177話:運命の繋がり | 熱があるうちに

熱があるうちに

韓ドラ・シンイ-信義-の創作妄想小説(オリジナルキャラクターがヒロイン)を取り扱っています
必ず注意書きをお読みください
*ヨンとウンスのお話ではありません

 

我が生涯に一変の悔いなし!という、某キャラのポーズを取り落ちていく身体。
だが、いつになったら衝撃を受けるのだろうかと目を開けると真っ暗闇が広がっていた。
もしかして既に谷底に落ちて死亡してて地獄に到着しているとか。
よいしょっと立ち上がると、徐々に暗さに慣れた目で周囲を確認。

「え。祠?」

何故か裏山の祠の前にいた。どういうことだってばよ。
谷に落ちたはずなのに、いつの間にか天門をくぐっていたのだろうか。
底にも、時空の裂け目みたいな空間が広がっていた?
考えても埒があかないので、とりあえず実家に戻ることにした。
なんでだろう?と疑問が脳を占めて夜しか寝むれない。
次の日、支度をして再び祠に向かったが祠は静かにそこにあるだけで、しばらくそこに居ても何も起きる様子はなかった。

ウンスも百年前に行き、それから一年後に開いた天門を渡ったので、私も一年ほど待てば開くのだろうかと両親の遺品を整理しながら過ごす。
もし開いて向こうに行くことになればもう帰ってこない。ならばと東京のアパートを解約した。
そうして実家の中を片付けていると、食器の棚の奥に立てかけられた木の板を発見する。
東京へ行く前に、なんかお母さんが言ってたな、程度の記憶しかないのだけど。
木の板を外すと、通帳と印鑑、木の箱と宝石類が入った箱があった。
通帳と印鑑を家中探していたのに、こんな所にあったんかいと誰もいない部屋で一人ツッコむ。
通帳の残高で、寺に永代供養をお願いして宝石類はバッグに詰めた。
現金は向こうでは使えないが、宝石なら鑑定できる人がいればそれなりの値打ちがつくはずだ。

「これ、なんだろう?」

残った木の箱を振っても掠れた音がするだけ。
随分と古そうな箱を開けて、目を見開いた。

「嘘、でしょ…」

中にはボロボロで酷い状態であったが覚えている。
まだ記憶に新しいソレは、丸薬を入れていた袋だった。
袋の中には何も入っていなかったが、これはチェ・ヨンの姉ジウにお駄賃として渡した袋。

「待って…待って、どういうこと?」

向こうの世界の袋が何故、こちらの世界に存在するの。
それにこの袋がうちにあるということは、姉ジウと何かしらの関係があるということ。
韓国語で子守唄を歌う祖母の声を思い起こす。
チェ・ヨンの姉と知り合いか親類か、あるいは子孫ということ?
木の箱をひっくり返したりしても、何も書かれていないので答えは見つからない。
家中を改めて探しても、この家系のルーツなどの資料は出てこなかった。
また高麗へ行けば解ける謎なのだろうか。

そうしてボロボロの袋を崩さないよう透明プラスチックバッグに入れ、両親の位牌も持ち再び祠へ向かう。

「今度こそは開いてくれよ」

懐中電灯を消して月明かりの中、願い続けた。
カサカサと枯れ葉が動き、風が吹き始める。

「きた!」

祠に向けて光の渦が発生し、私はそこに飛び込んだのだった。

周囲は眩しいままで、一向に高麗の地を踏んだ気配がしない。まだ光の渦の中らしい。

「来たか」

その声に振り返ると吉●亮が立っていた。

「…………神?」
「そうだ」

こんな場所に登場する人物といえば自称神しかいない。雰囲気もそんな感じだし。
しかし前は佐●健の顔面だったのに、今回は●沢亮なのね。自由に変えられるって便利ですね。

「勝手にお前がそう認識しているだけだ」
「人の心を読まないでください」

なるほど。神の顔は誰にも認識できない尊い存在。
勝手に私の願望が顔面に反映されてしまうのね。それはそれで有り難い。拝んどこ。

「崇拝対象ではあるが、お前に拝まれてもな」
「その顔で冷たいお言葉。堪らん」
「顔は存分に見ても構わんが、時間がない。本題に入るぞ」

綺麗なご尊顔を凝視しつつ「どうぞ」と言えば、溜息をつかれた。

神の話によると、彼の奥さんが亡くなりその魂の欠片が流れ星となり私に落ちたらしい。なんとメルヘンな。
それが原因となり、ドラマと似た別の世界が作られた。
時は遡り、チェ・ヨンの姉ジウの子孫が誤って天門を抜けて、こちらの日本に住を移す。
そうして神の奥方の欠片は、母の中にいた私に入り運命が動き出したという。

「理解が追いつかない」

うちの母方がチェ・ヨンのお姉さんの血筋?
天門を抜けて日本に来て、私が生まれて私の中に神奥方の欠片がいる?
奥方が流れ星になったから世界が誕生し、チェ・ヨンの姉が登場した?

「????」

卵が先かニワトリが先かみたいな因果性みたいな?
私の誕生とこの世界がどのように始まったのかの話?

「おおよその繋がりは理解できただろ」
「そこは横に置いといて、」
「横に置くのか」
「後で回収しなくもない」
「そうか。それで?」
「その、…奥さんの欠片はお返しした方がいいですよね」

神が少し驚いたような表情をしたので、変なことを言ったかなと不安になった。

「返してくれるのか」
「そもそも、返せるんですか?」

借りてるもの?なので返さなければ借りパクと同じではないか。
すると神は私の前に立ち、いきなり私の鳩尾に手を突き刺した。

「うわぁ!?」

痛みはないし血は出ていないので物理的な接触ではないけど、事前に申請してください。
目を白黒させているうちに手は抜かれ、その中に光る珠があった。おそらくそれが奥方の欠片だろう。

「では、遠慮なく返してもらうぞ」

なんだか少し寂しい気もするが、彼の愛する人をずっと私が独占していては彼の方がつらい。

「いま来た道を引き返せばもとの現代に戻る。このまま進めばあの世界へ辿り着く」

あのチェ・ヨンが生きている世界に行けるのかと思うと、心が跳ねた。

「では、達者でな」
「ありがとうございました!」

深々と頭を下げてお礼を言う。
そして彼が待っているであろう光へ走ったのだった。



***



光の渦が消え、新緑の香りがする地へ降り立つ。はたして何年後だろうか。
おそるおそる例の大きな木の根本まで行き、ぐるりと見渡したが人の姿はなかった。
太陽の日差しが暑くて、かぶっている変装用のウィッグが熱を持つので外す。

「あっつ…」

木陰に入り涼んでいると突然、声を掛けられて驚いて振り返ると見知った顔があった。

「そんな所で呑気に座って、何をしているのかしら」

赤い衣をまとった火手引が見下ろしてくる。背後には千音子もいた。
私に話しかけたということは、知っている二人だと思っていいのだろうか。

「あれから、……何年、たったのかな?」

様子を窺うように尋ねてみると、答えはすんなりと返ってきた。

「六年よ、六年」
「既に医仙は一年前に戻ってきている」

詰めていた息を思いっきり吐き、緊張していた体を脱力させる。
ああ、よかった。知っている世界に戻ってこれた六年後だけど。

「あれからどうなったのか聞いてもいい?」
「いいけれど、場所を変えるわよ」

そうか。天門の付近は元から奪還しているから、高麗の近衛兵達がうろついているという本編の展開があった。
二人が生きていることは嬉しいが、まだ犯罪者として逃亡中なのだろうか。
崖を越えるため、私を担ごうとした千音子にストップをかける。

「そこは歩いて行ける場所にないの?」
「遠回りになるのだけど」

不貞腐れながらも私に合わせて回り道を歩いてくれる二人に、ワガママに付き合わせてごめんと謝った。
だって姫抱っこは恥ずかしいじゃん。

「六年経っても相変わらずね」
「あー…、私的には一年も経ってないので」

火手引姐さんに襟首を捕まれて顔を覗き込まれるが、六年経過しても姐さんは綺麗ですよと言ったのにキレられる。
女性にとって歳をとるということの重みは分かるが、私に八つ当たりしても過ぎた時間は戻らない。

この世界と天門の向こうでは時の流れが違うと説明したが、理解してくれたのかどうか分からないが「あ、そう」でその話は終了した。
緩やかな斜面を登り獣道を草木を掛け分けて歩き、千音子の手を借りて岩を登った先に小屋が見える。
二人はここで生活をしているという。ちょうど天門が眼下にあるらしい。

「あれ…?」

彼の手を握った時に違和感を覚えて手を開いては閉じてを繰り返しても分からず、先を行った彼の腕を捕まえてみた。
思わぬ行動で驚いた千音子は避けることもできず、しかしすぐに私の手を払う。

「ごめん、確認させて」

おかしいな、手を握っても【気】を感じない。
千音子の腕を捕らえようとするも、相手は身をひるがえし掴ませてくれない。

「何してんの」

火手引は可笑しな動きをしている両者をみて、腰に手を当てて小屋の扉を開けたまま待っていた。
彼を捕まえるのを諦めて、周囲の【気】を感じようと集中しても全く【気】がつかめない。

「……嘘でしょ?」

現代に戻ったからリセットされたのか?

「千音子、剣でちょっと斬って」

驚愕しつつ訝しげに睨む千音子。

「ここ、ここをちょこーっとだけね。血を確認したいの」

切ってもあまり支障がなさそうな左の中指の腹を指して懇願すると、意図を察してくれた彼が剣の刃を少しだけ出して指に当て滑らせると、チリっとした痛みと共に赤い線ができた。
一滴、一滴と土に赤が染みていくのを観察しても、ただ痛いだけ。

「申し訳ないけど、舐めてもらってもいいかな…」

本当に申し訳ない。血を自身で舐めても、何の効果は得られないのだ。
千音子が困惑したまま赤を見詰めているうちに、大股で近づいてきた火手引が私の腕をむんずと掴んで、彼女の妖艶な紅で縁取られた口の中に指が入っていく。

「う、うわぁ……」

その行為に羞恥が勝り、痛みなどぶっ飛んだ。
しかし火手引の整った眉が歪められ、掴まれていた腕を払われる。

「甘くない」

血に糖分が含まれていたらやばいでしょ。
そういえば私の血を舐めて甘いと誰かが言っていた気がしたが、内功の使い手にはそう感じていたのだろうか。

「体調とか、回復しない?」

少々歩いて登っただけでは体調に変化など起きないし、血で回復するような怪我も負っていないので効果の程は定かではないが、使い手である彼らなら何かしら感じ取ってくれるかと期待をしたのだが。

「普通の血じゃないの」

彼女の返答に呆然とする。
この世界に来てスキルがついたと喜び、みんなを助けられると分けていた血。
それらがすべて無かったことになっている。

「平凡なただの人間…」

集中して私の【気】を探っていたような素振りをみせていた千音子から漏れた言葉に、頭を殴られた気分になった。

「あんた、誰よ」

火手引から疑念の眼差しを向けられる。
私は絶望に押しつぶされて、目の前が真っ暗になったのだった。