだ。今から攻撃を仕掛けるんだが・・・・」
と言葉が途切れ、暫くいづいの動きが止まった。
「・・・・判った」
いづいはコミュータのレンジを切り替える。
一呼吸置いて各チームに指示を飛ばした。
「攻撃中止だ。我々は至急後退し、別の拠点に向かう!」
「どういうことだ!!。敵は目の前だぞ!」
コミュータからはチームメンバーの怒号が響く。
SPAWNはコミュータをはずし、いづいの元に駆け寄る。
「このタイミングで撤退しても何も得られんぞ!」
「判っている!」
怒気は含んでいるものの、声のトーンを抑えて二人がしゃべる。
「どういうことだ!眼前の敵よりも優先度が高いものがあるのか」
「ベースからの通信で味方の拠点が攻撃を受けて支援要請が出たんだ」
「他のチームを当たらせるべきだろ!俺たちはすでに作戦行動に入ってるんだぞ」
「今からの展開では間に合わん、俺達が向かうのが一番早い!」
「じいさん、あんまり怒るな、倒れるぞ」
リグがチームを引き連れていづいの元に返ってきていた。
「そうよ。お世辞にも若くないんだから、あんまりカリカリすると余計老け込むわよ」
Risaは撤退準備をしながら諭すように話した。
「おこらずまずは聞け。ここから10kmの位置にある物資拠点が襲われている。拠点の防衛に当たっている人数も少ないが何より・・・・」
「どうした?」
天才が先を促すように問いかける。
「・・・・拠点からの通信では敵が増えているらしい」
メンバーはお互いに顔を見合わせる。
「なんだそりゃ? 増援があるんだったら、もちゃしないだろ。俺らが行く頃には制圧されてるのがオチだぞ」
「いや敵の増援ではないらしい。”味方が敵に”、らしい」
「反乱か?」
「不明だ。いずれにせよ、物資の拠点は失うのはまずい。」
SPAWNはメンバーといづいが情報を整理するのを尻目に自分のチームの元に戻った。
チームは岩陰に隠れながら拠点の監視を続けていた。
「撤退だ。」
SPAWNがそういうと、何人かは「信じられない」というような顔をしてSPAWNの顔を凝視し、あるものは「ふう」というため息とともにその場にへたり込んだ。
「どういうことですか?」
OkakeiがSPAWNにたずねる。
「ここは後回しだ。物資拠点を守らねばならん。が今ひとつ要領を得ない」
「というと?」
「敵の素性がわからんのだ。敵は数を増やしているようだが増援や反乱ではないようだ。」
「・・・面妖な話ですね。で、それを確認し殲滅、ですか」
「そういうことになるな。戻るぞ」
そういうとSPAWNは踵を返す。
チームはその後を小走りで追いかける。
チームはやがて集団となり月夜の中、静かに行軍を始めた。
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「あれか・・・・」
いづいが暗視用双眼鏡を覗き込む。
月明かりで朧気にしか見えないが、火の手は上がっていないのは確認ができた。
「・・・・制圧されたか?」
ハマーンが心配そうな声を上げる
「いや、不明だが・・・・まて!人がいるな・・・」
双眼鏡の倍率を上げると、その人影が動き回っているのが確認できた。
(敵か味方かも判別がつかん・・・・)
いづいは周りを見渡す。
と、少し先の岩山を指差してチームに指示を飛ばす。
「もう少し接近する。人影が複数確認できたが敵かどうかは判別がつかん。警戒怠るなよ」
「照明弾をつかっちゃどうだ」
ハマさんが提案する。
いづいは小さく頷くと傍にいいた兵士に指示を出した。
「照明弾を」
兵士は持参したかばんから照明弾を取り出すと、拠点の上目掛けて発射した。
暫くすると破裂した照明弾がぱあっと拠点を照らし浮かび上がらせる。
と、拠点の周囲に大勢のうごめく影が同時に浮かび上がる。
「なんだ・・・・あれは」
チームは声を失う。拠点の周りにはおびただしい数の人影があり、それらは皆生気を失った顔をしていた。
「あれは・・・・人?か」
その人影はゆっくりと金網や窓ガラスを叩いたり揺らしたりしている。
あんせるが銃を構える。
「どんっ!」
一発がその人影に当たる。人影はよろよろと倒れるとその周りの人影がその倒れた”もの”に群がるの
が見えた。
「・・・・食ってるな」
スコープを覗き込んだままあんせるがつぶやく。
「食ってる?」
ロンズが聞き返す。
「ああ、あれはどうやら人じゃないらしい。」
第4章 Roar of Wolf 完
第4章 Dead Or Aliveに続く