NOKTON X ULTRON X XENON トロニエのレンズたち | シネレンズとオールドレンズで遊ぶ!

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カメラマンヨッピーのブログ。シネレンズやオールドレンズなどのマニュアルフォーカスレンズをミラーレスカメラに装着して遊び、試写を載せていきます。カメラ界でまことしやかに語られているうわさも再考察していきます。



最近ついにNOKTONを手に入れた。


もちろんProminentのNOKTON 50mm F1.5である。



ずっと探していたが手頃できれいな個体に出会えず、探すこと2年弱、やっと手に入った。


不思議なもので1本見つけて購入したら、そのすぐ後にさらにきれいな個体に出会い勢いで2本買ってしまった。


もちろん2本持ち続けることは不可能なので、先に手に入れたレンズは買った値段で売りに出した。キャッチアンドリリース?である。


ULTRONのときも同じ様なことがあった。不思議なものである。


Voigtlanderは言うまでもなく世界最古の光学メーカーのひとつである。


創業は19世紀で1807年というから桁外れに古い。


今回の3本、NOKTON ULTRON XENONはいずれもA.W.トロニエの設計である。



Schneider XENON 5cm F2 EXTマウント 1935年発売

シリアル:1400937(1938年製)

15枚絞り

レンズ構成:5郡6枚





XenonシリーズはA.W.トロニエが20代より設計に取り組んだダブルガウス型レンズである。このレンズは1934年に発表された第二世代で2群目の貼りあわせをはがした5郡6枚のレンズになる。この2群目をはがし対称性を崩した設計はガウスタイプが持っていた様々な弱点を一気に解決できる画期的設計であったが、コーティング技術や硝材(ガラス)の技術が当時は未熟であったため目に見える結果を出すことが出来なかった。

このレンズを設計する2年前にはF1.5という明るさのXenon 5cm F1.5を発明している。当時としては極めて明るいレンズであったが、1934年に天才ルードビッヒ・ベルテレの設計したCarl Zeiss Sonnar 5cm F1.5には及ばなかった。このときベルテレは34歳、トロニエは32歳であった。

Xenon5cmF1.5を設計してから4年後の1936年にLeitz社にレンズを供給することになりLeitzXenon5cmF1.5が誕生する。Leitz社は当時F2以上の明るさを持ったレンズを設計することが出来なかった。ライバルであるCONTAXはSonnar5cmF1.5をリリースしていたためSonnarに対抗すべくトロニエのXenonに白羽の矢が立った。このレンズはその後改良されSummarit50mmF1.5となり1961年まで生産される。


※この個体はレンズ研磨に出した際モノコートを施してある。もともとはノンコートのレンズである。



Voigtlander ULTRON 50mm F2 Prominentマウント 1950年発売

シリアル:4676376(中期型)

15枚絞り

レンズ構成:5郡6枚



戦後トロニエがフォクトレンダーに移籍。レンズビハインドコンパーシャッター式レンジファインダーカメラ『プロミネント』のために新しく設計したレンズである。その設計は2代目Xenonと酷似しているがコーティング技術も硝材も格段によくなっていたため写りも評判もよかった。プロミネントだけではなくヴィテッサやヴィトーなどにも採用されフォクトレンダーの主力レンズとしての地位を確立する。残念なのはプロミネントマウント以外のマウントがあまり存在せず基本フォクトレンダーのカメラ以外での使用が難しかったため評判は限定的であった。

1956年にVoigtlanderはCarlZeissの傘下に入り1969年には正式に吸収合併される。1960年代にCarlZeissと合同で開発されたIcarex用のレンズの標準レンズとしてULTRONが採用される。このULTRONは一枚目に凹レンズを採用し一眼レフ用にバックフォーカスを伸ばしてあった。レンズの表面が凹んでいるため凹ウルトロンの愛称をもつ。このULTRONはM42マウントも存在したため広く様々なカメラで使用されるようになった。凹ウルトロンは現代でも銘玉として多くのファンを持つ。



Voigtlander NOKTON 50mm F1.5 Prominentマウント  1950年発売

シリアル:3886237(中期型)

15枚絞り

レンズ構成:5郡7枚




1936年にLeitzXenon5cmF1.5を設計したトロニエ博士が、LeitzXenonとは違ったアプローチで1950年に設計したハイスピードレンズである。このレンズも『プロミネント』用として設計された。

ライカLマウントやレフタフレックスマウントなども存在する。特にレフタフレックスマウントは1眼レフに対応するための専用設計で8枚レンズである。このレフタフレックスマウントは極めて数が少なく価格も極めて高価である。

ノクトンの名称は夜を意味するラテン語『Noctis』あるいはドイツ語『Nacht』に由来するとされている。

夜でも撮影できるくらい明るいという意味であろうがこのレンズ以降明るいレンズの代名詞としてライカの『Noctilux』やNIKONの『NOCT NIKKOR』などにも使われている。

レンズ構成は1群目に貼合の凸、3枚目、4枚目はXenonやULTRONと同じくセパレートとなっている。3枚目と4枚目の間の空気間隔はいわゆる空気レンズとして機能している。1953年に発表された初代Summicronで有名になった空気レンズであるがすでにトロニエによりNOKTONで実践されている。(空気間隔を収差補正に使う考え方はさらに古い時代から実践されている。)

近代、現代の標準レンズの多くがXenon、LeitzXenon、NOCTONから少なからず影響を受けているとされる。



F2


F2


F1.5

F2


F2拡大

F2拡大

F1.5拡大

F2拡大


f4


f4

f4

f4拡大

f4拡大

f4拡大


試写をしてみた結果この3本はとてもよく似ていることが分かった。

そのため写真を見比べてもあまり差が分からないかもしれない。

ただ、撮影していると明らかにフィーリングの差を感じることが出来る。そのフィーリングの差は以下の通りである。



XENON 5cm F2


解像力

開放はやや軟調な印象であるが、F2まで絞るとシャープネスが劇的に向上する。

さらにF4まで絞っていくと他の2本と遜色ないシャープネスを持つ。


ボケ

開放からザワザワとしたやや2線ぽいボケ。絞り込むにつれ硬さも顕著になる。


総評

解像力、発色、コントラストなど他の2本に比べても遜色がない。1934年に設計されていることを考えると非常に完成度の高いレンズであることが伺える。同時代のBiotarなどに見られるグルグルボケなども見られない。

唯一残念なのがやや2線ぽいボケと硬めの描写。F4でも花びらの拡大画像を見ると花びらが実際の質感よりパリパリとした感じに写っていることが分かる。


ULTRON 50mm F2


解像力

開放でのシャープネスは3本の中でもっとも高い。


ボケ

Xenonで見られた2線ボケは見られず、とても良好である。


総評

1枚目の順光での開放も、2枚目のF4まで絞り込んだ逆光も良好な写りである。コンディションを選ばないオールマイティーなレンズであるが、裏を返すとやや面白みにかける。

とはいえ写りの安定感は今回の3本の中でトップである。

NOKTONに比べて格安で手に入るが、コストパフォーマンスは高くお勧めのレンズである。



NOKTON 50mm F1.5


解像力

開放ではかなり軟調であるがF2まで絞るとやや軟調といったレベルになる。F4まで絞るとかなりシャープになる。


ボケ

3本の中でもっともボケは柔らかい。基本的なボケの感じはULTRONとよく似ている。


総評

開放でのとけるようなボケ、F2での立体感、F4でのシャープネスと幅広い表現力を持つ。

1950年に登場したこのレンズは当時としては明るさ、表現力とともに非常に卓越したものを持っていたと思われる。



今回トロニエの設計した3本のレンズの写りを見てきて感じたのは氏の卓越した設計理論と設計センスである。XenonもNoktonも当時の同じクラスのレンズの1世代先を行く設計であったであろう。

Xenonは当時のガウスタイプの2つの大きな弱点、グルグルボケとコマフレアの軽減に成功し、シャープで平面性の高い写りを実現した。

NOKTOではXenonで達成できなかった2線ボケの問題を見事解決し、ガウスタイプレンズを進化させることに成功した。ベルテレが人生をかけゾナーを完成させたようにトロニエも不完全だったガウスタイプレンズを完成へと導いた設計者であったことが分かる。


最後にNOKTONを所有したらやってみたいことの定番、夜の写真です。










妖艶な写りをするいいレンズです。








出展:『ぼくらクラシックカメラ探検隊・フォクトレンダー』 オフィスヘリア 

    Schneider Optics 『Age of lenses』 

    M42 MOUNT SPIRAL 『トロニエの魔鏡1』、『トロニエの魔鏡2』