9 Doctors

9 Doctors

Snow Manをイメージした医療物語を綴っています。ファンによる非公式・非営利の創作で、実在の人物・団体とは関係のないフィクションです。

 

 

 

連絡を受けて戻ってきた指導医の鋭い声が、フロアに響き渡る。

 

 

 

指導医:

「酸素上げて! 吸入継続! ……挿管も考える。準備だけして!」

 

そして、患者の腕を確認する。

 

「渡辺先生、ルート取って! 」

 

患者の呼吸は「ヒュー、ヒュー」と激しい喘鳴を伴い、息を吐き出すことすら苦しそうだった。
 

口唇には、うっすらとチアノーゼが浮かび始めている。

 

 

緊迫感で、室内の空気が一瞬で重く張り詰める。

 

患者の腕を前に、しょっぴーは頭が真っ白になりかけていた。

 

さっきのルート確保の失敗が、フラッシュバックのように頭をよぎる。

 

……だが、しょっぴーは激しく苦しむ患者の目を、真っ直ぐに見つめた。

 

 

しょっぴー: 

「……点滴と採血しますね。少しだけ頑張ってください。」

 

指導医:

「渡辺先生、一回で取れなかったら代わる。いける?」
 

しょっぴー:

「……はい。いきます。」

 

 

不機嫌そうな態度の裏にある、彼の「どうしても助けたい」という切実な熱量。

 

しょっぴーは深く息を吐き出すと、視線を血管へと落とした。

 

周囲の雑音が消え、指先の感覚だけが鋭利に研ぎ澄まされる。

 

チクッ、という小さな感触とともに、透明なチューブへ鮮血が逆流する。

 

綺麗なフラッシュバック。

 

しょっぴー: 

「……っ! ルート確保! 20ゲージ入りました!」

 

指導医:

 「渡辺、ナイス! 良くやった!」

 

極限状態の中で、しょっぴーの手技が初めて「覚醒」した瞬間だった。

 

 

 

 

 

その横では、さっくんが必死に動き回っていた。

 

吸入器を素早くセットし、恐怖で目を見開く患者の顔にマスクをあてる。

 

さっくん:

 「苦しいよね、怖いよね! でも大丈夫、今お薬入ってるからね! ゆっくり息吸って……そう、吐いて! 上手、すごく上手だよ!」

 

医師としての技術も経験も、まだまだ足りない。

 

それでもさっくんの持つ「人を安心させる力」は、パニックに陥っていた患者の心を確かに繋ぎとめていた。

 

 

 

 

一方、舘様は、指導医から指示された薬剤の準備を任されていた。

 

アンプルの名前と投与量を、何度も確認する。

 

手順を間違えないよう、一つひとつ慎重に準備を進めていく。

 

舘様:

「患者様。今から呼吸を楽にするお薬を点滴から入れます。少し体が火照る間隔があるかもしれませんが、心配ありません。私がずっと横におりますから」

 

一見、異常なほどに落ち着いている。

 

だが、その裏で舘様は、薬剤が投与される点滴ラインを見つめながら、モニターへ何度も視線を送る。

 

心拍数、血圧、SpO2。

 

小さな変化も見逃すまいと、その数字を追い続けていた。

 

後に麻酔科医として、オペ室で患者の全身状態を静かに支えることになる……その責任感の片鱗だった。

 

 

【同・午前5時】

 

適切な処置が奏功し、患者の喘息発作は次第に落ち着いていった。

 

挿管は回避され、バイタルも安定を取り戻していた。

 

嵐のような時間が過ぎ去り、フロアに静寂が戻る。

 

しょっぴー、さっくん、舘様の3人は、汗びっしょりのスクラブのまま、処置室の片隅にへたり込んでいた。

 

 

 

頭は真っ白、体力の限界。

 

 

 

けれど、その瞳からは、当直前の頼りなさは消え失せていた。

 

 

 

患者: 「……あの、渡辺先生……。」

 

 

ベッドから、呼吸の落ち着いた患者が弱々しく声をかけてきた。

 

 

患者:

 「さっきは……ありがとうございました。」

 

 

 

しょっぴー: 

「……っ。……いや、俺……。」

 

 

 

しょっぴーは一瞬で耳まで真っ赤にし、ぶっきらぼうにそっぽを向いた。

 

だが、その口元は微かに震えている。

 

 

さっくん: 「よかったねぇ、しょっぴー……っ!」

 

 

 

さっくんそれを見てボロ泣きし、舘様は静かに、けれど誇らしげに頷いていた。

 

 

初めて成功したルート。

 

 

初めて心から感謝された瞬間。

 

 

 

何もできなかったヒヨコ同然な若者たちが、今、確かに「医師」としての産声をあげていた。

 

 

 

 

【同・午前6時 ER中休憩室】

 

 

東の空が白み始める頃。

 

 

 

塚地ナースが、バリバリと景気のいい音を立ててお煎餅をかじりながらやってきた。

 

 

 

塚地ナース:

「……あんたたち。さっきの動き、まぁ20点ってところね。……相変わらずスピッツは間違えるし、報告は長いし。」

 

 

相変わらずの辛口。

 

 

けれど、塚地ナースは自販機の缶コーヒーを3人の前にコト、と置いた。

 

 

塚地ナース:

「……でも。患者さんの手を離さなかったのは、合格。……さっさとそれ飲んで、次のカルテ書きなさい。……お医者様。」

 

 

 

今の彼らからは想像もできない。

 

 

必死で、余裕がなくて、泥くさかった、あの4月の夜。

 

 

 

けれど——

 

 

それこそが、Snow Man総合病院の未来を担う3人の、始まりの夜だった。

 

 

 

 

 

塚地ナースの「極秘メモ」:

 「(……ちょっと見て。あの江戸川の3人組、さっきまで現代アートみたいな心電図作ってたくせに、朝になったら一丁前に『やりきった男の顔』になってるじゃないのよ……!! ……。……。しょっぴーの不器用な優しさ、さっくんの太陽みたいな声掛け、そして舘様のあの裏での必死な滴下確認。……。……あの子たち、絶対いい医者になるわ。……。……あぁ、未来の名医たち。……。……その泥だらけの白衣が、この病院の最高の希望ね……!! 私の今後の有給申請も、その成長した姿で、ビシッと許可してちょうだい……(昇天))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの春から、何年もの時間が流れた。

 

今では——

 

 

渡辺翔太は形成外科医として患者の未来を縫い、

 

宮舘涼太は麻酔科医としてオペ室を支え、

 

佐久間大介は小児科医として、小さな命の不安を笑顔に変えている。

 

 

けれど——

 

 

どれだけ経験を重ねても、彼らはきっと忘れない。

 

 

ルート1本で震えた指も。

 

 

患者さんの「ありがとう」で熱くなった胸も。

 

 

そして——

 

 

「患者の手を離さなかったら、合格」

 

 

 

そう言ってくれた、あの春のERを。

 

おわり

 

 

あとがき

書く時間がなかなか取れなくて、ずいぶん間が空いてしまいました🙏💦

マイペース更新となりますが、よろしくお願いします。