『湯を沸かすほどの熱い愛』
(2016年/日本)

※壮大にネタバレしてます。


幸野双葉はある日突然、余命宣告を受ける。
命が消える前に、遺される一人娘の為にやるべき事が幾つもあった。

幸野家には、毎年4月25日に酒巻君江さんから手紙を添えてタカアシガニが送られてきていた。
そしてソレに娘の幸野安澄お礼の手紙を返すのが恒例となっていた。
安澄は酒巻さんと面識は無かったが、双葉に"形式ばったお礼より子供が自由に書いた方が貰った人も嬉しいから"という事で返事を書かされていたのである。

双葉は週末を利用した一泊旅行を提案し、安澄もその提案に飛びつく。
車でドライブして景色を眺め、箱根に泊まり、次の日はタカアシガニを食べて水族館に行く計画。

旅行2日目の昼、海沿いのレストランで高足ガニを注文する。聴覚障害者の女性が注文を取ってくれ、出てきた料理を堪能。食事を終え、双葉は安澄に、会計するから先に店を出てるよう伝える。
会計を済ませた双葉は、接客してくれた聴覚障害者の女性の頬をいきなりハタく。そして会釈すると、呆然とする女性を残して店を出る。

-車の中の娘と母の会話-
乗り込んでも走り出さない車を不審に思い双葉の顔を覗き込む安澄。
「行かないの?」
「……。さっきのお店の人が…、酒巻さん」
「なんだ、言ってくれたら挨拶したのに」
「安澄、聞いて。」
「お父ちゃんは昔、酒巻君江さんと結婚してたの」
「ウソ⁈」
「だから、お母ちゃんとは再婚で…」
「時期が来たら…ちゃんと言おうって…」
「いつ結婚してたの?」
「それはぁ……、15年前」
「…なに言ってんの?ワタシいま16だよ?」
嫌な考えが頭をよぎる。
「ウソ…、ウソでしょ?ウソだよね?」
「ウソじゃない」
「ヤダ、違う、そんなの絶対違う」
「違わないの安澄」
「なんでそんなイジワル言うの?」
「だって私は…あなたを産んでない」
「(酒巻さんは)18歳の時に、お父ちゃんに出会って、19歳であなたを産んだって」
でもね、君江さんには、あなたの泣き声が、あなたの気持ちが聞こえなかったの」
「19歳の母親には、それが耐えられなかったの」
「それで家を出た。15年前の4月25日に」
「安澄、あなたはこれから、酒巻さんに挨拶しに行くの」
「イヤだ」
「降りなさい安澄」
「イヤだ」
「降りなさい、安澄」
「イヤァー」
「安澄! 安澄! 安澄! 逃げちゃダメ!」
「出来る! 安澄なら出来る!」
「出来ない。そんなの出来ない」
「出来るよ。出来る。だって安澄は、お母ちゃんの子でしょ!」
「夕方迎えに来る」

海辺に独り取り残された安澄は心を整理する。
長年の疑問が氷塊していく。
カニのお礼の手紙を書くのが、なぜ毎年自分だったのか。
カニが送られてくる日が、なぜ毎年4月25日だったのか。
お母ちゃんが将来の為に勉強しとけと言ったのが、なぜ"アレ"だったのか。

一方で、ビンタを食らった酒巻君江も、そのビンタの意味の、予想がつき始めていた。
店から出て、先程の客を探す。
君江は佇む安澄に歩み寄る。
君江はいつも仕事で使っている磁気ボードとペンを手に取ると、文字を書いて相手に向けた。

「もしかして安澄ちゃん?」

安澄は小さく頷く。

君江の感情がこぼれ出す。

"お母ちゃんの子"である安澄は逃げずに挨拶を始める。手話で。
「こんにちは」
「私の名前は、幸野安澄です」

驚く君江。
磁気ボードを脇に挟み、手話を返す。
「どうして手話を?」

母が、いつかきっと役に立つ時が来るから、勉強しときなさいって

感極まった君江の顔が感情に歪む。

二人はその後、迎えが来るまで語り合ったのでした。

病に弱り死が迫る双葉にとって、今回の一泊旅行は、非常に負担の掛かるもので、ついに倒れてしまうのですがまだ死ぬ訳にはいきません。話はまだ続きます。

海外でも高い評価を得た作品です。

『湯を沸かすほどの熱い愛』は沢山の伏線回収により物語のピースがハマっていく脚本の構成も良く、観て損はないと思います。

ブラマヨ吉田もメチャメチャ感動したそうです。