187.ハルの微笑み.130 | マリンタワー フィリピーナと僕といつも母さん byレイスリー
浅草の今戸にある桐田のオヤジの事務所に移ったワタクシです、一人になりポッカリと心に穴が空いた気分でした、しかもこのポッカリ空いた穴はそう簡単に埋められそうにありませんでした。



ずっと4年ほど続いていたタイ人女性達との交際に終止符をうち、これからどうするかと考えると同時に夕子への思いを馳せていました、「会いたい」と思うものの捨てられたワタクシです、女々しくこちらから電話をする事は男の意地できませんでした、ただ夕子が今頃他の男とワタクシと一緒にいた場所で暮らしていると考えると胸が張り裂けそうにななりました、雪子と別れた時も同じ思いはありましたがその時は夕子がそばにいて癒してくれました、しかし今は一人です。


そしてアガサ.クリスティーの小説のタイトルのように「そして誰もいなくなった」状態のワタクシはパチンコも仕事も何もやる気がせずに、アパートのそばの隅田川に時間が来ると毎日のようにいくようになっていました、川の歩道にはホームレスの段ボールで作った小屋がズラリと並んでいます。


ワタクシも後一ヶ月もすると同じようにここにいる事になるかもしれない、と考えると同時にこの人達に夢や希望はあるのか、このホームレスの人達だって過去は家庭や仕事や愛する人が合ったに違いない、しかしワタクシと同じように何かの弾みで現実逃避をしてしまったのではないかと思いを巡らしていました。


現実逃避、人は嫌な事があると目を背けたくなる生き物なのです、嫌な人と話す事も出来ればしたくない、嫌な仕事からも逃げたい、逃げ続け現実から目を背けてしまう、世間は好きな人だけで構成されているわけではない、嫌な奴もいれば、嫌な仕事もある、しかし人が生きていく以上逃げてばかりはいられない。


勿論わかっていました、そんな事は、しかしこの時のワタクシの精神はお金を失い、家をなくし、彼女に逃げられ傷ついていました、自業自得とはいえ、さすがにキツかった、ワタクシは隅田川の端に立っていました、楽になりたかった、「誰かが押してくれれば楽になれるのに」と毎日呟きながら死ぬ勇気のないままアパートに戻っていくのでした。


次の日も、また次の日もの繰り返し頭は常に朦朧としていました、ある日の事でした、フト気づくと西日の関係か夕陽が隅田川に反射し光輝き随分と綺麗に見えました、「あれ、どこかで見た風景が」
そうです、ワタクシは同じ風景をタイに初めて行った時に見ていたのです、チャオプラヤー川のほとりでよしえママ、サクラ、梅津君、エミ、夕子、他の女の子達と、そしてワタクシの横には満面の微笑みをしたハルがいてくれたのでした、皆の微笑みは過去ではなく未来に向けられていました、過去を振り返っても帰って来ない、だったら未来に微笑み、常に前向きな外国人達と接してきたのにワタクシはその事をすっかり忘れていました、過去色々あったのに生きている、命がある、きっとまだやり残した事がある、体の中に残っていた力を振り絞りワタクシは死ぬ事でなく生きていく事を選んだワタクシでした。

前向きに生きて行く、言葉では簡単で実は大変な事です、しかし人間として生かされている以上は前を向き笑顔で生きた方が人生は楽しいのです、苦しい時は皆との楽しい時、愛する人の笑顔を思い出すと自然と力が湧いてくる、ワタクシはハル、雪子、マリコさん、夕子にそして多くの外国人達に生き方に教わっていたのでした、勿論過去は過去で反省するものがあり忘れてはいけない、ただそれは前を向く為の反省と思えば1日1日を少しでも楽しく生きて行けると現在のワタクシは思って生きています、お金も家も家族も失ったワタクシでも前を向いて生きている、勿論迷いの道にさ迷う事もありました、しかし長くて短いもの、それが人生です、人生は楽しく笑顔で生きてこそ人生なのです。



第1部‘ハルの微笑み,完


しばらく振りに梅津君から電話がありました、
第2部「真夏の街」より



いつもご覧頂き誠に有り難う御座います、第2部に入ります前に梅津君を中心とした「最強の二人」を予定致しております、引き続きご覧頂けますよう宜しくお願い致します、またいつも御愛読頂き心より御礼申し上げます。