第1章
**********Suspicion
チームが戦場を離れて2時間ほどたった。
レンツとウラルの国境近くにある反政府組織”ウラルの光”の
前線司令部にもその結果がもたらされた。
「司令、入電です。」
そういって情報将校が男にメモを渡す。
男は年配だが大柄で色黒、口ひげをたくわえた、いかにも軍人という感じの男だ。
彼の名はマイバッハ。
元ウラル国軍陸軍大将、クーデターの首謀者の一人であり
現在はその組織を”ウラルの光”と名づけ、ウラルに対して再度戦いを挑んでいた。
メモを読んだマイバッハはメモに火をつけて灰皿に放り込んだ。
ゆっくりとした動作で目を閉じてタバコに火をつける。
大きく吸い込んだ後、ゆっくりと吐き出す。
「・・・補給拠点ですら、これほどの攻撃を加えるのか・・・。」
(補給拠点とはいえ、100名近い兵力を配備していた・・・。それをたった20名ほどで殲滅、か。補給拠点の情報は厳重に管理されている。どうやって探知したのだ・・・・)
情報将校は指示を待つようにやや離れた位置に控えていた。
「敵についてもう少し詳細な情報はあるか?」
情報将校は直立不動のまま、答える。
「はっ!攻撃は20名ほどの歩兵部隊、デスバレーから投入されたものと思われます。!」
情報将校はさらに続ける
「主力はアサルト選抜チームと名乗る集団で、殲滅はそのものたちによるもの、とのことです!」
「周辺の警戒は?捕縛されたものは」
「2日前から本部の要請で警戒要員を減員しておりましたので、当時の警戒レベルはレベル1、捕虜は確認できておりません!」
マイバッハはさらに続ける。
「敵はその後どうしている、他の拠点に向かったか」
「デスバレー方面にチヌークが飛び去っており、その後周辺拠点から視認の報告はありません!」
「わかった。周囲の拠点に増派、各200だ。」
「はっ!」
情報将校は敬礼をすると踵を返し、部屋を出て行った。
(内通者の存在は否定できんな。)
マイバッハは身支度を整えながら、なおも考える。
(エラヌスが連れてきた傭兵集団も考えてみれば怪しい。しかしわしについてきた兵もこの戦いで随分と減ってしまった。大義のためには外部の助けを要らぬ、とはいえぬ状況ではあるのだが)
マイバッハは身支度を整えると部屋の外に出て車両倉庫に向かう。
「出かける。」
そうマイバッハが声をかけると車両倉庫に数名の兵士が走りこみ、やがてハマーをマイバッハの前に停めた。
乗り込みながらドライバーに声をかける。
「エラヌスのところへ」
「了解です」
ゆっくりと走り出すハマーの後部座席でマイバッハはより深くシートに体を沈めた。
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いづいはなおもガヤルドに食ってかかろうとしたがそれを天才が止める。
「はなせ!」
「もういいだろう。死んでしまったものはいきかえらない」
いづいは無理やりに怒りをその内に押しとどめる。
「わかった。行こう」
チームは無言のまま、フロアに戻り、各部屋に帰っていった。
チームには出撃後の休養時間として8時間が与えられた。
「さて」
SPAWNはシャワールームで汗を流す。
(・・・ふぅ。)
流れ落ちるシャワーの中でSPAWNは暫く瞑目していた。
(手足の震えが止まらない・・・。久しぶりの実戦で高揚している、というところか)
現役の頃には感じなかったことだった。
「感覚は鈍っていなくても体はそう簡単ではないか」
思わず口に出してその後SPAWNは苦笑する。
短めにシャワーを切り上げるとSPAWNはバンケットに向かった。
バンケットはとても地下にある施設とは思えないほどの広さと天井の高さを持っていた。
辺りを見回すと、それぞれ異なる軍服を着たものが、いくつか集団となって食事をしていた。
(マスターが言っていたように他にもいくつかのチームがあるのだな。
それにしても研究所の設備というのは贅沢だな)
SPAWNは適当に食事を取り、最後にビールをトレーに乗せた。
バンケットの奥のほうには人も少なく、SPAWNはその中でも特に人気の無いエリアで席に着いた。
「相席いいか」
SPAWNが視線を上げるとそこにはガヤルドが立っていた。
「かまわんよ」
特に意に介する風でもなくSPAWNはそういうと食事を続ける。
「マスターが来たらもめることになると思うがな」
「資料を読んだが、元レンツの軍人だそうだな」
ガヤルドはSPAWNの嫌味には耳を貸す風でもなく問いかける。
「そうだ」
「先の大戦でウラルを攻めたレンツの元軍人が今度はウラルで何をしようとしている」
(やはりその話題か)
SPAWNは内心、相席なぞ許すのではなかった、と後悔した。
「俺はウラル政府からの招聘に答えた、それだけだ」
「ふん、戦場の緊張感に痺れた軍人は数多い。
貴様もその麻薬が恋しくなったということか。
そして今度は傭兵か」
SPAWNは食事の手を止めるとガヤルドを見据える。
「俺はともかく、チームのメンバーは各国のエース級が集まっている。正式な手続きを踏んで派兵されている彼らは傭兵ではない!」
そういうとSPAWNは席を立ち、その場を離れた。
が、立ち止まるとガヤルドのほうに振り向いた。
「今回の作戦、攻撃拠点ではないところに俺たちを投入したのは誰の差し金だ。
どうやらウラルも一枚岩ではないようだな」
そういうとSPAWNはまた歩き始めた。
(ふん、老いぼれの癖に嗅覚は衰えていないということか。)
ガヤルドは残りのサラダをビールで流し込み、席を立った。
(大義のためには策謀も不可欠、そういうことは兵隊にはわかるまい・・・。)
Suspicion 完
Easy Actionに続く