日本シーレーン問題研究会 -12ページ目

日本シーレーン問題研究会

近い将来「日本の生命線(含むシーレーン)」となる南太平洋、特にパプアニューギニア(PNG:Papua New Guinea)周辺の情報を先取りして分析し公開しています。

それでも「クラ地峡構想」を諦めきれない中国
このような状況にもかかわらず、中国が引き続きクラ地峡の運河建設に大規模な資金提供まで行いたいとするオプションを放棄しない最大の理由は、南シナ海からインド洋に向けた自国の海軍艦艇の迅速な展開を可とする事にあるのではないだろうか。つまり、かつて英国海軍が構想したこの運河をもっとも必要としているのは、もはや英国海軍でも各国の商船隊でもなく、唯一中国海軍だけであろう。  

もしクラ地峡における運河建設が実現すれば、それは「パナマ運河建設と同じスケールのプロジェクトになるし、中国の海軍船と商船隊は、東アフリカから日本、朝鮮半島へと伸びる二つの大洋をつなぐ海洋ルートを手にすることになる」であろう 。さすれば、運河の両端の基地には、建設作業を通じて設営される大規模なインフラが、運河完成後も中国の軍事、経済基盤として残置され、中国は当然ながら、その影響力の維持、強化を図っていくものと想像される。   

おそらく中国は、クラ地峡に建設する運河が演じる役割として、米海軍におけるパナマ運河のそれを期待しているのかも知れない。現時点でマラッカ海峡を支配するのが米海軍である以上、マラッカ・ジレンマの言葉通り、この海峡は中国にとっても常に自国の海洋権益を脅かす戦略的チョークポイントである。そのため、中国は自国が完全支配を築けるチョークポイントとして、クラ地峡の運河に着目しているのであろう。  

これらの事から、クラ地峡における運河建設はコスト的にもそれほどのメリットがあるとは言えず、少なくとも日本にとって安全保障上の理由から支持推進すべきものではない。つまり日本は、1971年にソ連軍に対する軍事上の懸念を考慮してマラッカ海峡の浚渫を断念したのと同様の理由で、クラ地峡における運河建設の動きを注意深く冷静にウォッチしていく必要がある。 

インドの反応 
こうした一連の中国の動きに神経を尖らせているのがインドである。上記の「真珠の数珠繋ぎ」戦略とされる中国の動きを地図上で示すと、インドは完全に包囲された形になっている。実際、インドはその事をよく認識しており、スリランカにおける中国主導のハンバントタの港湾施設に対し、「真珠の数珠」戦略の一環としてインドを包囲しようとするものだとして警戒感を表した。 

中国は港湾建設に協力するなどしてインド周辺国に着々と拠点を築く以外にも、モルディブ、モーリシャス、セーシェルなどと政治外交上の絆を深め、インド洋での政治的・経済的・軍事的のプレゼンスを高めようとしている。そんな中国の野心を抑え込む苦肉の策として、インドは自国の海軍を使って中国の船舶を守るという案すら検討している。

もちろん、このような案はインドにとって本気とも現実的とは思えないが、インドは現在進行形で急成長している超大国であるが、同時に隣で急成長する中国の存在をかなり意識して自国の安全保障政策を決定せざるを得ない。例えばインド軍は、インド洋東端のアンダマン、ニコバル諸島に戦略的な統合部隊を配備しているが、中国軍はその直ぐ近くのミャンマー領ココ島に海軍基地や電子情報傍受施設を設置するなどして対抗し、インド軍の動きを封じんとしている。

インドが核兵器を開発した際には、長年のライバルであるパキスタンへの抑止力以上に、中国への対抗手段という意味合いが強いと述べたインド人政治家もいたというが 、それもあながち嘘ではないだろう。インドという国は、外交・軍事政策から内政政策まで何でも即決出来る一党独裁の中国とは違い、何事を決めるにも多少の時間を要する民主主義の国であるため、どうしても中国より動きが数歩遅れざるを得ず、中国はそのスローな政治的間隙を縫う形でインド洋に展開し、「真珠の数珠」でもってインドの首を少しずつ締め始めているのである。

(続く)


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クラ地峡運河建設構想とその戦略的意味合い
中国の強硬な海洋進出に伴い、日本が最も恐れるのは、中国艦隊による南シナ海の覇権確立と、マラッカ海峡から南シナ海周辺における商船隊に対する航行妨害である。一方、同地域において中国がもっとも恐れる事態は、台湾有事等に際し、米艦隊によって実施されるであろうマラッカ海峡の封鎖と、石油ルートの遮断だ。中国の南シナ海からインド洋、ホルムズ海峡に至るまでの「真珠の首飾り戦略」は、このチョークポイントの脆弱性を軽減するための措置である、とも言えるであろう。そこで中国が目をつけているのが、タイ国にあるクラ地峡(Kra Isthmus)である。 

クラ地峡とは、東のシャム湾と西のアンダマン海に挟まれる形でマレー半島の最狭部を形成している陸地(地峡)一帯のことである。近年、タイは自国領土であるこの狭い地域に新たにパナマにおけるような「運河」を建設することで、商船隊が狭くて危険なマラッカ海峡に極度に依存する必要をなくそうとする計画が立てられている。この「クラ地峡運河建設構想」に対しては、当事者国であるタイの他、マラッカ・ジレンマに悩む中国が積極的に支持しており、タイに対して、予想される巨額の建設費の一部を分担する意向を表明したとされる。

クラ地峡に運河を通す考えが最初に立てられたのは、十九世紀にさかのぼる。当時、インドで発生した「セポイの乱」鎮圧のため、香港を拠点としていた英国艦隊を現場に急行させる近道として、その開発が想定されたのである。この計画は実現こそしなかったが、ここに運河を作る事によって、商船隊は960 キロもの距離を短縮する事が出来、現在の高速タンカーであれば、インド洋から直接、シャム湾を経由し、太平洋へと続く南シナ海まで、約1 日程度早く到達する事が出来るのである。  もちろん、その事によって燃料代が相当軽減されるのは言うまでもない。

タイのプリンス・オブ・ソンクラ大学の専門家らによると、クラ地峡における運河建設の利点は、 距離の短縮以外にもいくつか存在する。まず、タイ国内はマラッカ海峡沿岸地域より政治的に安定しており、運河航行中は海賊に遭うこともない事から、上述した「治安」の問題が解消されること。また、これはタイ国内の問題であるが、環境面でも洪水対策としての意義があると同時に、タイ中央部及び北部に比べて発展の遅れた南部の開発が促進される、という (ただし、南部のイスラム系少数民族の分離独立運動が活発化する恐れも指摘されている)。  また、当然ながら、この運河は大型タンカーが航行可能な水深と水路幅を確保するため、商船隊が恐れる「地形」の問題もクリアされる。

しかし一方で、この運河の最大の問題は、その巨額の建設コストである。それよりも、インド洋とシャム湾の両岸にタンカー接岸用の港を置き、石油パイプラインを通すことで、中東からアジアへの原油運送コストを1 バレルあたり0.5 ドル圧縮することができるという試算もある。また、タイ内外の華僑は、クラ地峡における運河開通によって東南アジア経済の牽引役となっているシンガポールの重要性が薄まるとして、この計画には賛成していない。 

つまり、クラ地峡に運河を建設することは、この大プロジェクトによって副次的な経済効果を得られる当事国のタイやミャンマーを除けば、徒に数兆円規模に及ぶ巨額のコストをかけて、アジアの金融センターたるシンガポールを衰退に追い込む結果を導くだけであると言える。

それに比べれば、上記パイプライン建設の案の方がまだ少しは現実的であるし(ただしシンガポールの衰退は防ぎ得ないが)、むしろそこまでコストをかけずとも、従来から日本が主張し続けているように、マラッカ海峡に船舶航行安全システム(VTS)センターを設置し、電子ハイウェー(MEH)システムとレーダー監視システムを導入して、沿岸国と共同で一層の船舶航行の安全を図る方が、コスト的にもはるかに現実的であり、シンガポールの機能を維持出来るはずである。このあたりの事情は中国にとってもそれほど大差ないはずであろう。

(続く)


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実力行使に出る中国海軍
前回で紹介したフィリピン軍幹部らによる発言等、周辺国から中国に対して向けられる様々な「政治的けん制「は、実際のところ、中国に対してはほとんど効果をもたらさないようである。件のフィリピン軍幹部の発言の7 日後、中国側は新華社通信傘下の『国際先駆導報』に所属する特約軍事観察員・海韜(ハイ・タオ)氏のコラムとして、「中国のスプラトリー諸島(南沙諸島)支配権が東南アジア諸国により脅かされている」と警告した上で、「中国海軍艦艇の派遣など軍事力も含めた強い態度を見せるべきだ」と主張した。   この主張は、早速実際の中国海軍の行動に現れ始めた。2010 年7月には、中国海軍の南海、東海、北海の3 個艦隊が南沙諸島周辺で大規模合同軍事演習を実施し、11 月には海軍陸戦隊が上陸演習を行った。

2011 年になってもこの動きは止まらず、2 月25 日、南沙諸島のジャクソン環礁で中国海軍フリゲート「東莞」がフィリピン漁船3 隻に威嚇射撃を受け、5 月には中国艦船がイロコイ・パラワン島沖のイロコイ礁付近に杭とブイを設置、フィリピン外務省が抗議し、中国大使館に詳細な説明を求めた。同海域では引き続き中国海軍の活動も同時に確認されており、フィリピン政府は重大な懸念を表明した 。5 月26 日には、ベトナムのフーイエン省沖合(西沙諸島と南沙諸島の周辺海域) で、 中国監視船3 隻がベトナム国営石油会社の探査船『ビンミン02 号』の活動を妨害し、調査用ケーブルを切断するという事態も発生している。これに対し、ベトナム海軍は同海域において実弾射撃演習を実施した。   

このような状況の最中の6 月5 日、中国の梁光烈国防相は、シンガポールで英国国際戦略研究所(IISS)などが主催した「第10 回アジア安全保障会議」(シャングリラ対話)に初めて出席、「中国は平和的発展と地域の安定を追求する」との趣旨で演説したが、出席国から言行不一致を指摘される結果となった 。そして、その直後の9 日、ベトナム国営石油会社がチャーターした探査船バイキングII 号の調査用ケーブルを「中国漁船」が切断するという事件が起こった。

 一方、今度はフィリピンの国会議員数名が、スプラトリー諸島の中業島に上陸し(7 月20 日)、フィリピンの国旗を立てる事案が発生。 また、7 月31 日付のフィリピン紙『フィリピンスター』によると、同国海軍が昨年5 月より南沙諸島のフラット島(中国名:費信島)に建設していた星型の軍事施設が間もなく完成すると報じ、付近の海域を巡視する同国海軍に対して悪天候時の退避港を提供したと報じた。このあたりは、日本の尖閣周辺で現在起こりつつある状況と極めて似ていると言える。

これら一連の動きは、2年以上前のものであるが、中国の実力行使を伴う妨害活動等に対しては、沿岸国は共同ではなく、それぞれ独自に対抗しようとしているため、いずれも効果的な海洋安全保障体制の構築を果たす事が出来ないでいる。これは、一面では強引な権益拡大政策路線をとる中国に対し、諸外国の反発を招くという形にも見えるが、しかしそもそも海軍力の展開は物理的のみならず、同時に「政治的プレゼンス」という意味合いを持つものであり、ミリタリーバランスの点のみならず、これらの地域における政治力においても、中国は引き続き圧倒的に優位である。 

次回は、「マラッカ・ジレンマ」に悩む中国が、そのジレンマ解消のため、タイ南部でその建設を検討している「クラ地峡」について検証する。

(続く)


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南シナ海における中国軍 
マラッカ海峡を東に抜けた南シナ海周辺でも、中国の活動は近年著しく活発化、先鋭化している。南シナ海は、石油・天然ガスが豊富に埋蔵されており、その原油埋蔵量は約70 億バレル(米エネルギー省)から最大で2130 億バレル(中国政府)と見られている 。この海域は、日本商船隊の主要な航路であるが、13 億人もの国民を食べさせなければならない中国にとっても海上輸送の戦略要衝であり、エネルギー資源の潜在性から、その権益を絶対に確保しておきたい場所でもある。  

この地域において中国は長年、周辺国との小規模な軍事的紛争を繰り返し、強引な手法による領土拡張意欲を明確にして来た。しかし、この地域の問題点は、中国をのぞく沿岸国同士の間でも互いに領有権問題が存在している事である。例えば、スプラトリー諸島(南沙諸島)をめぐっては7 カ国が領有権を主張し合っており、中国の著しい進出に対して各国とも共通した懸念を有するにもかかわらず、その足並みは揃っていない。そのため、中国はその混乱に乗じる形で自国の権益を大々的に主張し始めている。事実、中国国家海洋局はホームページ上で南シナ海について、「中国とほかの小国との領土問題であり、十分な軍事力を見せつけて、領土問題を有利に進めなければならない」と主張している。   

「三沙市」の設定
 2007 年11 月、中国政府は、中沙、南沙、西沙の諸島群すべてを含む南シナ海の大部分を、中国海南省の行政区「三沙市」に指定、周辺国に深刻な懸念を与えた。この三沙市は、スプラトリー諸島(南沙諸島)の他、パラセル諸島(西沙諸島)、中沙諸島にある260 の島やさんご礁、干礁などで構成され、東西900 キロ、南北1800 キロ、総面積200 万平方キロ(領海含む)に及ぶ広大な行政区域となる。これは、中国の総陸地面積(960 万平方キロ)の21%に相当する 。これと同時に、中国海軍は海南島を根拠地とする核ミサイル搭載潜水艦の配備数を増やし、南シナ海におけるミサイル演習などを実施している。  

周辺国の反発と中国の反応
この三沙市設定の動きに対し、ベトナムでは「中華人民共和国の覇権主義反対」を掲げ、中国大使館に対する大規模な抗議行動が発生した 。 一方、フィリピン議会は2009 年2 月、新たに可決した領海確定法案で、中国も領有権を主張しているスプラトリー諸島の一部領有を確認。これを受けて、パガサ島を含む9 つの島からなるカラヤーン諸島(Kalayaan Islands Group)に展開するフィリピン空軍第570 混成戦術連隊司令官Roy Deveraturda は「軍事超大国である中国が武力による示威活動に及ぶことはあり得ない」と中国側をけん制した。  

(続く)

あと少しで3位です。
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インド洋周辺における中国軍(パキスタン~ベンガル湾~アンダマン海まで) 
インド洋はマラッカ海峡の西の入口であり、日本にとって最大の石油輸送ルートでもあるが、中国にとっても事情は全く同じである。そのため中国は特にインド洋周辺における影響力を重視しており、パキスタンからベンガル湾、アンダマン海に至るインド洋周辺における中国の活動は活発である。  

(パキスタン・バルチスタン地方)
 いくつかの例を挙げると、まず中国はパキスタンに多額の援助を行う事で、インド洋に面したバルチスタン地方の戦略的要衝グワダール港を開発し、現在海軍艦艇を駐留させている。この港は水深が深く、大型船舶の停泊が可能なため、将来は中央アジアの石油やガスの積出港として機能する事になるであろう 。このグワダール港を抑えることにより、中国はペルシャ湾の出入り口のホルムズ海峡を通る船舶を全てチェックできると同時に、バルチスタンのマクラン海岸線からインド洋にかけて活動する米海軍をはじめ、湾岸、中央アジア地域で活動する米軍の通信を傍受できることになる。   

(スリランカ) 
スリランカでは、南部のハンバントタ港湾整備に、中国は15 億ドルを融資し、その一部はすでに完成している(全部の完成予定は2022 年)。中国当局はハンバントタ港の利用目的を商業のみと主張するが、中国は同時にスリランカに各種兵器を供給しており、その規模や地政学的な関係から、将来中国海軍艦艇が同港を恒常的に使用することになっても不思議はない。  

(バングラディシュ)
 中国は、バングラディシュのチッタゴンにも港湾を建設中であることが確認されている。チッタゴン港は、コルノフリ川の河口から内陸に遡ったところにある天然の深水港であり、中国に主導によって、今の三倍の規模に拡張される予定である。80 年代には、中国海軍の遠洋航海艦隊が寄港した事もある。近年、周辺では中国海軍とバングラディッシュ海軍との合同演習も行われている。  

(ミャンマー) 
ミャンマーにおける中国の活動も活発である。アンダマン海にある大ココ島に海洋偵察・電子情報ステーションを建設し、小ココ島に軍事基地を建設している。また、同国のベンガル湾に面するシトウェには深海港を建設しており、そこからマラッカ海峡を通らず、石油をミャンマーから陸伝いに雲南省へ運ぶパイプラインも建設されている。 このパイプラインのガス輸送量は年間120 億立方㍍に達する。 このシットゥエは、ベンガル湾をはさんでインドの大都市カルカッタまで約500 キロのところにあり、中国軍はここに新設した信号傍受施設によって、インド当局の動向を探れるようになった。

このように中国はインド洋周辺諸国に対する港湾建設等を積極的に引き受ける代わりに、各所に海軍部隊を配置する事で、同地域における軍事的な優位を徐々に固め、ホムルズ海峡からマラッカ海峡にいたる監視能力や制海権を手中にする事で、自国に対する資源輸送ルートを強固なものとする計画である。これら中国の拠点は、まさに「真珠の首飾り」のようにインドを取り囲んでいるのである。 

次回は、南シナ海での中国の動きを検証する。

(続く)


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