手術は、たった数時間で終わる。
けれど――本当の治療は、そこから始まる。
一日。
一ヶ月。
そして、一年。
少しずつ、ほんの少しずつ、傷は形を変えていく。
それは、医者の技術だけではなく、
患者と医者が一緒に積み重ねていく時間。
これは、「明日には綺麗になれる?」
そう問いかけた一人の少女と、
その約束を、1年半かけて守り抜いた一人の医師のエピソードである。
笑顔の再建
「マイナスを、ゼロに戻す」。その圧倒的な救済の重みが、彼の心を震わせた。
しかし、形成外科の現実は甘くない。
ユミちゃん:
「……先生。私、明日には綺麗になれる?」
術後、包帯を巻いたユミちゃんに聞かれ、しょっぴーは言葉に詰まった。
移植した皮膚はまだ赤く、ここから1年以上のレーザー治療や圧迫療法が必要だ。
研修ローテの2ヶ月では、彼女の「完成」は見届けられない。
しょっぴー:
「……。……。あぁ。……でも、ここからは長いぞ。……。……お前が笑えるようになるまで、俺が……」
言いかけて、彼は口を噤んだ。
自分はもうすぐ、この科を去る研修医なのだから。
それから1年半。
Snow Man総合病院の形成外科外来に、一人の若きレジデント(専攻医)の姿があった。
渡辺翔太。
「直美」への道を捨て、あえて過酷な再建の道を選んだ彼は、今や病棟で一番「縫合が美しい」と評判の若手になっていた。
「次の方、診察室へどうぞ」
入ってきたのは、見違えるほど背が伸びたユミちゃんだった。
彼女はもう、フードを被っていなかった。
ユミちゃん:
「……渡辺先生」
しょっぴー:
「……お。……ユミ。今日で最後のレーザーだな」
移植した皮膚の色は周囲と馴染み、レーザー治療の成果で、赤みもほとんど消えていた。
しょっぴーはいつものようにぶっきらぼうに、愛用の(世界で一番映りのいい)手鏡を彼女に差し出した。
しょっぴー:
「……見ろよ。……俺の美学に合格だ。……最高に、良い顔してるぞ。」
ユミちゃんが鏡を覗き込む。
そこには、右の口角が綺麗に持ち上がった、満面の笑みがあった。
ユミちゃん:
「……。……。先生。私、……笑えた。……。……。ありがとう。」
彼女の涙が鏡を濡らした瞬間、しょっぴーの苦労は、すべて報われた。
研修医時代に見た「手術室の光」が、
今――
目の前で本物の「人生の輝き」に変わったのだ。
夕暮れの医局。
ふっかがコーヒーを持ってやってくる。
ふっか:
「しょっぴー、お疲れ。……ユミちゃん、今日で卒業だろ? ……結局、ガッポリ稼ぐ夢はどうなったの?」
しょっぴーは、自分のよく手入れされた指先を見つめ、ふっと笑った。
しょっぴー:
「……。……あぁ。稼ぐのは、もう少し先でいいわ
……俺、気づいちゃったんだよね。……宝石や美容液で飾るより、失われた『笑顔』を再生する方が、よっぽど贅沢で、よっぽど俺の肌に合うってさ。」
ふっか:
「……。……。やっぱり、翔太は最高のツンデレだね。」
しょっぴー:
「うるせぇ。……。……。俺は世界一の形成外科医になって、ついでにいつか、世界一高い化粧品ブランドを作ってやるんだよ。……欲張りなんだよ、俺は。」
形成外科医・渡辺翔太。
彼は今日も、誰よりも肌をピカピカに保ちながら、誰よりもストイックな手技で、人々の「人生」という名の皮膚を繋ぎ合わせ続けている。
その指先が、今日も一人の患者の「明日」を創り出している。
塚地ナースの「極秘メモ」
「……ちょっと見て。渡辺先生、ユミちゃんが帰った後、カルテの最後に『Smile verified(笑顔、確認)』って書いて、一人で満足そうに頷いてたわ……!! ……。……。研修医時代は『直美に行く』って言ってたあの人が、今や病棟で一番レーザーの出力設定にうるさい先生になるなんて。……あぁ、しょっぴー先生。……その不器用な信念が、この病院の未来を、一番綺麗な色に塗り替えてるのね……!! 」
【あとがき】
第6話①、②はThreadsでは投稿していない新しく作ったお話です。登場人物のユミちゃんは、Threadsのフォロワーの方からお名前をお借りいたしました。ありがとうございました!
ーー次回予告ーー
次に渡辺翔太が向き合うのは、“傷”ではなく、
夢を奏でるための「指先」。
そしてオペ室では、
形成外科医の美意識と、麻酔科医の絶対権力が激突する——。
『……乾燥で、俺の肌が死ぬ。』
『……却下だ。』
次回、
「妥協しない理由」
