中東は古来、石油という過去の遺物が金を産み、多くの国は富み、そして世界の中での発言力を増してきた。
ただし、その金は常に強き者の傍にあり、その強き者が道を誤れば争いを産み、多くの悲しみとともにまた次の金を産むと言う連鎖をなしている。
中東の小国レンツはその「道を誤った強き者」のために軍事国家となり、周囲の国との領土争いにもう200年近く明け暮れていた。
その間、国家は強き者の血筋を連綿と受け継ぎながら、徐々に独裁色を強め、現在の元首は、5代目、そして国王の肩書きを得て国民を巨大な富の分配と外敵への強烈な打撃による支持とで支配していた。
そして国王を支える仕組みとして国王直属特殊部隊「蜻蛉」があった。
部隊を統べるのは「堕天使」VALENTI、そして副官に「雷帝」SPAWN、ほかレンツ10万の軍人からそれぞれ特殊技能を持った精鋭20名で構成された、近隣諸国にとってはまさに「恐怖」の対象といえる存在だった。
「下知があった。ウラルが肩入れする反政府組織拠点の壊滅だ」
VALENTIが居並ぶ隊員に命令を伝える。
王宮の一角にある詰所は平屋建てとはいえ天井は3階建て相当の位置にあり調度品も国王が与えるという形で高級なものが使われており、常に装備は新式、軍服の襟に蜻蛉のマークが入った特別なものを誂られていた。
「やつらの拠点はベルトガの西100km、拠点の勢力は100名程度だがバックアップにウラル国軍が入った模様、現在ベルトガの東20kmに一個中隊が進軍中、以上」
伝達が終わると隊員は整然と部屋を出、各自の出撃準備に取り掛かった。
部屋を出て行く隊員達の背中を見ながらSPAWNがVALENTIのところに歩み寄る。
「反政府の拠点なぞ叩いたところで何になるのかね」
VALENTIがため息混じりに頬杖をつく。
「王の命とあっては容易には逆らえますまい」
SPAWNがその様子を見ながら諭すように答える。
「蜻蛉」設立当時はその設立理由も行動も崇高なる理念の下、第三者が見ても「正義」があった。
しかし、為政者たる王がその使い方を誤り始めて以降、隊長となったVALENTIにはどうしても「正義」を見出すことができなくなりつつあった。
「しかし、反政府勢力といっても大半は自国民だ。真の為政者は主義主張の異なる者でも受け入れるだけの度量がほしいものだ」
「今回はウラルが後ろ盾に入っています。やつらはこれを足がかりに侵攻を考えている可能性があります。この芽を摘むのも我らの役割かと考えます。」
VALENTIは多少の軽蔑を含んだ笑みを浮かべる。
「お前は忠実だな。」
「私はあなたの命に忠実であることが王への忠誠につながると考えています」
「酒も水に変わるような真面目さは買うがもう少し自分の感性を信じたほうがいいぞ」
そういうとVALENTIは兵装に着替え始めた。
それをみてSPAWNは黙って敬礼をして部屋を出た。
「隊長の言われることも十分理解はできるが、我々軍人は上官の命令は絶対。」
SPAWNは自室で先のやり取りを反芻しながら兵装を整える。
白のフェイスマスクを装着し、薄型ゴーグルを身に着ける頃には先ほどの反芻と葛藤は心の中から消え、任務の情報を反芻しながら部屋を出て行った。
部隊専用の錬兵場の脇に隊員が整列している。
皆白のフェイスマスクにゴーグルといった出で立ちだ。
戦場にあって目立つ色は基本的には好まれない。
ただし、蜻蛉は戦場でその存在を誇示させるためにも目立つ色を敢えて急所である顔の装具として用いている。
隊員はVALENTIの号令のもと、ガゼルに次々と乗り込む。
ガゼルはやがてホバリングから急上昇し、一路戦地へと飛び立った。
「SPAWN」
ぼんやりと外を眺めていたSPAWNに隊員の一人が声をかけた。
「又聞きだから確度は低いんだが・・・・」
「なんだ」
「反政府組織の戦力には子供もいると聞いた」
「で?」
「子供がいるようであればちょっと考え物だな、とな」
隊員は「俺には撃てない」というような困ったそぶりを見せながら答える。
SPAWNが射るような目でその隊員をにらみ返す
「お前はその子供に撃たれて死んでも文句はないというのか」
「いやそういうわけじゃないが」
「だったら口を慎め」
そう言われて隊員は乗り出した身を席に戻し、考え込むように眼を閉じた。
(うちの規律も随分と緩んだものだ・・・・)
SPAWNはやや苛立ちを覚えながら周りを見渡す。
(隊長からしてあのような考えではな。)
SPAWNの視線の先には地図を見ながら行動計画線図を書き込むVALENTIの姿があった。
(俺の国家への忠誠心は隊長あってこそ、だ。それをあのような物言いでは)
SPAWNは入隊当初のことを思い返した。
SPAWNが蜻蛉への入隊という名誉を手にしたとき、すでにVALENTIは副官としてその存在を軍はおろか国の内外に知られていた。
VALENTIがそれだけの注目を集め、堕天使と言う通り名をつけられてるのにはわけがあった。
彼は「元王族」なのだ。
正確には「王族」からある理由で放逐され、その後数年経ってふらりと戻ってきて軍に入り、頭角を現して蜻蛉に入ったという経歴だった。
彼が率いた中隊はレンツが構える戦線の中でも特に激戦といわれた地域に投入されており、その都度戦果を挙げていた。
風説では軍に入った彼をよく思わない王族の一部が軍に手を回し、激戦地にのみ投入されていたとの話もあったほどだ。
戦場での彼の中隊はすこぶる統率され、敵中突破や突撃戦等では敵軍がその存在を知った時にはすでに半数近くを倒しているという、隠密陽動作戦などを得意としていた。
入隊当日、隊長訓示を受けながらSPAWNは副官であるVALENTIを注視していた。
訓示が終わり、解散となったとき、VALENTIは新規入隊の隊員一人一人と握手をしながら何か一言二言声をかけていた。
SPAWNが彼と握手をした際、彼はこういったのだ。
「死ぬなよ」
そのときからSPAWNは彼のシンパとなり、彼が隊長となった今では副官として彼を支えているのだ。
そして彼が変わりつつあるのを目の当たりにしてきたのだ。