第3章
Steel Wheel
夜もまだ明けきらず月明かりが煌々とする荒原地帯を3台の大型トレーラーが列をなして疾走する。
トレーラーはキャビン、カーゴ部分も黒一色で塗装されており、時折月明かりを鈍く反射させている。
やがて大型トレーラの隊列は荒原地帯を抜けて国境近くの渓谷に着くとするすると岩山の裂け目に吸い込まれていく。
トレーラは岩山の裂け目を潜り抜けるとくり貫いたかのようにぽっかりとあいた広い空間に順序良く整列した。
それを腕組みをしながら見つめる男がいる。ウラルの光 総司令 エラヌスだ。
エラヌスの隣には白衣を来た老人が立っている。
「バトウ、あれか。例の重装機兵、は。」
「はい。今回持ち込んだのは30体、実戦テストプログラム用です。担当するオペレータも連れてきました。」
「テスト用の兵士か、随分と余力があるのだな」
エラヌスがバトウを睨む。
「兵士でありません。とある国の死刑囚です。このテストが終われば釈放、という条件で志願した者です」
「ほう・・・。」
バトウと呼ばれた老人はトレーラのドライバーに手で合図を送る。
ドライバーはそれを見ると、運転席から操作をして、それぞれのトレーラのウィングハッチを開ける。
鈍いモーター音とギアノイズがする中、ウィングハッチが全開となる。
1台には銃を携えた兵士と手錠を掛けられた件の囚人が、他の2台には人影はなく、鋼鉄製のケージとハンガーが姿を現す。
「おお」
思わずエラヌスが声を上げる。
そこにはハンガーに吊るされて露草色の甲冑のようなものが整然と並んでいた。
「筐体にはすべて油圧式パワーアシストがついています。ブローニングM2重機関銃程度ならもって走れる、といっておきましょうか」
「なるほど」
エラヌスが満足そうにうなずく。
その様子をちらりと見たバトウはさらに続ける。
「装甲は十分に厚くしましたが、可動部分はやや劣ります。補う方策としてドラッグシステムを採用しました。」
「ドラッグシステム?」
エラヌスが怪訝そうに聞き返す。
「はい。可動部分にはすべて10mmピッチで1mm径のチューブを仕込んでいます。そして背面のバックパックにはモルヒネが仕込んであります。」
「どういう仕組みだ」
「可動部のチューブには大動脈の出血すら瞬時に止める強力な血液凝固成分が封入されています。
可動部が被弾、損傷した場合にこのチューブも損傷し中の血液凝固材が被弾損傷部にかかって
血を止めます。
同時に背後のバックパックのモルヒネが極細の注射針によって筐体内の兵士の首から体内に供給されます。
これは被弾を感知するたびに動作する仕組みになっています」
バトウは一呼吸おいて言葉をつないだ。
「つまり、この筐体を装着した兵士は、被弾負傷の痛みはモルヒネの麻酔作用によって限界まで緩和され、絶命寸前まで戦闘参加できるのです」
「おもしろい仕掛けだな・・・・。死ぬまで戦うか、それはいい、リソーセスは有効活用せねばな・・・・、くっくっくっくっく」
エラヌスは押し殺した笑いを収めるとバトウに命じた。
「実戦テストには敵の拠点をつかうといい。なるべく多くのデータが得られるよう、時間を掛けて攻めて嬲りごろせ・・・・。」
「はっ」
バトウは同行している兵士に合図を送る。兵士たちは囚人一人一人に重装機兵を装着し始める。
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「出るぞ!」
いづいが声を上げる
「ヤー!!」
チヌークはベースを飛び立つとすぐさま最大戦速まで加速する。
「防衛拠点が攻撃を受けている。俺たちは拠点撤退の殿を務める。敵兵力は10」
いづいが状況と目的を伝えるとメンバーはそれぞれ驚きの声を上げた。
「たった10! おいおい俺たちチームが総出で行くほどのことか? 整備兵士しかいないのか、その拠点には!」
リグが不満そうに吼える。
「敵はロボット、という情報もある!」
いづいが怒鳴り返す。
「ロボット?」
「正確には全身装甲で身を固めた兵士だ。銃撃の量と威力が激しくて身動きが取れないらしい」
「ついにはロボット相手か」
ジョーが吐き捨てる。
そうこうするうちに目指すべき防衛拠点がメンバーの眼前に現れる。と同時にメンバーは言葉を失う。
「おいおい、10人の火力じゃないぞ・・・・」
そこには豆粒のように見える敵兵力は確かに10人ほどだが、それらはガトリング砲を両手で操り、まさに弾幕を形成していた。
防衛拠点はその凄まじい攻撃に晒され、建物のほとんどは崩壊し、瓦礫の間から時折銃撃がある程度の反撃しかできていなかった。
「行くぞ!」
ホバリングするチヌークからメンバーがつぎつぎと降下する。
敵はチヌークに気付いているはずだが、銃撃の対象を防衛拠点から移すことなく、さらに攻撃を続ける。
(指揮官がいないのか? それともなにか誘いでもあるのか)
SPAWNはその状況を確認しながら岩陰に身を潜め、Kriegに銃を装てんする。
メンバーもそれぞれ、狙撃準備に入る。
(・・・・・あれは・・・・・・重装機兵!)
スコープを覗き込んだSPAWNは驚きのあまり、スコープから一旦顔を上げる。
「マスター!敵は重装機兵だ!」
SPAWNがコミュータでいづいに伝える。
「もっと接近しようぜ! この距離じゃダメージが与えられない!」
ハマーンが訴える。
同時にチーム全員が走り始める。
「少なくとも500まで接近する」
コミュータでいづいの指示がメンバー全員に飛ぶ。
その間も、移動するチームには目もくれず、敵の攻撃は続く。
SPAWNがややメンバーから遅れ始める。
「じい様大丈夫か?」
リグがおくれるSPAWNを見ながらコミュータ越しに声をかける。
「先に行け・・・・」
SPAWNはやがて歩き始める。
(ったく。とはいえこの年でマラソンとはね)
ハマさんがその様子を見ながら、肩をすくめる。
SPAWN以外のメンバーは各国軍隊の第一線で活躍する現役の軍人で、この程度の行軍であれば難なくこな
せる体力が備わっていたがSPAWNは退役軍人ということもあり、この手の運動能力、特に持久力を要する
作戦行動には難があった。
(まったく、われながら情けない!)
SPAWNは乱れる呼吸を鎮めながら自分を叱咤する。
(それにしてもあの資料はつい最近のものだった・・・・。すでに配備が始まったということか・・・・)
SPAWNはゆっくりとしたスピードで再び走り始める。
(あの資料どおりであれば、倒すのは難儀だな)
漸くSPAWNがメンバーに追いつく。
距離はおよそ250m。いづいは最初の指示よりもさらに接近しての戦闘を選んだ。
(これ以上近寄ればあの火力との真っ向勝負・・・・。できればこの距離でけりをつけたいんだが・・・)
各々が狙撃体制に入る。
各自が以前のブリーフィングで議論したとおり、皆、重装機兵の首を狙う。
「ドンッ!!」
「ドンッ!!」
「ドンッ!!」
肩、腕、顔などに着弾はするものの、その威力は貫通、ダメージを与えるほどではなく、重装機兵は多少よろめくようなそぶりを見せるが、すぐに攻撃態勢に戻ってしまっていた。
「やはり可動部位外にダメージを与えられる場所はないか・・・」
スコープ越しに首筋に狙うロンズの一撃が重装機兵の一人の首を捉える。
「よし!」
スコープ越しに血飛沫が飛ぶのを確認したロンズがガッツポーズをとる。
被弾した重装機兵はよろよろとよろめくと、がっくりと片膝をついて、今にも昏倒しそうになっているのがスコープ越しに見て取れる。
(よし、いけるか!?)
いづいが楽観視した瞬間、片膝をついていた重装機兵がゆっくりと立ち上がり、何事もなかったかのように攻撃を再開したのだ。
「なに!」
メンバーから驚きの声が上がる。
「ロンズ、しとめそこなったか?」
いづいがコミュータで確認する。
「いや、確かに命中して血の飛沫も確認した!。あの量は動脈のはずだ! 何で死なねえ!」
(俺たちが相手にしているは本当にロボット・・・・。まさか・・・・・)
重装機兵がいっせいに攻撃を止めた。
ゆっくりと体の向きを変えると、今度はアサルト選抜チームに正対するように10対の重装機兵が隊列を組み直し始めた。
(おいおい、これはやばい状況になったってことかよ)
Steel Wheel 完
GetBackに続く