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日本シーレーン問題研究会

近い将来「日本の生命線(含むシーレーン)」となる南太平洋、特にパプアニューギニア(PNG:Papua New Guinea)周辺の情報を先取りして分析し公開しています。

中国人民解放軍海軍(PLAN)の戦略
過去30年以上にわたって、中国海軍は独自の「近代化計画」に基づき、着実なる進化を遂げて来た。それは、1)再建期、2)躍進期前期、3)躍進期後期、4)完成期、5)2040年以降という5つの段階に分かれており、現在は、2)躍進期前期における「最終仕上げ段階」にある。つまり、第一列島線(朝鮮半島から沖縄、台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシアからシンガポールに至る線)の内側における制海権の確保、という段階だ。以下が、各段階における戦略目標である。

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1. 再建期(1982-2000 年)
中国沿岸海域の完全な防衛体制を整備 (→既に完了) 

2. 躍進期前期(2000-15 年)
第一列島線内部の制海権確保(海上・航空自衛隊を圧迫) 

3. 躍進期後期(2015-20 年)
第二列島線内部の制海権確保、空母による制空権の拡大 (日本の防衛ラインを突破。台湾海峡、マラッカ海峡の通行権を確保。中東からの石油ルートは遮断。パプアニューギニアは第二列島線に隣接)

4. 完成期(2020-40 年)
米海軍による太平洋、インド洋の独占的支配を阻止 (日本は、西太平洋上における通行権をも喪失。中国の影響力に対し、オーストラリアは独自で対抗出来ない) 

5. 2040 年以降
アメリカ海軍と対等な海軍建設 (西/南太平洋における独占的な権益支配体制を確立)  

(参考)アメリカ海軍情報局『China’s Navy 2007』    

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これを見るだけでも、現時点でアジア・太平洋地域における安全保障上の「最大の懸念」は、中国軍の拡張である事がよく判る。事実、英シンクタンク・国際戦略研究所(IISS)は、「戦略概観2011」の中で、「中国は(中略)領土や海洋権益をめぐって恫喝的な外交や行動を展開し、国際社会の常識に挑戦するのが日常茶飯事になった」と指摘 、記者会見したIISS 関係者は「(隣国との)軍事衝突に発展する可能性もある」と警鐘を鳴らした。  

このように、中国はマラッカ海峡周辺での資源調達ルートを構築する上で、軍事的緊張を高める事も辞さない覚悟のように見えるが、この一連の動きは、「真珠の首飾り」戦略(the string of pearls strategy)とされる措置によるものである。  

中国の「真珠の首飾り」戦略 
「真珠の首飾り」戦略とは、2005 年に米議会中国委員会への報告書の中で初めて取り上げられた概念であるが、元防衛庁防衛研究所主任研究官の上野英詞氏によると、『中東、ペルシャ湾から中国に至る1 万キロを超える長いシーレーン沿いに戦略的拠点を確保することを狙いとして、中国が展開している一連の外交的、軍事的措置の総称』のことである 。

アメリカがすでにマラッカ海峡からペルシャ湾に至る海上覇権を確立していることから、中国はそれに対抗するための策として、中国沿岸から中東に至るシーレーンに沿っていくつもの拠点を作るという「真珠の首飾り」戦略を展開している 。

次回以降は、インド洋(パキスタン~ベンガル湾~アンダマン海)からマラッカ海峡を経て、南シナ海に至る広大な地域における中国の動きを検証する。 

(続く)


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太平洋地域に対する中国軍の海上覇権確立計画
かつてのパクス・ロマーナが「強国が弱国に押しつける平和」であり、それは「敵意のひそむ不安な統治状態」とみなされてきたことを思い起こすなら、アメリカが中東での戦争で国力を疲弊させ、危機的な財政問題に直面している今日、著しい経済成長を続ける中国の軍事力の急激な増強は、日本の資源政策においても極めて深刻な問題である。事実、中東での混乱を助長しただけに終わったイラク戦争やアフガン戦争の結果、「アジア太平洋に回帰する」としたアメリカは、最近では新たにシリア問題に拘泥し、しかもその主導権をロシアに奪われつつあり、また、長年「悪魔」と見なして来たイランとさえ、現実的な対話を始めざるを得なくなっている。これは、第二次大戦後に続いた「パクス・アメリカーナ」の終焉を予感させるものであり、この間隙を縫うようにして中国が一気呵成なる海洋進出を目指した事実は、ここ数年に限っても、誰に目にも明らかである。

かつて、経済的にも脆弱であった頃の中国外交の基本となっていたのは、鄧小平が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」という考え方であった。これは「能力を隠してひけらかさない」という意味であり、国力に限りがあった頃の中国としては、極めて現実的な選択肢であった。しかし特に近年、中国首脳部の考え方が大きく変化している。例えば、中国空軍の戴旭という大佐は、「韜光養晦の考え方が中国人の思考を萎縮させ、外交を弱気にさせている」と発言しており、「いかなる妥協もせず軍事力による解決も辞さない」という強硬論が軍部の間で強まっている。また2011 年6 月8 日、中国国家海洋局の劉賜貴(リウ・シーグイ)局長は「辛亥革命100 年・海洋強国振興学術交流会」において、「中国は海洋強国を目指す」と誓い、「中国が領有権を持つ海域の支配力を強化する」と宣言した。最近では、この種の「強硬発言」は軍部以外でもその数を増しており、いちいち指摘する事すら出来ないくらいだ。

1980 年代後半以降の中国における国防予算は、20 年連続で二桁増(08 年は17.6%増、日本を超えてアジア1位に)を実現しているが、中でも「中国人民解放軍海軍(PLAN)」増強の動きが顕著である。東南アジアなど周辺国の間では、いずれ中国海軍が南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾に至るシーレーンを確保し、太平洋地域における政治的影響力拡大と権益支配を目指すのではという声が強まっているが、この懸念は中国海軍の空母建造を伴うブルーウォーター・ネイビー(遠洋型海軍)化によって急速に現実味を帯びている。その過程で、南沙諸島や東シナ海の海洋資源開発が紛争の火種となる可能性も否めない。こうした中国の「南方政策」が周辺諸国との軋轢をもたらす可能性があるため、これらの海域におけるシーレーン確保は、エネルギー安全保障にとって重要なポイントである。   

石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)の供給をこの海上交通路(SLOCs)に依存しているのは、日本、韓国、そして台湾であるが、近い将来ここで中国海軍が圧倒的な優位性を構築し場合、「日本だけ」をターゲットにした石油および天然ガスの供給途絶が起きる可能性がゼロであるとは限らない。その心配は、昨今の尖閣諸島周辺における中国公船の活発かつアグレッシブな動きを見ても、決して絵空事ではないとだろう。

中国海軍は、今から約30年前の1982 年に海軍司令官・劉華清が「中国人民解放軍近代化計画」のなかで初めて、中国海軍の拡大における指標となる「第1 列島線」および「第2 列島線」の概念を示したが、1997 年に海軍司令に就任した石雲生が打ち出した「海軍発展戦略」では、この概念が一層強調され、その基本ラインはまったくぶれる事なく今日に至っており、中国海軍はその方針に従って粛々と南シナ海や日本周辺海域に対する圧力を強めているのだ。

次回は、そんな中国海軍の「発展戦略」における基本ラインを説明する。 

(続く)


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マラッカ海峡の問題点(地形、治安および安全保障)
マラッカ海峡の問題点の一つは、その「地形」である。同海峡には水深20m 以下の浅瀬もあり、航路幅は最狭部で600 メートルと極めて狭く、東京湾のレインボーブリッジと比べても3分の2程度しかない。その狭い海峡に、毎日数百隻もの船舶がひしめき合いながら航行しているため、そこは自然に「オイル・ロードの難所」となり、海難事故を含めた多くのリスクが存在している。のみならず、同海峡を年間に通過する船舶は劇的に増加し続けており、21 世紀初頭には年間9 万隻強であったが、2020 年には50%増の14 万隻以上に達すると見込まれている。この数字は、中国の記録的な経済成長をも考慮したものであるが、あくまで参考としてお考えいただきたいが、人口16億を抱えるアジアの経済成長が見込まれている今、この数字も決して荒唐無稽なものではないはずだ。

マラッカ海峡では、このようなおびただしい交通量に加え、物理的には狭く不規則な水深、また気象的には潮の干満と雨期における視界を遮るほどの豪雨に見舞われるという地理的特性が重なり、結果として船舶の衝突、座礁のリスクが非常に高くなっている。これらに船舶のさらなる大型化、高速化が加わる事で、マラッカ海峡における地形的リスクは、今後益々深刻なものとなるであろう事が予想される。「世界でもっとも危険な海峡の一つ」と言われる所以である。

1971 年、この航路の浅さや危険性の改善のため、日本の「マラッカ海峡協議会」が浅瀬の浚渫の可能性を検討したことがあったが、当時は冷戦下であり、ソ連海軍のインド洋への活発な進出を助長する可能性という軍事的リスクが指摘されたほか、浚渫で漁業が打撃を受けるおそれがあるとしてインドネシアやマレーシアが強硬に反対したことにより実現しなかったという経緯がある。   

マラッカ海峡における二つ目の問題点は「治安」である。その根源は、14 世紀から同海峡周辺に跋扈し、貧しい地元民らの伝統的な生業とされ続けて来た『海賊』の存在である。マラッカ海峡周辺には小さな島々が何千とあり、多くの河川が注ぎ込んでいる。そのため、今日でも海賊が隠れたり逃走したりするのには非常に適した環境となっている。この地域における海賊には、インドネシアからの独立を求めるGAM (自由アチェ運動)が関与していると見られており、2005 年8月にインドネシア政府との間で和平協定が結ばれたものの、逆に武装解除に伴う武器流出も懸念され、さらなる海賊事件の凶悪化を招く恐れもある 。  

近年は国際海事局(IMB)の主導によって監視体制が強化されたため、その数はかなり減少していると見られているが 、その継続性についてはいまだに確かでない。実際、上記の和平協定が結ばれ、また沿岸国が監視業務を強化した後においても海賊事件は引き続き発生しており、2006 年、ロンドンの保険組合「ロイズ」も、マラッカ海峡が保険対象としては戦争地域に準ずる危険度であると宣言している。

そして、三つ目も問題は「安全保障」に関するものである。実は、マラッカ海峡を巡る様々な環境の中にあって、これが今後最大のリスクとなっていくと考えられる。中でも一番懸念すべき問題が、南シナ海からミャンマー沖における中国人民解放軍海軍(中国海軍, PLAN)のプレゼンス強化とその影響力である。中国海軍は過去約20年近くにわたり、伝統的な沿海防衛型海軍から、ブルーウォーター・ネイビー(遠洋型海軍)への転換を第一目標として、軍の急速な現代化を図って来た。特に、1997 年に海軍司令に就任した石雲生が打ち出した「海軍発展戦略」では、『第一列島線』および『第二列島線』の概念が強調され、以後中国海軍はこの戦略に基づいて着実に拡大を続けて来たと言えるであろう。 

マラッカ海峡から南シナ海に至る石油輸送ルートは、中国海軍が2015 年までに制海権を確保し、域内覇権の確立を目指している『第一列島線』の内側に位置している。つまり、中国海軍がマラッカ海峡周辺での海上覇権を確立した場合、同海峡を通過する数多くの船舶による輸入に依存する日本は、たちまちその安定的存立を、中国海軍の動向如何によって左右される事になる。 

次の講座では、支配力を弱めるアメリカと、その間にも着実に進展している中国海軍の海上覇権確立計画について述べたい。

(続く)


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中国のエネルギー資源政策 
日本の資源政策を論じる際、そこに必ず大きな影響力を有しているのが、中国の動向である。中国もまた、アフリカ・中東における資源囲い込みによって得た物資を確実に運ぶため、インド洋からアジア、南太平洋にかけての海洋覇権の確立を目指している中国は、1979 年の改革開放以来、年平均 9%を超える経済成長を続けてきた結果、米国に次ぎ世界第 2 のエネルギー消費国となっている。

中国は世界第 5 位の産油国であるが、国内生産分だけでは需要をまかないきれず、遂に1993 年、石油純輸入国となり、2003 年には原油需要量も日本を抜き世界第 2 位となった。ここに来て、中国の経済成長にいよいよ翳りが見え始めたと一部で指摘されてはいるものの、同国のエネルギー需要は引き続き巨大であることに変わりはない。  中国は、こうした自国の経済発展を支えるための資源確保のため、独自のエネルギー安全保障戦略に基づき、東南アジアからインド洋、南太平洋地域におけるプレゼンスを急拡大させている。

南シナ海とインド洋での中国の活動は、中東からの石油ルートを確保するためでもあるが、同時にそれらの海域における資源探査と確保も当然視野に入っている。また、距離的にも近いために輸送コストの面でアフリカに勝る南太平洋地域においても、中国は政治外交・経済・軍事面における展開を急いでいる。  このような中国の動きに対し、ジョンズ・ホプキンス大学のケント・E・カルダー教授は、中国のエネルギー需要の増大が世界の需給バランスを圧迫し、結果としてエネルギー資源の確保のために周辺国との紛争が発生する可能性があると警告している 。  

日中両国共通のチョークポイント「マラッカ海峡」
シンガポールの南西に位置するマラッカ海峡は、太平洋(南シナ海)とインド洋(アンダマン海)を結ぶ主要航路の一つであり、石油資源のほとんどを中東に依存する日本にとっては、長らく国家の生命線ともいえる重要な海域であり続けた。実際、日本の輸入原油の8 割以上(世界の石油供給量の約1/3)がこの海峡を通って供給されており、世界貿易量の半分がこの海峡を通過する船舶によって輸送されている。

ペルシャ湾から日本までの最短の石油ルートは、このマラッカ海峡を通過するルートであり、当然ながら経済的にも最も効率が良い。一方、中国へ輸入される石油もまた、その80%がマラッカ海峡を通過して運ばれている。中国の胡錦濤・前国家主席は、この地政学的な戦略的脆弱性を「マラッカ・ジレンマ」と呼んでおり、この海峡は日中両国共通のチョークポイントである。

では、なぜこの海峡が日本にとって「国家の生命線」の一つとされ、中国にとっては「ジレンマ」と呼ばれて来たのだろうか?次の講座では、このマラッカ海峡が持つ特有のクリティカルな問題点について述べていきたい。

(続く)


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「国家の生命線」=「シーレーン(SLOCs)」とは?
Wikipediaによると、シーレーンとは「一国の通商上・戦略上、重要な価値を有し、有事に際して確保すべき海上交通路」とされており、英語では「Sea Lines of Communication」、略して「SLOCs」と呼ばれている。

世界第7位の排他的経済水域面積を保有する日本は、四方を海に囲まれ、国土の約80%を山岳地帯が占め、高度に産業やインフラが発達した狭い都市部を中心に人口が1億人以上居住するにもかかわらず、エネルギー等の地下資源に乏しい。日本はこの地下資源の少なさのため、海外から各種資源を購入してきたが、その供給を支えているのがこの「シーレーン」なのである。

石油や天然ガス、ウランなどのエネルギー資源を見ても、その海外依存度はほぼ100%であり、食糧自給率が常に40%程度しかない我が国の事である。つまり、もしこのシーレーンが遮断されたり、妨害されたりすると、日本国内におけるガソリンやその他エネルギー価格は暴騰し、最悪の場合には車も列車も動かなくなり、停電が発生し、国民生活は壊滅的な打撃を受ける事となる。もちろん、食糧価格も暴騰し、職を失って路頭に迷う人々も多く出るだろう。ここが「シーレーン」が「国家の生命線」といわれる所以である。

日本のシーレーンと石油消費量
現在、日本は石油の99.6%を海外に依存しており、年間約2億バレルの石油を輸入している。その1日あたりの石油消費量は、米国、中国に次いで第3 位(約445 万)バレルとなっている。つまり、30 万トンクラスのタンカーの積載量が200~220 万バレルと換算すると、日本は毎日、タンカー約2~2.5 隻分の原油を消費している計算になり、今後もこの供給量は維持されなければならない。

日本が石油の大半を依存しているのは中東である。そして、その入り口に位置するペルシャ湾から日本周辺までは約12,000km 離れており、石油タンカーの航海日数は、往復で約50 日とされている。そんな中東から日本への石油ルートには主に、「マラッカ-バシー両海峡」を経由するルートと「ロンボック-マカッサル両海峡」を経由するルートの2つがあるが、これらの地域はいずれも日本の経済的安定と存立に欠く事の出来ない、戦略的に重要なチョークポイント(隘路)である。

東アジアの経済成長に伴い、海上輸送量が増加するに連れて、チョークポイントに関する安全保障問題はさらに重要性を高めて来るだろう。しかし、日本にとっての問題は、この日本向けシーレーンの多くが、「中国のシーレーン」と大きく重なるという事である。つまり、このシーレーン上における覇権争いが発生し、日本の対応が遅れた場合、中国は日本への資源供給量を自在にコントロール出来ることになるのだ。

次の回では、そんな中国にとってのシーレーンの需要性について述べていきたい。

(続く)


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