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面接と駐車場

そうこう話を聞きながら、グレ男さんが面接する会社に着きました。


 グレ男さんの面接の時間まで、かなり時間はありましたがグレ男さんのお父さんは面接する会社の駐車場に着くと車のエンジンを止めてしまいました。
 駐車している場所は、面接を受ける会社のすぐ目の前です。きっと会社の中からも私達が親子連れで来ていることも見えているでしょう。


 いい年齢の男の人が、親子で面接に来ているなんて会社側から見たら採用するとは思えませんし、せめて、会社から見えない位置で車を止めてくれればいいのに、と思いましたがグレ男さんのお父さんはまったく気がついていないようです。
 
 グレ男さんは携帯電話を持っているのですから、面接を終えた後電源を入れて連絡を取り迎えにくるなりすれば良いのに、お父さんは駐車場で待っているといいました。
 
 「面接まで時間があるけど、それまでここで面接の練習をしよう。」


 と、グレ男さんのお父さんは言いグレ男さんに色々と面接で聞かれたらこう答えるのだとレクチャーを始めました。


 何度も言いますが、グレ男さんは成人しています。


 成人した子供を面接地まで送り(迎えも含む)、面接の練習の手ほどきまでしています。
 
 何から何まで私の予想超えていて、呆気にとられていました。


 言い換えると、呆れていたと言い切ってもいいかもしれません。


 面接の時間が近づいて、グレ男さんは会社に入っていきました。


 グレ男さんのお父さんは、カバンからお握りを取り出すと「ちぃちゃんもひとつどうだね。お腹がすいただろう。」と進めてくれましたが私は食欲がありませんでした。


 初めからグレ男さんと2人でドライブの予定でしたし、私はこんな遠くまで出かけたのだから外食をするつもりでもありました。
 グレ男さんのお父さんがいても外食ぐらいは連れて行ってもらえないのかと、思うとますます食べる気になりませんでした。


 お握りを断ると、グレ男さんのお父さんは一人でお握りを食べていました。

 私は車の窓から、会社の後ろにすぐある小高い丘(山かもしれません。)を見ていました。
 
 お握りを食べ終わったグレ男さんのお父さんが、私に話しかけてきました。


 「面接が終わったら、帰りに娘の所寄るけどちぃちゃんは時間とか大丈夫かね?」


 観光はしなくても、娘と孫には会いに行くと言うのです。


 呆れていた私は早く帰りたかったのですが、諦めていましたし「大丈夫です。」と返事をするしか答えようがありませんでした。



 私は妹さんにも、その旦那さんにも会いたくなかったのですが。

保護者

グレ男さんが面接に行く日のことです。その日は、天気も良くて絶好のドライブ日和でした。


 私の家までグレ男さんが迎えに来てくれました。
 車の運転席には、グレ男さんのお父さんが座っています。


 何故、グレ男さんのお父さんが運転席に座っているの!?


 私が戸惑っていると、グレ男さんがうんざりとした表情で言いました。


 「親父も一緒に着いていくんだってさ。俺の運転で長距離は危険だからって母さんが言うんだ。」


 私は、考えが読まれていた。と思いました。

 グレ男さんと私が面接をすっぽかさないように、お目付け役としてグレ男さんのお父さんが着いてきたのです。有給休暇を使って、会社を休んでまで。


 今まで私とグレ男さんの2人で、車で長距離を走り小旅行に行った事が何度もあるのに、運転が危ないとお父さんが来るなんておかしすぎます。


 グレ男さんのお父さんは「グレ男じゃ、面接する会社までの道もわからんだろう。」と言ってましたが、私は地図が読めるので迷わない自信がありました。


 2人でついでにドライブ。なんて出来ず、私は最悪のドライブをすることになりました。
 グレ男さんのご両親は、私がタバコを吸うことを知っては居ましたが、実際に目の前で吸ったことは今までなくタバコも我慢しなければなりません。


 面接までの道のりの最中、グレ男さんのお父さんは普段、無口と聞いていたのですが気を使ってくれたのでしょうか、それとも田舎行きが決まりそうで嬉しくて多弁になっていただけなのかわかりませんが色々と話ました。


 「私達は、退職したらこういう田舎に住むのが夢でね。」


 「私はアウトドアが好きだから、今住んでいる町よりも田舎っていいだろう。自然が一杯で山もあるし。」


 「ちぃちゃん、田舎もいいもんだろう?」


 などなど、田舎のよさをアピールしてましたが、私は「田舎に住むのが夢。」という言葉がひっかかっていました。


 あなた達が年を取ったら田舎に住みたいから、私達を妹さんの近くの田舎に就職させようとしているの?!


 ご両親が退職までは同居はしなくていいのだろうけど、もしかして、退職したら同居するってことなの??と、素直にグレ男さんのお父さんの言葉を聴くことができませんでした。


 通り過ぎる町を軽く説明してもらいながら、ドライブしていましたが観光なんてとても出来る雰囲気ではありませんでした。


 私はタバコだけでなく、トイレも空腹も我慢していました。
 面接まで時間に余裕があるというのに、お昼時になっても食事を取る気配は一切ありません。


 やがて妹さんが住む町に着くと、さらにグレ男さんのお父さんがいいました。
 
 「この町に娘(妹さん)が住んでいてね。いい町だろう?」


 私には、とてもいい町には見えませんでした。お店もコンビニも何も無く人気も少なくて、私は絶対に住みたくない町です。
 普通の観光旅行ならこのように思ったりしないのですが、いざ自分が住むかもしれないとか視点が変わるとチェックする目も厳しくなってしまいます。
  
 「地元のように、車が多くて渋滞することもないし。」


 グレ男さんのお父さんは嬉しそうに話していますが、私はこの町を見て病院とか学校とか歯科を見かけなかったので、この町に住んでいる人はちゃんと生活しているのかと不便さが目に付き逆に不安になっていました。
 私がバイトやパートで働けそうなお店もみかけません。



 グレ男さんのお父さんの機嫌のよさとは、うらはらに私は暗くなっていました。

譲歩

テレビなどでたまに見るキャッチセールスのように延々とリビングで「田舎へ行け。」と、同じ話を堂々巡りしていても埒が明かないと思った私は一歩譲ることにしました。
 (普通のセールスでしたらはっきりと断れるのですが、グレ男さんのご両親のセールスだと横柄な態度は取れませんし。)


 とりあえず、面接だけ受けるだけ受けてグレ男さんのご両親の顔を立てようと、考えました。

 脅迫じみた話をされてグレ男さん自身がどう思い、考えているかもこの場では聞けなかったのもあります。


 自分自身の将来について、グレ男さんはどう考えているのか。


 このまま、親が決めたレールの上をただ歩いていいのか。


 グレ男さんと2人だけで話す必要があると思いました。


 今までハローワークなどには一緒に通っていましたが、込み入った話はしたことがなかった。
 静観すると決めていたけれどグレ男さんの就職の話に、私を巻き込んだのはご両親なのですから話してもいいと思っていました。


 面接を受けてみると、話した後。グレ男さんと2人きりになりたかった私は、グレ男さんを誘って車で出かけることにしました。
 このままグレ男さんの実家で話していては、聞き耳を立てられていないとは限りませんから外に出て話したいと考えていました。

 レンタルビデオを返しに行くついでに、車の中でグレ男さんと話をしました。


 私は、ほとんど文句ばかり言っていました。


 「どうして庇ってくれなかったの?」


 「どうして私がご両親とグレ男さんの就職のことで話さなければ、呼び出されなければいけないの?グレ男さんとご両親で話し合いするのが普通でしょう。」


 「話の最中に、つけてやるとか言われたけど私は物じゃないわよ。」


 などなど、グレ男さんに言ってはならない文句かもしれませんが私は、止まらなかった。

 話し合いの最中、ずっと怒るのを我慢していたのですから当事者であるグレ男さんに当たりたかったのもあります。
 
 グレ男さんはほとんど無言で私の文句を聞いてくれましたが。今思うと、聞いてなかったのかもしれません。
 
 グレ男さんに確かめると、やはり「田舎には行きたくない、住みたくない。」とのことです。


 給料は安いけど地元で仕事を見つけたい、見つけるとグレ男さんは言いました。

 問題は、結婚を認めてもらえない。ことだけです。

 グレ男さんが本気なら、結婚を認めてもらえなくても地元でしっかり仕事してご両親を説得してくれるはず。
 いくら給料が安くても就職していればこんな話にもならなかったことでしょう。
 就職すれば仕事をしていない今のグレ男さんより、話を聞いてくれるようになるかもしれません。
 一人で無理なら二人で頑張るしかないと思っていました。
 (最悪、妹さんがしたように駆け落ちかな、とも思っていましたしね。)
 

 私は「それなら、面接だけ受けて。それか、面接に行った振りして数日後に、落ちたって言えばいいよ。」と、変なアドバイスをしました。
  
 「ちぃも、一緒に面接にいく?」


 と、グレ男さんが誘ってくれたので私は一緒にドライブがてら面接についていくことにしました。


 「帰りに色々観光したりしてこよっか!」


 面接を受けても受けなくても、とりあえず田舎へ行くことにしました。見方を変えればドライブ。
 と考えていた私達は、まるでデートの延長と言ったノリでした。
  
 後々、この私達の考えが甘いことを知るのです。

 

建設

客観的に見れば、グレ男さんのご両親が提案する話もわかります。例えそれが、建前だとしても。


 確かに、地元では就職先がなかなかありませんでした。特に、正社員の仕事は皆無に近かった。
 グレ男さんと一緒にハローワークに通っていたので、私でも求人状況がなんとなくわかります。


 ですが、私は同棲していた時に住み慣れた育った町を離れ友達のA子がいたけれど心細かったこと、同棲していたB男に裏切られたことなど
 辛い思いをした記憶しかなく、住み慣れた町を離れるとその時と似た状況になりそうですごく嫌でした。
 もう2度と住みなれた町を離れることだけは、したくありませんでした。


 実は、この時グレ男さんの実家はリフォームしてアパートにすることが決まっており、今回の話し合いで呼ばれる前にグレ男さんのお母さんから改装するアパートの見取り図(予想図)や見積もりなどを見せてもらっていました。
 その工事の着工まで2,3ヶ月しかない状況でした。


 その事も知っていた私は、もしかしたら工事が終わるまで仮住まいするアパートのこともあるんじゃないのかしら?と、思いました。
 車を3台置けるようなアパートなんて早々見つかるわけもありませんし、グレ男さんに「田舎に行くなら車を1台つけてやる。」とも言ってましたから。
 (グレ男さんのお父さんの車。お母さんの車。おじいちゃんの車の3台ありました。)


 アパートを建てるのにお金がかかるし、グレ男さんが無職のままでは面倒が見切れないのもわかります。
 
 ご両親と話をする前から私とグレ男さんの意見は、「田舎に行きたくない。」と、そろっていました。

 私を説得して田舎行きを「YES」と言わせようとグレ男さんのご両親は必死でした。


 次第に、田舎にいけばこうしてやる。という条件も良いほうへ付け加えられていきました。


 「借りる部屋の敷金礼金も出してやるし、引越しも全部こっちがやってやる。」


 「生活が安定するまで生活の援助をしてやる。」


 「グレ男が今乗っている車もつけてやるし、家具とか必要なものもこっちがそろえてやる。」


 どんな条件を出されても、私が首を立てに振らずに居ると痺れを切らしたのか切り札である「田舎に行かないと結婚は認めない。」発言を幾度も言うのでした。


 私は「確かに、地元ではなかなか仕事が無いように思えます。ご両親が話される田舎の求人の条件ほどいい所は地元では無いでしょうね。」と客観的に思った事実だけ述べました。
 
 それを聞いて、グレ男さんのご両親は私の説得に成功しつつあると思ったのでしょう。
 私の考えを知らずに。


 私は続けました。


 「ですが、こんなに妹さんの旦那さんと住む場所が近いと、もしその町に就職が決まったとしたら(グレ男さんの)お母さんから聞いていますが妹さんの旦那さんはギャンブル癖があるようですし、お金使いも荒いと。」


 「グレ男さんの元お友達ですし、近くに住んだことでグレ男さんをギャンブルや遊びに連れまわされるのは困ります。」


 本音であり、遠まわしに「何故、就職先の候補が妹さんの近くじゃなければいけないのか。」と、伝えたつもりでした。
 ご両親が見せてくれた求人票と近い条件、もしくは同じ条件なら妹さんの近くじゃなくても他の田舎でも探せばありそうでしたし。


 すると、散々妹さんの旦那さんの悪口を言っていたグレ男さんのお母さんは、目に見えて不機嫌になりました。
 グレ男さんのお父さんも不機嫌そうでした。


 そうでしょう、例え事実だとしてもグレ男さんのお母さんが他人の私に身内の悪口を話している事をはっきり言いましたし、はじめは色々あったらしいですが孫が生まれ妹さんの離婚話が落ち着いてからというもの「妹さんの旦那さんをを見直した。」と、話していましたから、私に指摘されて面白くないでしょう。

 もちろん、この後ご両親は妹さんの旦那さんを庇いました。


 「今は、前ほどひどくはない。真面目になっている。」
 
 まだギャンブルとかしているんですね。
 
 「グレ男はギャンブルはしない子だから、誘われてもいかないだろう。」


 学生時代、その友達(妹さんの旦那さん)と賭け麻雀していたと聞いてますよ。
 
 「妹のところと、グレ男の生活は違うからその辺もわかってあまり誘わないと思う。子供も居ることだし、家庭があるんだし。」
 
 子供が居ても女を連れまわして遊んでいたり、家庭があっても今もギャンブルを続けているのに?


 「それに、妹と近くなら私達(両親)も安心だし、住み慣れない土地でわからないことがあれば、色々聞けるし、ちぃちゃんも心強いでしょう。」


 それ(ご両親が安心。)が本音ですね。
 
 思っても、言えば話がこじれるだけなので実際には突っ込みませんでしたが、私は上記のように感じていた。
 グレ男さんのご両親が庇えば庇うほど私は、アラ(本音)がみえた気がしました。



 後に、この時グレ男さんのご両親が自ら言い出した条件が変わるんですけどね。

脅迫?

グレ男さんのご両親に呼ばれて、リビングで話し合いをしていて私は「開いた口がふさがらない。」状態になっていました。


 正直な話、グレ男さんが仕事を見つけるかどうかなんて話は、グレ男さんとその両親だけの家庭の問題ではないのでしょうか。
 なぜ、私がグレ男さんのご両親に呼び出され、しかも仕事が見つからないのは私と交際しているからだといわれなければならないのでしょう。
 ご両親はグレ男さんの仕事が長続きしないのは、私のせいだといわんばかりです。


 答えはすぐにわかりました。


 「グレ男は、ちぃちゃんのことばかりだから。親の言うことは聞けなくてもちぃちゃんの言うことなら聞くのよね。」


 グレ男さんのお母さんに、そうはっきり言われて私がなぜ今、ご両親と話しをしているのかわかった気がしました。
 
 ご両親の考えは、私を説得すればグレ男さんも言うことを聞くだろう。と、思っているようです。
 仕事を探しに行かないのも、仕事を決めないのも 私が許可しないから と思っているとも受け取れます。
 
 私の感じたとおり、グレ男さんのお父さんとお母さんは話を続けていきます。


 グレ男さんのお父さんが話すには、地元では仕事が無いから田舎に就職しろということでした。


 「田舎ならここよりも給料もいいから、2人でやっていけるだろう。田舎に行くならはじめの1年は生活を面倒みてやってもいい。」
 
 「グレ男が田舎にいくならちぃちゃんをつけて上げるから、結婚も認めてもいい。」


 つまり、私との結婚を条件に田舎へ行けということです。言い換えれば、田舎に行かない限り結婚は認めないということです。


 ご両親の話を聞きながら、私は脅迫されてるように感じました。
 
 つけてあげるって、私は物じゃないわよ。


 と、言いたくもなりましたが喧嘩をしにきたわけではないので我慢しました。


 この時グレ男さんのご両親が求人票を私達に見せたのですが、その「行け」と言っている「田舎」はグレ男さんの妹さんが嫁いだ町と同じ町と隣町でした。


 候補は、3箇所ありましたが2箇所は妹さんの隣町です。1箇所は同じ町。そして、ご両親が選んだ就職先以外は認めないとのことでした。

 以前、グレ男さんのお母さんから孫の運動会に行ったこと、よく妹さんと孫に会いに妹さんの所へ行っていることを聞いていましたから、私はグレ男さんのご両親がどういった考えから、田舎にいけと言っているのかなんとなくわかりました。


 妹さんの近くに私達を住まわせれば、グレ男さんの両親にとって何かと都合がいいからのようです。


 妹さんや孫に会うついでに、自慢の息子であるグレ男さんにも会えるだろうし、近くの妹さんから何かと情報も入ってくることでしょう。
 (後から私がこの時感じた予想通りだったことが判明します。)


 グレ男さんのお母さんは孫が生まれてから、こまめに妹さんと連絡をとっていましたからね。
 
 就職先候補の1つは、グレ男さんの妹さんが進める職場でもありました。
 グレ男さんのお母さんが頼んだのかわかりませんが、妹さんが求人票見つけてきてFAXで送ってきてくれたそうです。
 
 心の中で私は、妹さんも一枚噛んでいるのね。と思い、余計にグレ男さんのご両親の事が信じられなくなりました。
 
 確かに、グレ男さんが実家に居続ければ妹さんも実家に帰りづらいでしょう。グレ男さんとのデートで私もよく遊びに行っていますし。
 グレ男さんのお母さんからすれば、娘と気兼ねなく過ごしたい日もあることでしょう。
 第一、妹さんと私やグレ男さんを会わせることは、グレ男さんのお母さんにとっては気が気じゃないのでしょう。
 妹さんの家庭事情をグレ男さんのお母さんから聞いていましたし、妹さんの携帯電話のメールチェックしていることだって知っていましたから。



 しかし、私はどうしてもグレ男さんのご両親が提案する、脅迫じみた話に納得が出来ないのです。

呼び出し

仕事が決まらないまま、無職の生活を続けるグレ男さん。


 ある日、私とグレ男さんがデートをしているとグレ男さんのお母さんとお父さんにリビングに来るように、と私が呼び出されました。
 私は、グレ男さんと2人でリビングまで降りて行きました。
 リビングに入ると、胡散臭そうな顔つきでグレ男さんの両親がソファに座っていました。
 明らかに不機嫌そうでした。
 
 グレ男さんのお父さんに勧められて、グレ男さんの両親と向かい合わせにソファに座るとグレ男さんのお母さんから「2人に話があるのよ。」と、言われました。


 「お父さんから話があるから聞いて頂戴。」


 いつもと違う雰囲気です。私自身は、私にも話があるって一体なんの話なのだろう?と思っていました。


 グレ男さんのお父さんが確認するように私に質問してきました。


 「2人は将来のこと、どう考えているんだね?」


  どう考えていると、聞かれても私は返事のしようがありませんでした。
 正式に結納を交わしたわけでは無いけれど、今では婚約指輪も貰っています。
 そのことは、グレ男さんのお母さんも知っているはずです。
 結婚を前提に付き合っていることも知っているはずです。


 私が黙ったままで居ると、グレ男さんのお父さんが続けました。


 「母さんから話は聞いているが、将来一緒になるつもりなら今のグレ男を見ていてどう思っているんだね?」


 私は正直に答えました。


 「グレ男さんの仕事のことでしょうか?仕事のことでしたらグレ男さんが決めることですから任せています。」


 グレ男さんが真剣に考えているなら、就職のこともこれからのことも考えていると信じていましたし、
第一グレ男さんがどんな仕事を決めるかどうか、一介の婚約者である私には関係が無いとも思っていました。
 まだ結婚していませんからそこまで口を挟む権利が無いとも考えていました。


 グレ男さんのお父さんは、今は不景気でたいした仕事もないこと。あっても到底結婚してやっていけるだけの給料はもらえないことを話しました。


 私はグレ男さんの給料だけでやっていけなくても、共働きするつもりですと、返事しました。


 ですが、グレ男さんのお父さんは「これから結婚したとして、子供が出来たらどうするんだね?妊娠したり子育てをするようになれば働けないだろう。」と。


 話を聞いていて私は、あれだけ同居同居と言ってたグレ男さんのお母さんが何も言わないでいるのが不思議でした。
 家事の分担の取り決めの話や、子育てや子作りするならいつごろがいいとまで、色々言われていましたから。


 グレ男さんからは「意見が変わりやすいから、本気にするな。」と、言われていたので当てにはしていませんでしたが、どうやら私たちの結婚にグレ男さんのご両親は反対のようです。


 そして、グレ男さんが仕事を決めずにブラブラしているのは私のせいだと遠まわしに言われました。
 リビングに入った時から、私が感じていた雰囲気はこのことが原因のようでした。


 いまだに、グレ男さんが仕事を見つけないでいるのが私と付き合っているせい?!


 どこをどう考えれば、そう見えるのか私にはわかりませんでした。


 確かに、デートの回数は増えましたが、一緒にハローワークに通ったり私の家でパソコンで求人票をみたりしていましたし、グレ男さんの両親が言うように、私と付き合っているからだとは私は思ってもみませんでした。
 そのようなことを言われても納得出来ません。


 グレ男さんのお母さんが言いました。


 「ちぃちゃんと付き合ってからグレ男変わったのよねぇ。前はこんな子じゃなかったのに。私の言うことを素直に聞くいい子だったのよ。」と。


 受け取り方の問題なのでしょうけれど、私と交際していることでグレ男さんがだらしなくなったと遠まわしに言われた気がしました。
 
 「ちぃと付き合ってることは関係ないだろう!!」


 そうグレ男さんがいってくれるのを期待しましたがグレ男さんは無言のままでした。


 

 私とグレ男さんの両親の対決(話し合い)が始まったのです。

職業安定局

デート中、2回に1回はハローワークにグレ男さんと行っていました。


 何時間もハローワークで並ぶのが嫌だったのもありますが、幸い、私の実家にはパソコンがあったのでパソコンからも仕事を探していました。

  ハローワークでは各自の仕事を別々に探していたので気がつきませんでしたが、パソコンで一緒に仕事を探すとグレ男さんは「ここは通勤するには遠すぎる。」とか「給料が安い。」など グレ男さん自身の最低条件があるらしく、とても仕事が決まるようには見えませんでした。


 ハローワークで求人票を貰って帰ると「いい仕事が無いんだよ。」と、グレ男さんはお母さんに話していました。

 通い始めは、何も言わなかった(言っていたかもしれませんが、私にはわかりません。)グレ男さんのお母さん。


 「本当にハローワークにいってるのかしら?」


 「本当に、仕事が無いのかしら?」  と、思ったのでしょう。たまに、3人でハローワークに行く事になりました。


  相変わらず、私はバイトだけの生活でしたからグレ男さんのお母さんからは就職するか、もっといい仕事に就くように言われていました。


 私が好きな接客業は、グレ男さんのお母さんにとって「人として最低の仕事」らしく、コンビニ店員という私のバイトに明らかに不満をもっているようでした。


 「他人に頭を下げる仕事なんて、ちぃちゃんよくやってるわね。」


 「おばさんは、いくら仕事でも人にペコペコとバッタのように頭を簡単に下げるなんて事出来ないわ。」  


「ちぃちゃんが好きでやってるからいいのだろうけど、結婚したら違う仕事について頂戴ね。」


 「接客なんて、どこがいいのかおばさんにはわからないわ。」


 などと、言われていました。


 私は、高校生の時から様々なアルバイトをしてきましたが、ほとんどが接客業でした。

 初めての就職も接客業で、そこで接客のなんたるかを教え込まれたのもあり、接客する楽しさや充実感を味わったことのある私は接客業が天職だと信じていました。


 未熟な私が完璧な接客が出来ていたとは、自分でも思えませんが、お客さんの顔を覚えるとお客さんからも顔を覚えてもらえた喜び。苦労した分、成績となって現れる達成感が好きでした。

 訪問する度に、仲良くなった取引先のおばさんから自社製品を貰うこともあったし、時には、お客さんから誕生日プレゼントや花束を貰ったりする事もあってとても嬉しかったのを覚えています。


 私は本当に接客業が好きでしたので、グレ男さんのお母さんがいうようにはとても思えなかった。


 同棲していた時は、A子に誘われて工場にパートをしに通った事もありましたが同じ工場に来ている主婦達になじめず、 工場内のパート同士の派閥に巻き込まれストレスが多かったこともあり、工場などの仕事は向いていないと経験からわかりきっていましたし。


 それに、接客業であろうとなかろうと、上司(他人)に頭を下げることがあるのはどの仕事についてもあることですから、接客業だけ差別するグレ男さんのお母さんの価値観が私には理解できませんでした。


  グレ男さんのお母さんは、「ちぃちゃんもこの資格を取れば私と同じ仕事が出来るわよ。一緒に仕事出来るのよ。」と、言い資格を取るように進めてきました。


 その資格を取るには、受講料が10万円はかかります。


 職種から言っても、私には10万円を払って資格を取って仕事するほどの価値がある仕事とは思えませんでした。

 平たく言えば、グレ男さんのお母さんが進める仕事はグレ男さんのお母さんが接客業が合わないように私もその仕事は、合わないと感じていました。

 すぐにパートを辞めてしまうグレ男さんのお母さんと同じ職場に勤めるのも嫌でしたしね。

 (グレ男さんのお母さんは、この資格を取れば今、通っている職場に口を聞いてあげるといっていましたから。) 


第一、他人であるグレ男さんのお母さんに私の仕事まで決められてはたまりません。


 「考えておきます。」


 と、濁したものの、その資格を取る気はまったくありませんでした。


 このように、ハローワークに行くとグレ男さんだけではなく私にも仕事を探すように指示をし、グレ男さんのお母さん自身も仕事を探していました。 

 しばらくすると、グレ男さんのお母さんが単独でハローワークに通うようになり、グレ男さん用に求人票を持って帰ってくるようになったのです。 

たまに、私宛の求人票も持ってきてくれました。


 グレ男さんのお母さんは親切から、求人票を持ってきていたのかもしれませんが、私はグレ男さんのお母さんの思い描くレールの上を歩かそうとしているように思えました。

 (動かない、煮え切らない息子のためもあるのでしょうけれど。)

増えた項目

仕事が見つからず、ただただ無駄な時間が過ぎていったある日。


 私よりも先に痺れを切らしたのは、グレ男さんのお母さんとお父さんでした。

 グレ男さんのお母さんが、グレ男さんの部屋にやってきて「ちぃちゃん、グレ男と一緒にハローワークに通ってあげて頂戴。」と、頼んできました。

 あまり詳しくはグレ男さんもグレ男さんのお母さんも話しませんでしたが、どうやらハローワークにあまり仕事を探しに行ってない様子が伝わりました。


 ハローワークにあまり行かない事、仕事が見つからない事、呑気にデートをしたり一人でゲームをしているグレ男さんを見ていて、グレ男さんは顔を合わす度に両親から色々言われているようです。

 会う回数が増えたとはいえ、確かに私から見てもグレ男さんに仕事を探す気があるようには見えませんでしたから、一緒に住んでいるグレ男さんの両親から見れば、なおさらそう見えたことでしょう。


 仕事が見つかるまでは、口うるさく言われても当たり前です。いい年齢の成人男性が無職のまま親のすねかじりをしているなんてありえません。


 ですが、私はグレ男さんのお母さんもグレ男さんが仕事を辞める時に反対しているようには見えなかったので、違和感を感じていました。


 無職のグレ男さんから収入が無くなり、家にお金も入れず遊んでばかりいる。仕事も探そうとしていない。
 確かに、家族として見ても目に余ります。


 仕事を辞める と、言うことは今のような状況になるかもしれないと予想しなかったのでしょうか。
 グレ男さんのお母さんもすぐに次の仕事が見つかると楽観していたのかもしれません。


 だけど私から見るとグレ男さんのお母さんからは、お金が欲しいからグレ男さんに仕事をして欲しいと思っているような感じを受けてました。
 なぜなら、グレ男さんのお母さん自身が私に言っていたからです。


 「グレ男が仕事してくれないと家にお金も入れてもらえない。」「うちは生活に困っているから、いつまでも面倒を見切れない。」と。


 私は、事あるごとにグレ男さんにお金をせびるグレ男さんのお母さんを見ていると、お母さん自身が贅沢をしたいから息子のお金を当てにしているようにしか見えませんでした。


 グレ男さんのお母さんは相変わらずパートも長続きしていませんでした。
 どのようにお金を工面しているのかわかりませんが、遊びに行く度お惣菜やケーキなど必ずありましたし、グレ男さんのお母さんは月に1度は温泉旅行に行ったり友達と飲み歩いたり外食など続けていました。
 他人の私から見て、グレ男さんのお母さんが言うように「裕福」なのか「贅沢をしたいだけ」なのかわからなかったけれど、生活に困っているようには到底見えませんでした。
 
 悪魔で私の推測の域での話ですが、グレ男さんのお母さんのパート代はそのままお母さんのお小遣いになっているようでした。
 祖父の年金とグレ男さんからのお金で足りない家計やお小遣いのやり繰りをしてるのかな?と見ていました。
 私の家は、貧乏なので本当にお金に困っていたら外食など贅沢は出来ず、働かなければ父親の収入だけで生活していくことが難しいと思っていましたし、私自身も一人暮らしや同棲した経験から見るとグレ男さんのお母さんのような生活をしていては、グレ男さんの家が成り立っているとは思えなかった。


 グレ男さんのお母さんがグレ男さんに仕事を見つけなさいと、言うのを聞く度に何か腑に落ちない感覚を持っていたのは、上記のような生活を見ているからでした。
  
 グレ男さんのお母さんは「ちぃちゃんと一緒なら、あの子(グレ男)も行くと思うのよ。」と、言っていました。




 この日から、デートに「ハローワークに行く。」という項目が増えたのはいうまでもありません。

失業中

 仕事を辞めてからグレ男さんは、仕事を見つけられないようでした。


見つける気が無いのか、見つけられないだけなのか、私にはわかりませんでした。

 詳しい経緯はわかりませんがグレ男さんは、解雇状態で辞めれたのでわずかな失業保険を貰っている状態でした。


 その頃の私は体調を壊してから掛け持ちはせず、時間の短いバイト1本しかしてなかったので無職のグレ男さんと会う機会も増えました。

 グレ男さんは収入が無いのと同じ状態なので、デートも以前のようにはいきません。
 もっぱら、お金のかからないグレ男さんの自宅でデートすることが多くなりました。

 グレ男さんの家に遊びに行っては、2人で流行っていた音楽ゲームをしたり安いレンタルビデオを借りて見たりしていました。
 グレ男さんが一人の時はRPGゲームをしているようでした。


 私と会っていない時にハローワーク(職安です。)に通っていると、グレ男さんから聞いてはいましたが私から見ると今で言うニートとか、ひきこもりのようにも見て取れます。

 そんなグレ男さんを見ていて私は「まぁ、結婚したらそうそう仕事なんて変われないし、辞めれないから今だけだよね。」
 とか、「失業保険貰ってるから、貰える内は仕事につく気が無いのかな?」など、甘く考え静観していました。

 単純ですが、グレ男さんと会える回数が増えて嬉しかったのもあります。


 私と連絡を取る携帯だけは、失業していても解約する事もなく持ち続けていてくれました。
 パケット代節約の為に、グレ男さんからのメールの回数は減りましたけど。


 失業してからグレ男さんの支払いは、車のガソリン代と携帯料金の2つだけのようでした。
 ガソリン代ですらたまに支払うぐらいで、貯金がつきかけるまでは家に入れていたらしいのですが、家に入れていたお金も入れなくなったようでした。


 グレ男さんのお母さんは「今はグレ男が仕事をしていないでしょう?家にお金入れろっていってもかわいそうだから今はもう貰ってないのよ。」と、私に話していました。

ガソリン代も「お金の無いグレ男がかわいそうだから。」と、グレ男さんのお母さんがガソリン代を負担しているようです。


 元々、グレ男さん自身の車は無くお母さんの車や祖父の車を借りていたグレ男さんはガソリン代は滅多に払っていませんでした。
 ガソリンが減ると「ガソリン入れるからお金くれ。」と、グレ男さんがお母さんに言っているのを何度か見たこともありました。
 グレ男さんが就職し、通勤に車を使うようになってからはグレ男さんが支払っていた様子でした。


 デートの時に遠出したり、私の母と一緒に買い物に連れて行って貰った時などは、ワリカンとしてガソリン代を私や私の母が支払っていました。
 私も車を持っていた時があり、ガソリン代も馬鹿にならないことを知っていたからです。

 私の母も、お金が無くて結婚できずにいる事を知っていたので気を使っていたのでしょう。


 グレ男さんの家庭のことだから、口にしませんでしたが「お金が無いから。」と、結婚を伸ばし伸ばしにされている私。


 貯金が少なくなっていっても仕事に就かないままのグレ男さん。


 婚約者を待たせているというのに、息子の貯金を搾り取るお母さん。


 本当に、この2人は私と結婚する気、させる気があるのかわからなくなっていました。
 
 静観すると決めていた私も私だったので何も言えずにいました。



 ただ空しく左手の婚約指輪だけが光っていました。

自慢の息子

  グレ男さんと交際中に、グレ男さんのお母さんから幾度となく言われたことがあります。


 「グレ男は真面目で、素直でとってもいい子なのよ。」


 「グレ男と結婚できるちぃちゃんは幸せ者ね。」


 「あの子(妹さん)も、グレ男みたいな男性と結婚出来るちぃちゃんがうらやましいって言ってたわよ。」


 「グレ男はお酒も飲まないしタバコは吸うけど、ギャンブルもしないし。ちぃちゃん良かったわね。」


 「女癖も悪くないし、けじめはしっかりしているし。浮気なんて絶対にしない子よ。」


 などなど、息子自慢をよくされていました。


 途中から、自慢の息子であるグレ男さんの悪口にもなります。時には、妹さんやその旦那さんの悪口になることもしばしばありました。
(グレ男さんのお母さんいわく妹さんの旦那さんは女癖が悪く、ギャンブル好きな人のようです。)


 「ただ、グレ男は怒ると暴力振るうけど物に当たるぐらいだから安心してね。」
 
 「ほら、この壁もグレ男がへこませたのよ。」


  真面目で素直ないい人が壁へこませるほど怒るって物に当たるって、それって「いい人」じゃないと思いました。
 真面目な人が「給料が安い。給料に見合ってない仕事内容だから。」と言って仕事をやめるのでしょうか?

 言いませんでしたけど。


 「だから、グレ男をおこらせちゃダメよ。」


 「もっとも、ちぃちゃんの言うことならあの子(グレ男)は聞くと思うわ。本当にちぃちゃんの言いなりなんだから。」


 たまに、聞き捨てならないことを聞いた気もしましたが、このころのグレ男さんのお母さんに私は「余計なことは口に出さない。話さない。」と対処方法を見つけていたので、何気なく会話していましたけどね。

 グレ男さんのお母さんにとって「一番かわいい。一番手のかかる、一番の自慢の息子。」それがグレ男さんでした。


 他人の私から見れば、ただ単に「子離れ」の出来ない母親


 兄弟の中で、スケープゴートにされている グレ男さんと、感じていましたけどね。



 
 そして、私は義母の自慢の息子である、グレ男さんと結婚後、グレ男さんの性格に悩まされることになるのです。