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9 Doctors

Snow Manをイメージした医療物語を綴っています。ファンによる非公式・非営利の創作で、実在の人物・団体とは関係のないフィクションです。

 

 

 

「俺、直美(ちょくび)でガッポリ稼ぐから。」

それが、彼の口癖だった。

高級スキンケア、美しい指先、そして、勝ち組の人生。

それが、彼の思い描く『美しい未来』だった。

けれど――

一人の少女との出会いが、その価値観を静かに、そして確実に変えていく。

これは、
形成外科医・渡辺翔太が
本当の「美学」に出会うまでの
最初の一歩。

 

 

 

 

 

 

形成外科医とは

形成外科医は、「体の表面を整え、人生を取り戻すプロ」。

整形外科が「骨や関節、動き」を治すのに対し、形成外科は「皮膚や見た目、機能の再建」を担当。

ガンや事故で失われた部分の再建、ケガや火傷の傷跡を治す等。美容外科も形成外科の分野。

形成外科医は「いかに傷を細かく、目立たなく縫うか」に命をかける。

顕微鏡を使って、髪の毛よりも細い糸で血管や神経を繋ぐ「マイクロサージャリー」という超絶技巧を駆使することもしばしば。

「命を救う」のが救急医や外科医なら、「救われた後の人生(QOL:生活の質)を、笑顔で送ることができるように整える」のが形成外科医の仕事と言える。

 

Snow Man総合病院にも、そんな『未来を縫う』形成外科医がいる。

傷跡ひとつで、その人に人生が変わってしまうことを、誰よりも知っている男だ。

 

 

 

一秒の執刀

数年前ーーSnow Man総合病院、研修医室。

 

 

渡辺翔太(しょっぴー)は、お気に入りの美顔器を顔に当てながら、深澤辰哉(ふっか)に豪語していた。

 

しょっぴー:

「……いいか、ふっか。俺の人生プランに『泥臭さ』は不要なんだ。形成外科のローテが終わったら、俺はそのまま美容外科へ直行する(直美:ちょくび)。……自由診療で若いうちにガッポリ稼いで、午後はハワイのビーチでシャンパン。それが俺の正解なんだよ。泥臭い保険診療は、俺の肌にも、美学にも合わねぇんだわ。

 

美しく、裕福に、効率よく。 

 

それが研修医・渡辺翔太の掲げる、完璧な「成功の方程式」だった。

 

ふっか:

「はいはい、翔太は相変わらずブレないねぇ」

 

 

ふっかが適当に相槌を打つ中、しょっぴーは鏡に映る自分を見つめ、不敵に笑った。

 

 

彼にとって、保険診療の形成外科は、単なる「通過点」に過ぎなかった。

 

 

そんなしょっぴーが形成外科の2ヶ月間のローテートで出会ったのが、10歳のユミちゃんだった。

 

 

幼い頃の火災で、顔の右側に深い熱傷を負った彼女。

 

 

成長とともに皮膚がひきつれ(瘢痕拘縮)、右の口角が歪み、瞼もうまく閉じられない。

 

 

ユミちゃんは、診察室でも常に深くフードを被り、一言も喋らない。

 

彼女の時間は、あの日、火の手が上がった瞬間から止まったままだった。

 

しょっぴー:

「……おい、ユミ。お前、ずっと下向いてたら表情筋サボるぞ。……肌の代謝、なめんなよ。」

 

 

しょっぴーの毒舌混じりのコミュニケーションに、ナースたちはヒヤヒヤしていた。

 

 

彼女は、学校で友達がやっていたのを思い出したのか、小さな爪を、何度も何度も磨いていた。

まるで、「綺麗」を取り戻そうとするかのように。

 

顔は隠していても、手だけは綺麗にしていた。それが、彼女に残された小さなプライドだった。

 

しょっぴーは気づいていた。

 

彼女が時折、長い前髪の隙間から、自分のピカピカに磨き上げられた指先を、羨望とも絶望ともつかない瞳で見つめていることを。

 

 

 

ローテ終盤、ユミちゃんの「瘢痕拘縮解除術」と「植皮術」が行われた。

 

 

しょっぴーの役割は、第3助手。

 

執刀医である教授の対角で、ただひたすらにレトラクター(鉤)を引き続け、術野を確保する地味な役目だ。

 

教授:

「渡辺。美容外科は『美しさ』を足すが、我々は『人間としての尊厳』を取り戻す。……よく見ておけ。これが、彼女の止まった時計を動かすための手術だ」

 

 

顕微鏡下で繰り広げられる、神業のような世界。

 

 

ひきつれた組織を1ミリ単位で解放し、繊細な手技で新しい皮膚を移植していく。

 

レトラクターを持つしょっぴーの手が、微かに震えた。

 

 

数時間に及ぶ手術の末、ひきつれていた口角が本来の位置に戻った瞬間、しょっぴーは直感した。

 

 

自分がこれまで追い求めていた「美」は、表面を飾るだけのメッキに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

ーー次回予告ーー

手術は終わった。

けれど……本当の治療は、そこから始まる。

一年。そしてさらにその先へ。

少女が取り戻すのは、ただの「顔」ではない。

止まっていた、「時間」そのもの。

次回

「笑顔の再建」