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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/23/raylow/e2/31/j/t02200155_0800056513545177615.jpg?caw=800)
ニコンはかなり早い時代からZoomレンズの開発に着手していた。世界初のスチールカメラ用ズームレンズ『Zoomer』がキルフィット社で設計されフォクトレンダー社より発売されたのが1959年。同じ年にNikonF用のレンズとして『NIKKOR Telephoto-Zoom 8.5-25cm F4-4.5』を発売している。こちらは新聞社など割と特殊な用途として使われていたようであるが現代の望遠ズームとさほど変わらないスペックのレンズを設計していたことは驚きである。しかしながらその鏡胴は巨大なものであった。
当時ズームレンズを設計するためには自動計算機が必須でニコンでは1953年から電動計算機を導入していた。1957年にはドイツの光学メーカーなどでも採用されていたドイツ製計算機『ツーゼⅡ』を導入ている。
実はこれは非常に早い導入であった。なぜなら『グラッツエル法』で有名なエルハルト・グラッツエルがカールツアイス社で写真レンズの研究をはじめたのは1954年、『グラッツエル法』を確立したのが1960年のことである。先述の『NIKKOR Telephoto-Zoom 8.5-25cm F4-4.5』は『グラッツエル法』確立よりも前に発売されたレンズなのである。
このレンズを設計したのは日本光学の樋口達氏。氏はその後『NIKKOR Telephoto-Zoom20-60cm F9.5-F10.5』や幻のレンズ『Auto-NIKKOR Wide-Zoom 3.5cm-8.5cm F2.8-F4』を設計した。特に『Auto-NIKKOR Wide-Zoom 3.5cm-8.5cm F2.8-F4』では2群ズームというジャンルを確立した。このレンズ自体は不運にも製品化されることはなかったが同じ考え方で1972年に設計されたキャノンの2群ズームFD35mm-70mm F2.8-F3.5は高性能広角ズームとして新しい時代を切り開いた。この設計概念は現代でも標準ズームを中心に使われている。
その後誕生したのが今回扱うこのレンズ『Nippon Kogaku Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5』である。このレンズは1961年に特許出願されている。設計は樋口達氏である。
このレンズの登場した1963年といえば翌年に東京オリンピックを控えた年である。この年に発売された43-86(ヨンサンハチロク)はこの後現代まで続く一眼レフとズームレンズの時代を先取りしたものであった。
そもそもズームレンズは一眼レフと相性がいい。レンジファインダーでズームは実現できなくはないが大掛かりな変倍系をファインダーに仕込む必要があり現実的ではなかった。日本光学が先見の明があったのは業務用の特殊機材としてではなくリーズナブルなレンズとして発売した点であろう。この狙いが当たりこの商品はロングセラーとなる。このレンズにより人々はズームレンズの利便性を知り、一眼レフカメラのレンズのあり方も変わっていく。そして一眼レフカメラと共に日本のカメラシェアを一気に広げていく一因となった。
『Nippon Kogaku Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5』は3群ズームといわれるジャンルにあたる。収差の微調整のために機械式の曲線のカムが必要となる。当時このカムの精度を保つことが難題とされた。このレンズにおいてはあえて収差と写りを犠牲にしながら第3群のみ曲線のカムを取り入れた。このことにより生産性を確保し安価に生産することが可能となった。
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1群2群は直線的な動きだが3群目にのみ曲線カムが採用されている。
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曲線カムが見える。当時はこのカムの加工精度が大問題となった。
とはいえこのレンズの魅力はきっちりと作りこまれた鏡胴にある。大衆向けのレンズとして作られていながらその重厚感や作りの美しさはさすがである。特に優美に伸びた被写界深度曲線はこのレンズの最大のチャームポイントである。
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直進ズームの適度なトルク感も現代では非常に懐かしく斬新である。
ではこのレンズの写りはどうなのか検証していきたい。
このレンズは非常に長い間作られていたので色々なバージョンが存在する。バージョンが変わるごとに光学部分も少しずつ改良がされている。今回取り上げたのは最初期のモデルになる。レンズの前枠がシルバーのシングルコートのモデルになる。名盤には”Nippon Kogaku"の銘が刻まれている。
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見ていただけるとわかるとおりこのレンズ非常に良く写る。そしていい意味でオールドレンズ感がでる。優秀すぎるが故にオールドレンズ感が弱いニッコールレンズ群の中においては非常に稀有な存在である。中心のみの解像力、周辺の平面性やコントラストの低さ、収差の出具合、周辺光量低下、どれもかなりのものである。それゆえどの写真もクラシカルでノスタルジックな趣のある写真になっている。
そしてこのレンズを語る上で欠かせないのがゴーストの出やすさであろう。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/22/raylow/8a/af/j/t02200330_0800120013545175784.jpg?caw=800)
しかもこのゴースト、ズーミングにより姿を自在に変えていく。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/22/raylow/e6/33/j/t02200330_0800120013545175783.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160121/21/raylow/f8/d4/j/t02200147_0800053313546703914.jpg?caw=800)
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ズーミングでゴーストも写真のテイストもまったく別物になってしまう。
魅力的なレンズである!!まさにゴーストマスター!
倍率は2倍である。
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ワイド側
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/23/raylow/a2/e6/j/t02200147_0800053313545177616.jpg?caw=800)
テレ側
ただこのレンズにも弱点が存在する。それが歪曲収差である。
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ワイドで樽型の収差は建物を撮ると顕著に現れる。
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逆にテレ側では糸巻き型になるがこちらはあまり気にならない。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/23/raylow/d8/4a/j/t02200147_0800053313545176450.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160119/23/raylow/54/c7/j/t02200147_0800053313545176030.jpg?caw=800)
諧調もしっかりしていて実にいいレンズである。
実はこのレンズアメリカ空軍に制式採用されていたことがある。NIKON Fベースの『KS-80A』という戦闘機のパイロットが戦火判定用に使っていたカメラにこのレンズが付いていた。ヘリコイドガ無限遠でロックできるつくりになっているのが特徴だ。このことは以前自動車評論家の福野礼一郎氏に教えていただいた。
そんなレンズを片手に散歩を楽しむのもいいかもしれない。